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婚約破棄された可憐令嬢は、帝国の公爵騎士様に溺愛される  作者: 蒼井美紗
第4章 大陸騒動編

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97、協定とリリアーヌの功績

「まずは沼地の調査や罠を仕掛ける人手だが……これは、霊峰近くの国々に任せたいと思っています。というのも、遠くの国々が今から準備をして霊峰に向かうとすると、いくら急いでも一、二週間はかかるでしょう。それでは遅すぎるのです」


 リナーフ国王陛下のお言葉に、霊峰近くの国々の代表者たちは、眉間に皺を寄せて険しい表情を浮かべた。しかし現状では仕方がないことも分かっているのか、少しして全員が頷く。


「……分かりました。厳しいですが、なんとか頑張ります」

「距離が離れているという事実はどうしようもないですから、なんとか耐えてみせます」

「お願いいたします。では役割分担としては、霊峰周辺の国々が罠などの準備と竜の足止め、また他の魔物の討伐と民の防衛で良いでしょうか。そして他の国々は現場に着き次第、先ほど決めた通りに連携して竜討伐です」


 現実的な決定に誰も反論せず、これからの動きが定まった。ユルティス帝国としては、この後すぐに早馬を皇宮へと送り、さっそく騎士たちを霊峰に送ることになる。


「騎士団が他国に入ることについてはどうしますか。何かしら臨時の協定を結ぶべきだと思いますが」


 フェルナン様の提案に、皆さんが顔を上げた。


「そうですね。竜討伐が叶い、それぞれの騎士団が自国に戻るまでという期限付きで、協定を結びましょう。ここにいる国々の領土には自由に入ることができる。などでしょうか」

「それは必要ですが、民には一切の危害を加えないとの文も入れましょう」

「対魔物に限って武力交戦が可能であるとの決まりも必要ではありませんか?」

「確かにそうですね。では――」


 緊急事態ということもあり、協定の内容は順調に決まった。協定文を専任の文官が正式な文書として作り上げ、さっそく皆でサインをする。


 何かあった時のために同じ文書を三つ作り、それぞれ別の場所で保管されることになった。


「これで話し合うべきことは終わりでしょうか。何か意見などがあれば手を挙げてください」


 緊急事態の真っ只中ということもあり、予定していた議題を終えたところで、リナーフ国王陛下はすぐに会議を締めに入った。


 しかしそのタイミングで、フェルナン様が手を挙げる。


「一つ良いでしょうか」


 その言葉に、私の心臓が大きく高鳴った。まだ治癒薬のことを話していないのだ。ここでフェルナン様が手を挙げるとすると、それしかない。


 緊張でうるさい心臓の音を聞いていると、リナーフ国王陛下に水を向けられたフェルナン様が皆さんに一言述べてから、私と視線を合わせてくださった。

 

「私のパートナーであるリリアーヌから、一つお話があります」


 フェルナン様が優しく微笑んでくださったことで、緊張が収まらなくとも勇気をもらう。私は小さく深呼吸をしてから、意を決して口を開いた。


「お時間を頂戴してしまい、申し訳ございません。私からはこちらの……治癒薬についてお話がございます」


 突然私が話し始めたことで、怪訝な表情をしている人も少なくない。そんな中で震える手に力を入れて、椅子の下に置いていた治癒薬をテーブルの上に乗せた。


「私は光魔法を使った薬草栽培と治癒薬作成の研究をしておりまして、最近その成果が出ました。こちらにある治癒薬は光魔法を使って育てた薬草を使っている改良版で、効果は普通の治癒薬よりも高いです。普通の治癒薬では治せないような深い傷も治癒可能であり、光魔法と比べると治癒効果の即効性はありませんが、治癒効果が長続きし、最終的には深い傷も治ります」


 ここまでの話を聞いた皆さんは治癒薬に興味を持ってくれているのか、全員の視線が私に集まる。そんな中でフェルナン様のパートナーとして相応しいよう、必死にお腹に力を入れて笑顔をキープした。


「こちらに普通の治癒薬との違いについてまとめた紙がありますので、ぜひご覧ください」


 検証結果をまとめた紙を読んだ皆さんは、驚きを露わにしている。ユルティス帝国を褒めるような、感心するような言葉もあり、私は帝国の役に立てたことが本当に嬉しかった。


「これは凄いですな……」

「さすがユルティス帝国です」

「ユティスラート閣下のお相手は聡明な方のようだ」

「リリアーヌ様、でしたかな」


 様々な言葉を擽ったく思いながら聞き、皆さんが一通り読み終えたあたりでまた口を開く。


「今回ユルティス帝国は、こちらの改良版治癒薬を皆様にお渡ししたいと考えております。この緊急事態では、必ず役に立つはずです。ただ十分な数がないことはご承知おきいただきたく……少しずつとなってしまうのですが、有効的にお使いください」


 そこまで説明したところで、ひとまず私の役割は終わりだ。大役を終えて安心し、体から力を抜いていると、皆さんから一斉に質問を投げかけられた。

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