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婚約破棄された可憐令嬢は、帝国の公爵騎士様に溺愛される  作者: 蒼井美紗
第4章 大陸騒動編

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68、フェルナンを説得

「リリアーヌッ」


 慌てた様子のフェルナン様は、レイモン様に挨拶もせず私の肩に手を置いた。そして全身をくまなく確認してから、安堵の溜息を吐く。


「怪我などはしていないようだな……良かった」


 なんでこんなに慌ててらっしゃるのかしら。レイモン様はあの紙に何を書いたのだろう。


 そう不思議に思ってレイモン様に視線を向けると、同じタイミングでフェルナン様もレイモン様に鋭い視線を向けられた。


「叔父上、意味深なメモをよこすのはやめて下さい! リリアーヌのことで大切な話があるなんて書かれていたら、何かあったのではないかと心配になります!」


 確かに……それは私でも慌てるかもしれないわ。


「すまないね。事実をそのまま記しただけなのだが」


 申し訳なさそうに謝罪を述べるレイモン様に、フェルナン様がさらに文句を口にしようとしているのを見て、私は思わずフェルナン様の腕を引いた。


「レイモン様も悪気があったわけではないのですし、その辺で……」


 そう伝えると、フェルナン様ははっきりと首を横に振られる。


「いや、リリアーヌ。叔父上は絶対にわざとやっている」

「え、レイモン様はそんなこと……」

「意外とこういうところがある人なんだ。基本的には優しい人だが」


 不満そうに唇を引き結んだフェルナン様に、レイモン様はにっこりと綺麗な笑みを浮かべた。


「可愛い甥っ子にそんな意地悪なことはしないよ。さあ、いつまでも立っていないで座ると良い。肝心の話をしよう」


 そう言ってソファーを示すレイモン様に、フェルナン様はまだ納得いっていない様子ながらも私の隣に腰掛けた。ルイさんも少しだけ呆れたような表情で、元の場所に座る。


 レイモン様はいつもの穏やかな笑みというよりも、なんだか楽しさが表情に現れていて、フェルナン様が仰ったことも間違いではないのかもしれないと思った。


 多分レイモン様は、甥っ子であるフェルナン様が可愛いのね。そう考えるとほっこりしてしまう。


「ふふっ」


 小さな笑いが溢れると、フェルナン様に不思議そうな視線を向けられた。


「リリアーヌ、どうしたんだ?」

「いえ、お二人の仲が良くて素敵だなと」

「今の会話から仲の良さを感じたのか? 全くそのような要素はなかっただろう?」


 フェルナン様はひたすら不思議そうだけれど、レイモン様は私の心情が分かったのか、私に向けて笑みを深めた。そんなレイモン様に笑い返していると、フェルナン様に腰を抱かれる。


「叔父上、リリアーヌは私の婚約者です」

「ははっ、もちろん分かっているよ。本当にフェルナンはリリアーヌと出会って感情豊かになったね」


 レイモン様が楽しそうに笑うのが釈然としないのか、フェルナン様は僅かに眉間に皺を寄せたまま、話を本題に戻した。


「それで、大切な話とはなんでしょうか」

「そうだったね。実は改良版治癒薬の効果を実際に見てみたいという話になって、今度騎士団の魔物討伐に同行させてもらえないかと思っているんだ」

「魔物討伐に……それは、リリアーヌもですか?」

「もちろんだよ。リリアーヌと私、そしてルイの三人かな。あとは私やリリアーヌには個別の護衛がつくと思うけど」

「ダメです。危なすぎます」


 フェルナン様はほとんど悩まれることもなく、否定の言葉を口にした。


「治癒薬の効果であれば、救護室に運ばれた怪我人で十分でしょう」

「しかし救護室に運ばれる怪我人は、基本的に軽傷者だ。重症者が溢れるなんて、緊急事態の時以外にないだろう?私たちが確認したいのは、その場で治癒が施されるような場合の治癒薬の効果なんだよ」


 レイモン様が追加で説明をすると、フェルナン様はグッと言葉に詰まる。その様子を見て、私もお願いすることにした。


「フェルナン様、しっかりと指示に従って危ないことはしませんから、同行してはいけないでしょうか。この研究はできる限り完璧に近づけたいのです。……それに、フェルナン様がお仕事をされているところを、実際に見てみたいです」


 少しだけ悩んだけど、ずっと思っていた後半の言葉も口にした。フェルナン様が日々どれほど危険な仕事をこなしているのか、大切な仕事をしているのか、それを一度は自分の目で見てみたいと思っていたのだ。


 私とレイモン様の言葉にしばらく黙り込んだフェルナン様は、数分してゆっくりと首を縦に振って下さった。


「――分かった。では三人が参加できるように、手配をしておきます」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 嬉しさのあまりフェルナン様の手をギュッと握ってしまうと、フェルナン様の耳がじんわりと赤くなっていくのに気づいた。


 それに私も少し照れていると、フェルナン様は頬を掻きながら立ち上がる。


「リリアーヌの役に立てて良かった。研究、無理はしすぎないようにな」

「はい。ありがとうございます」


 そうしてフェルナン様の了承を得たことで、私たちは魔物討伐に同行することが決まった。

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