「帰ろう」
知らない土地で、僕は歩みを止めなかった。
自転車は背後の自動販売機の前にほったらかしになってしまう。
でも、今はそんなことどうでもよくて、公園の入り口にあるポールの脇を抜ける。
右でも左でも、俯いたり、天を仰いだりもしたいけれど、今はこの一歩、次の一歩を踏みしめて、絶対に古賀さんからは目を背けなかった。
次の一歩でまた、古賀さんに近づいて、また次の一歩でもっと古賀さんに近づく。
軽くなったはずの、あなたへの一歩がどんどん、近づけば近づくほどに重いよ。
この暗闇が、重力を表しているとして、僕が前に進む以外の選択肢を捨てて、いつ気づいてもらえるかわからなくて、それでも前に進む時間が、…怖い。
まだ気づいてもらえてない。
…良かったと思う感情と、早く気づいてという気持ちが重なって…自棄になったわけじゃない。
けど、確かに、早く古賀さんと僕達の家に帰りたいって思いが勝った。
それは必然なのかもしれない、…僕にとっては。
「…古賀さん」
たったそれだけ。
それだけで、古賀さんがこちらに向いた。
…名前を呼ぶだけだとか、自分でもそれはそれで、よかったかだとか、気づかれてしまっただとか、うう、やるしかないないだとか、いろいろな葛藤はまだあるけれど、
本当の気持ちはもう、自分の中ではすでに決まっていた。
古賀さんは、一瞬ビクつかせた。
メッセージを送ってから、あまりにも時間がなかったからだと思う。
スポーツ漫画でありがちなボールを持ってから投げるまでの思考の時間が異様に長いように、今の僕はまさにそれだろう。
長く、ただ長い時間悩んでいたわけじゃない。
だから、
…さあ、
次の言葉も口にするんだ。
胸の鼓動をできる限り抑えて、強く握った掌には爪の跡がつく。
気にするんじゃない。
今は集中するんだ。
にじむ手汗をそのままに立ち止まって、精一杯頭を下げた。
「古賀さん、ごめんなさい」
…それだけじゃない。
「古賀さん…帰ろう、お家に」
許されるはずはないし、これが古賀さんを思いやれているかは自信がないけれど、僕はこれでいいと思った。
けして古賀さんを軽んじているんじゃない。
…僕は、どうあっても、どうなろうともまずは、お家に帰るのが先だと思っただけ。
悪いのは僕だ。
…でも、これは何よりも大切だと思う。
家族として。
思いやりの第一歩として。
今度は誓いを守れるように。
しばらくの間から聞こえたのは古賀さんの声。
もう、何週間も聞いていなかったように思えた。
この声を探していたと思った。
…
「…い、今は帰れません」
どこか、ばつが悪そうな顔をして。
投稿が遅くなったことをお詫びします。
ですが、テスト渦から抜け出したのが数日前でしたので、なにとぞご容赦ください。




