受付嬢二年目編・13
「えっ、夜間勤務ですか?」
今日は破魔士が多い。昨日とはうってかわり、皆仕事を探しに受付の列にならんでいる。週の中頃を過ぎたせいでもあるが、外も涼しく快晴で仕事日和な今日はやる気も上がっているのだろう。
父もまた私の顔を見に朝一でハーレへと来ていたし、私からしてみれば恥ずかしいからいちいち来ないで欲しいというのが本音だが、親の元気な姿を見れたのが嬉しかったのも事実で、たまには私が受付で父の相手をするのも良いかななんて思ったり思わなかったり。
そんなことを呑気に考えていた時。
「ええ、やってもらおうと思って。ちょっとずつまた業務を覚えてもらうわね」
同じ頃に出勤した所長に後ろから肩を叩かれて、所長室へと呼ばれた私が昼過ぎに彼女の部屋へと訪れれば、言い渡されたのは初の夜間業務の仕事だった。
渡された夜間勤務についての業務内容が書かれた資料を、私はわなわなと肩を震えさせながら見つめる。
「い、いいんですかっ」
目玉が飛び出るのではないかと言うほど瞼を開けて、椅子の背もたれに身体を預けてお茶をのほほんと啜る所長へと私は食い気味に聞いた。一昨日ロックマンから聞かされた国からの防衛要請の話についてのこともついでに聞こうとしていたが、それどころではない。
夜間勤務と言えば少人数で所長やアルケスさんのいないハーレの夜を任される、いわば受付の仕事上最も信頼を必要とされる職務内容である。二年目に突入したとはいえまだ一年ほどしかここにいないわけなのだが、半年で破魔士の受付に座らせてもらえたのにも関わらず、夜間にまで進出させてもらえるとはこれ如何に。まだ自分自身早い気もするだけにとんでもなく戸惑っていると、所長が心配そうな顔でナナリー? と声を掛けてくる。
「まだ不安かしら?」
ハッ、いけない。
ゾゾさんのお仕事の極意その一を思い出すんだ。
『できる出来ないを考えるより先に、まずはやってみなければ何も始まらないということを頭に入れておくこと。尻込みしていたら進むものも進まないし、出来る事も出来ないままよ』
『ですがもし失敗してしまったら、どうすれば』
『あれよあれ、ほら失敗は成功の元って言うでしょ? はりきって失敗してきなさい!』
新人ゆえに任される仕事というのはある程度失敗しても挽回できるものが当てられるとは言うが、出来れば失敗はしたくないのが本音というところ。
不安は多少あれど、しかし所長がやってもよいと言うならば、私には拒否する理由もない。
「ああそうだわ、それともう一つ頼まれてくれる?」
「なんでしょうか?」
まだやりますと言ってはいないが、所長の中では承諾されたことになっているようだ。夜間と一緒の時期で申し訳ないんだけど、とすまなそうに断りを入れられる。
「ウォールヘルヌスの会場受付についてもらいたいと思っててね」
ん?
「ウォールヘルヌスの受付?」
と言われたような、いや聞き間違いではないだろうが、ウォールヘルヌスの受付とは……。
目が文字通り点になっていると、それを見た所長がアハハと可笑しそうに笑って次にゴホンと咳を出す。
「王国から正式に申し入れがあったのよ。うちから三人。誰に行ってもらおうかと思ってたんだけど、それぞれ魔法型が被らないほうが良いって言われたから、氷型ならナナリーで行かせようかと思って」
なんだそれは。
夜間勤務の話でもびっくりしたというのに、次から次へと新しい事がありすぎて、仕事を貰えるのは嬉しいしあることにこしたことはないけれど、どう収集をつければよいのか。
「その業務は、その、内容としてはどんなものに……」
「そうねぇ。うちの受付より魔法を使った作業が多いかもしれないわね。まぁでも、やることはたくさんあるわよ~?」
とりあえずどんなことをすればいいのかと具体的なことを聞き出そうとするも、それはそれで説明をすると長くなるからまた後日それについての資料を渡す、と言われて所長室から出される。
パタリと閉まった扉を見上げる。
「……」
頭に入れることがいっぱいだ。
夜間の資料を両手で握りしめながら所長室の扉を見つめて、私は廊下を歩いていった。




