紅羽のケジメ
これが私のケジメなんだ。
…ああ、千堂君もこんな思いをしたのかな。
いや、彼のことだから私以上に…そんなこともないか。
君は、私が思っていたより大人で、強かった。
…そうだね。
だからこそケジメがいる、私はそう思う。
…嫌だな。
正直怖いし、吐きそうなくらい辛いし、なにより涙が抑えられる自信がない。
私が言えたことじゃない。
けどこれしか思い浮かばなくて、
…やりたくない。
なのに私はやらなくちゃいけない。
これ以上考えたくない。
もう、許してほしい。
……はあ。
胸が痛いのは、返ってくる言葉がつらく怖いから。
お腹が痛いのは、からだを潰すような緊張が、空腹を応援して、めまいに似たものが私を襲う。
言え、私。
口を開け。
ちゃんと耳で味わえ。
そして今以上に苦しむんだ。
…そうしないと、私の気が収まらないから。
息を吸って、吐いて。
それを繰り返して、私の中の甘えをなくすんだ。
勇気の出る言葉も、傷つく心を癒してくれる言葉もいらない。
…だからお願い、私の気が済んで。
…だから、もう千堂君を好きにならないで。
だから、もしまた千堂君と一緒になって笑うことができたら…いいな。
「帰ろう」
千堂君は左手を差し出して穏やかな目をして微笑んだ。
温かさのあるその千堂君の手は、とても魅力的だった。
私もその手を取りたくて吸い込まれるように見つめた後、俯いた。
もっと見てしまえば、無意識にでも手を伸ばしてしまうだと悟ったから。
…私にはやるべきことがある。
だからまだその手は取れない。
「どうしたの」と聞かれるより早く口を開く。
「千堂くん待って」
私は顔を上げて千堂君をおどおどとした瞳孔でとらえる。
…やっぱり優しい顔。
でも、今はそうじゃなくて。
「千堂くん」
「お、お願いしたくて…」
はじめはびっくりしていた千堂君は私の声を聴いて安心したような、何とも言えない大人な表情になった。
…君だから言えてしまう。
「いいよ」
まだ何も告げてないのに了承した。
私はもう一度息を吸う。
そして、言葉にする。
「千堂くん」
一息に言ってしまえ。
私は私に命令する。
…多分これが最後だ。
「…私は今から君に告白します。………だからどうか、振ってください。」
もう、千堂君の目から逃げない。
言葉からも、空気さえも。
全部、吐いてしまえ。
「わ、私は千堂くんのことが好きです」
「付き合ってください…」
言った。
私は言った。
あとは…これから投げられる返事を受け止めるだけ、なんだ。
それでチャラにしたかった。
こんなのケジメにはならないかもしれない。
…けど、私にはこれでいいんだ。
引き延ばされた思考が永遠にも感じて、あたりが無音な事に気がついて、さらに私に沈黙が長く感じさせる。
目は瞑らないでいるし、涙もまだ出してない。
私にしては上出来だと思った。
そして千堂君はついに言った。
短く「…ずるいよ」と。
「僕は、その…古賀さんが好きだといった。いいました」
「…僕は古賀さんに家に帰ろうとも言った」
「……古賀さんは帰りたくないの?」
一瞬にして千堂君の顔はクシャリと歪んでしまった。
とめどなくあふれだしてくる言葉は、私がお願いしたものではなかった。
「…そんなことないよ」
弱弱しく答えるしかなかった。
私が悪いから。
私はまだ裁かれてない。
そんなことを考えていた。
「なら!帰ろうよ」
大きな声にびっくりした。
こんな大きな声を千堂君は持っていたと。
「なんで、…なんで古賀さんが自分を責めているのかわからない」
「それは…」
言いかけた。
でも遮られた。
「僕も古賀さんが好きだ!…悔しいくらい好き、です…なのに」
「ずるいよ」
今度は私の口から出た。
言ってから何が「ずるいよ」だ、と思った。
…でも、熱が入った私はそんなの構わず言った。
「…家族なのにって、壁を作ったのはお互い様なのに…」
もう、これから先は言わなかった。
千堂君も。
息を切らした私は自分が言ったことを後悔するが、それはどうしようもないことだった。
もう、家族じゃないといわれてしまえばそれまでだ。
だけどそれは嫌。
わがままな私は最後までわがままを通す。
じゃないと…仮面は何のために捨てたいのかわからなくなってしまうから。
…もう、仮面なんて言えるものはないのかも。
なんてのも思った。
仮面とその下の素顔がごちゃごちゃになっている気がしたから。
今はそんなことを考えるべきじゃないとわかってはいてもなかなか息が整はない。
…不意に、千堂君と目が合った。
私はすぐ目をそらしたけれど、千堂君はずっと私を強く見ている。
次の言葉は出てこない。
早くなんかないかと悩んだ。
先に口を開いたのは千堂君だった。
「…母さんには思いやりが大事だと聞いて、僕もそれはそうだと思った」
「でも、……古賀さんが嫌なら…殴ってもいいから」
そう言い終えた千堂君はとても男らしく目に映った。
だんだんと私に近づいてきて、私にぶつかる寸前で立ち止まった。
…ここまでこれば私にも先が分かる。
ああ、もう強がるのはいいか。
そう思って、私はわがままを通した。
顔と顔が触れそうな距離で、そっと私は瞼を閉じた。
…なんだろう。
…こんなはずじゃなかったのに。
できるだけ早く次更新します。




