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婚約破棄された可憐令嬢は、帝国の公爵騎士様に溺愛される  作者: 蒼井美紗
第4章 大陸騒動編

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81、ラウフレイ様からの情報

 突然名案を思いついた私は、なぜもっと早くに思い浮かばなかったのかしら……そう後悔しつつ、フェルナン様に顔を近づけて小声で伝えた。


「フェルナン様、ラウフレイ様に聞いてみるのはどうでしょうか。ラウフレイ様は最近魔物の様子がおかしいと仰っていましたので、すでに異常について調べておられるかもしれません」


 その提案に、フェルナン様は目を見開かれる。


「……確かにそうだな。お力をお借りできるのならば、これ以上にありがたいことはない」

「では、このあと私室に戻って話をしてみます」

「ありがとう。頼んだ……いや、私もその場に同席して良いか? 国からの頼みになるのだから、リリアーヌに任せきりは良くないだろう」


 ラウフレイ様は気にしないだろうけれど……そう思いつつ、私としてもフェルナン様が隣にいてくださる方が安心できるので、提案には頷いた。


「もちろんです。よろしくお願いします」

「分かった。では早く昼食を済ませてしまおう」


 それからいつもより急いで食事をした私たちは、食後のお茶もそこそこに席を立ち、私の私室へと向かった。


 フェルナン様と隣り合ってソファーに腰掛け、視線を向け合う。


「では、ラウフレイ様に声をかけますね」

「ああ、頼む」


 ラウフレイ様とのお話は何度もしているけれど、今回は要件が重い話で、さらに隣にはフェルナン様がいらっしゃるので、少し緊張しつつ口を開いた。


「ラウフレイ様、今お時間はありますでしょうか」


 声掛けから数秒後、ラウフレイ様の声が届く。しかしいつもの穏やかなお声とは少し違って、緊張を孕んだものだった。


『……リリアーヌ、何かあったのか?』

「そう聞かれるということは、ラウフレイ様は何かをご存知なのでしょうか。実は昨日、帝都近くの森の中で魔物の大群と遭遇して――」


 それから先日のことを詳しく伝えると、少しだけ沈黙が流れた後、ラウフレイ様の声がポツリと届いた。


『――実際に会って説明したいのだが、そちらに行っても構わないか?』

「もちろんです。フェルナン様も共にお話を聞いて良いでしょうか」

『もちろん構わない。ではすぐそちらに向かう』


 その言葉から数秒後、私たちのすぐ近くにラウフレイ様が姿を現される。とても神聖な雰囲気を纏ったそのお姿は今まで通りだったけど、いつもより険しい表情を浮かべられていた。


『リリアーヌ、会えて嬉しい。フェルナンも久しぶりだな』

「私もお会いできて嬉しいです」

「またお会いできて光栄でございます」


 互いに簡単な挨拶をしたら、さっそくラウフレイ様が本題に入った。


『それで、先ほどリリアーヌが説明してくれた魔物の大群についてだが……実はこの大陸の各地で同じような現象が発生している。それに気づいた我は原因の調査をしたのだが、その結果――竜の封印が解けたのだと分かった』


 竜。あまりにも予想外な言葉が出てきて、私は瞳をぱちぱちと瞬いてしまう。何も言葉を発せずに固まっていると、フェルナン様が問いかけてくれた。


「それは、よく御伽話に出てくる竜でしょうか」

『む……現在ではそんな認識になっているのか? 竜族の歴史は語り継がれていないのだろうか』

「竜とは、御伽話にしか出てこない存在ですが……」


 凄く強いもの、人類の手に負えないもの、災害のようなもの、残虐な行動を取るもの、そういうものを表す時に、よく竜が物語で使われるのだ。


 私が昔読んだ物語にも、よく竜は出てきていた。


 しかしラウフレイ様のお言葉では、まさか……。


「竜とは、実在していたのですか?」


 その問いかけに、ラウフレイ様はすぐ頷かれた。その事実に私とフェルナン様が驚く中、ラウフレイ様は説明を続けてくださる。


『数千年、もしくはもっと前の話だ。この大陸には竜が生息していた。知能が高く圧倒的な力を持つ種族だったが、それゆえに人間は竜を恐れた。意思疎通が取れる文化的な種族であった竜たちを、理由もなしに虐殺したのだ』


 初めて聞く歴史に、指先がスッと冷たくなる。信じたくないけれど、ラウフレイ様が話してくださることだ。真実なのだろう。


 ぎゅっとキツく手を重ね合わせていると、私の手の上にフェルナン様が手を重ねてくださった。その温かさに少しだけ気持ちが楽になる。


『竜と人間、互いに大きな犠牲を伴う争いはしばらく続き、最終的に勝利したのは数で圧倒的に勝っていた人間だった。人間は竜の頂点にいた竜王を殺すことはできなかったが、なんとか封印することに成功したのだ。それによって生き残っていた竜はどこかに逃げ、この大陸に竜はいなくなった』


 そこで言葉を切ったラウフレイ様は、改めて私とフェルナン様にまっすぐと視線を向けられる。


『そして今回解けたのは、その時代に封印された竜王の封印だ。確か魔法陣を駆使して封印されていたはずだが、時間と共に劣化して綻びが生まれたのだろう。長年の封印で混乱し、同胞が殺された怒りを抱えたままの竜王は暴れている。それによって、魔物たちが異常な行動を見せているのだ』


 最後まで話を聞いた私は、どう反応すれば良いのか分からなかった。その歴史が全て真実ならば、過去に悪かったのは人間だ。竜王の怒りもよく分かる。


 でも魔物の大群によって多くの人たちが命を落としているかもしれないし、これから竜王によって直接命を落とす人もいるかもしれない。


 そう考えたら……放置はできない。


 フェルナン様を見上げると、フェルナン様も覚悟を決めた真剣なお顔をされていた。

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