本当に望んだ答えは
白を基調とした部屋は、ベットに机,本棚がそれぞれ一つ。目立ったものは無く、ただよく整頓されているだけの部屋。しかし、机の上に一つ青色のクマの置物があった。
隣の部屋にも色違いのものがある。
流行りでも、人気でもないのに、なぜか。
置き方といい、配置といい、それは、彼らにとって大切なもののように思えて仕方がなかった。
だけど真也は、それを眺めながら言葉を吐いた。寂しそうに、震えた声で。
「古賀さん…まだ、帰ってきてないのかな」
ベットの上の片隅で俯いて、布団を深くかぶる。固く目を瞑ったはずなのに、露出した瞼を照らす照明は、気分とは反対にうるさいくらいに明るく、熱を感じる。
…いや、この熱は、きっと照明のせいじゃない。
ポトリと何かが布団を湿らせる。
ああ、これだ。
こいつのせいだ。
わかった。わかったけれど…その゛何か゛はもう、止まってくれそうにない。
一度流れ出した゛何か゛は頬を伝って流れ続けて、溜めていたバケツの水をひっくり返したかのように勢いを増して、だれにも止められずに、ただ、自然に止まるのを待った。
…僕は、僕には、事実を受け止める覚悟が足りなかったのかもしれない。
と、そればかりを何度も呟いた。
事実と言うのは残酷とよく言われるけれど、幸福に感じたり、憤りを覚えることもある。もっと広げよう、哀愁に、切実に、理性的に。歓喜に、軽薄に、本能的に。
どれも、事実から生まれる感情だ。
どれもが、残酷なのではない。
どれもが、覚悟が必要なだけだ。
事実を受け止めれば、…少し考えてみればわかる事だった。
覚悟をしていたとは、構えていたものを受け止めて初めて覚悟があったと言う。
だけど、それに気が付くのが、ちょっと遅かったみたいだ。
構えていたものは、案外重くて、強がりが押しつぶされそうになるくらい大きくて、易しいものじゃない。
「……」
それが、身に染みて分かっただけだったんだ。
※
目を泳がせていた古賀さんは、僕と目と会い一瞬酷くびっくりしたように見えたが、それもすぐにおさまった。
数舜、考えるそぶりをした後、俯いて、言葉を発した。
たぶん、風が二人の間を通るのと同じタイミングだったのだろう。
「 」
それだけを言い残して、目尻に浮かべた涙を拭いながら古賀さんは走り去った。
眩暈と同時に、力が抜けていくのが分かった。
どこかで期待している自分が居たのかもしれない。
言葉への理解が追い付かないわけでもない。
ただ、段々と言葉が痛みをとっもなって芯まで響いていく。
どんどん、小さくなっていくその背中を追いかけようと手を伸ばしても、手が、全身が、重すぎて立っていられなかった。
走り出すつもりだった右足が、力なく崩れてそれからゆっくりと体が地に打ち付けられた。
仰向けになって、視界に入ってくるはずの夕空は、色を失くした。
さっきまで見ていたはずの風景は、どうしても別のもののように目に映った。
一瞬にして、長い時間に感じたからなのか、景色は変わらなかったが、空虚な思いが僕の心の中を占領し瞳に宿った輝きが一変するには充分だった。
その時、今までの静寂が破られた。
吹奏楽部の金管楽器が地面を転ぶかのように吹かれ、その音に追い立てられるかのように烏が鳴きながら飛び去り、木々が囁くように風に揺れ、まるでその音だけを強調したかのようで、反対に後からは何も聞こえて来やしなかった。
「…まだ、部活終ってなかったんだ」
誰かが隣にいるわけでもなく、そう誰かに相槌を打って欲しいかのようにそうこぼした。
これは無意識。言ってから気づいた。
今まであった日常が、少しずつ作り上げてきた当たり前が、儚く、呆気ないほどに脆いと、噛みしめて。
決心した想いはどこへ行ったのやら…。
もはや、他人事のように思えてくるこの痛みは、…苦しみは、生まれて初めて体感した。
古賀さんのあの涙は何だったのか。
原因が自分であることは間違いない。
もしかしたら、僕が怖かったのかもしれない。
いきなり迫られて、全く引く気が無くて…泣かせてしまうほどに。
もしかしたら、…いや、自分勝手なのはわかっていたはずだ。
でもその結果が、古賀さんを泣かせてしまったのであれば…僕は、僕は、何のためにここまで勇気を振り絞ったんだ…………
これまで受けてきた虐めが可愛いと思った。
これまで許されていた古賀さんの隣が、楽園だと思った。
これまで死にたいなんて思っていたことが、何でもないように思えて、馬鹿らしく感じた。
゛何もかも゛が、なんて言わない。
古賀さんがあの日、僕の家に住むようになってからの生活が、僕の中で宝であり続ける事は変わらないから、……だから、やっぱり苦しい。
過ぎ去った過去は、もう一度訪れる事はない。
どれだけ願ったところで時間をさかのぼる事は出来ない。
結婚してほしいと思うことがことが重いだなんて知らないし、それは僕が違うと強く否定する。
それが僕の願いだから。
それが僕の想いの強さだから。
…でも、迷いができてしまった。
戸惑いも、それに対する非難もある。
心の中に穴でもできてしまったのだろうか。
前が見えていなくて、先の事を考えたら怖気付いたのだろうか。
あえて言うなら、あんなにもつらそうな顔を好きな子にさせてしまった…から、僕のこの想いは、伝えるべきだったのか、僕にはわからなくなってしまった。
古賀さんへの想いから自分が出した答えだったとしても…わからなくなってしまった。
これが、僕が出した答えだったのか…
これが本当に望んだ結果だったのか…
すごく久しぶりの投稿だと思います。
何も言わずに休んでしまったことを反省しております。
ただ、最後までお付き合いください。
まだ続きます。
本当はもう少しで終わらせるつもりだったけれど、いろいろ考えた結果です。
どうか、よろしくお願いします。




