受付嬢二年目編・8-2
「そういえばチーナと色が違うのね、これ」
「色は被らないほうが良いかなと」
ムゥと口をすぼめて用紙を見ていると、貝の飾りがついた腕輪をしているゾゾさんが、それを指差し私へ小首を傾げてきた。
彼女がつけている腕輪は旅行のお土産に皆(とはいっても受付で関わる人くらい)に買ってきたもので、ゾゾさんには緑色の貝殻がついた腕輪を献上していた。
ただのお土産と言えども女性陣には一人一人に合いそうなものを慎重に、色の系統が同じ物はあれど、皆に違う色の物をと選んでいる。
チーナは黄色味がある緑で、ゾゾさんの緑とは少し違っていた。
「貝といえば、海の向こう側にある国の人も参加するくらいだもの。優勝したら世界を救った勇者並に拝められるとは思うわよ」
「五年前はヴェスタヌ王国の人達が優勝しましたよね。新聞の一面を飾っていた覚えがあります」
「あー……ヴェスタヌは強いわよ~」
騎士団がある国があれば無い国もある。開催国になった国からはだいたいその国に騎士団がいれば一つの組として出場しているのが恒例だ。
五年前はヴェスタヌ王国で開かれたので、ヴェスタヌの騎士団が参加したそうなのだが、なんとその騎士団は自国での優勝をはたした。しかもその時だけでなく、その前の大会もヴェスタヌの人達が優勝をしている。
ヴェスタヌは魔法教育に特化している国だ。
魔法を教わるのは義務であり、魔法を教わらない子供がいないようにと制度や法律などの基盤がしっかりと作られている。
しかもドーラン王国魔法学校のようなところに国中の子供達が通っているらしく、教育の根本からして諸外国とは力の入れようが違っていた。
「ボリズリーがもう、凄かったし」
「ヴェスタヌのボリズリー……」
現代の崇高なる魔法使い百選に選ばれていた人だ。
「今回はドーランで開催されるし、っていうことはドーランの騎士団も絶対出るわよね」
「例にならえばそうですね。ああいう戦いを見るのって私好きです」
「ん?」
「どうしました?」
「ナナリーは出たくはないの? 騎士団が出るなら、ロックマン公爵子息も出るかもしれないのよ?」
「ああ、あんまり私は……」
二年目に入り私が奴を目の敵にしているのを何となく分かってもらえたのか、ロックマンと戦える機会が巡ってきたのかもしれないのにとゾゾさんが不思議そうにこちらを見てくる。
確かに闘争本能をかきたてる大きな大会だし、それに奴が出るとなれば負かすにはもってこいの場だ。
ロックマンをふにゃふにゃのけちょんけちょんにして千切ってもいで競技場の地面にポイ捨てしたいくらい、絶好の状況と舞台。
だが、そもそも二年目に入ったばかりのひよっこが、ハーレの顔としてそんな大舞台に立ちたい等とどの口が言えようか。
それだけではない。
「個人でしたらともかく、団体戦はちょっと。それにあいつが出るとも、私が出れるとも決まったわけではないですし」
氷型の人は少ないけれど、私の他にもハーレには氷型が何人かいる。
皆比べようがないくらい優秀な人達だ。出るならば当然先輩達だろう。
「ふーん」
「私としては今は魔法であいつを負かすより、仕事で高みを目指したいと言いましょうか」
まぁ機会があれば負かしたいけれども。
あいつを倒すのは私の夢でも目標でもなく、生きていく中でいつかは絶対に越えておきたいふてぶてしい山であり、下らなければならない谷なのだ。
そして『あばよ』と後ろを振り向きもせず颯爽と次の高い山を目指していきたい。
つらつらと文字を並べて自分でも何を言っているのかよく分からないが、つまりは今戦う気など全くないが闘争心は無限大にあるということを言いたい。
「天駆ける馬、ねぇ……」
窓の外、空の向こうへ消えていく天馬に乗った集団を見てゾゾさんが呟いた。
次話明日20時更新。




