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婚約破棄された可憐令嬢は、帝国の公爵騎士様に溺愛される  作者: 蒼井美紗
第2章 婚約者編

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45/125

45、帰還日の夜

 皇宮から馬車に乗ってユティスラート公爵家の屋敷に戻ると、エントランス前には使用人の皆が集まってくれていた。

 特にメイドのエメとクラリス、さらに護衛のアガットは泣きそうな表情だ。


「リリアーヌ様、護衛でありながら御身を守り切ることができず、誠に申し訳ございませんでした……!」


 アガットはその場に跪き、深く頭を下げた。


「いいえ、今回はアガットが一緒の時ではなかったのだから、気に病む必要はないのよ」


 そう伝えながらアガットの肩に手を置くと、アガットは瞳から大粒の涙をこぼした。


「お見苦しいところを……申し訳ございません」


 また謝罪の言葉を口にしたアガットを、私はふわりと抱きしめた。


「良いのよ。私はいつもアガットのおかげで安心して暮らせているわ。これからもよろしくね」


 そう言って笑みを向けると、アガットはまだ涙を流しながらも笑みを浮かべてくれた。


「はいっ……!」


 それからエメ、クラリスも泣きながら無事を喜んでくれて、執事のセレスタンも男泣きをしてくれて、庭師のバティは安心するような笑みで迎えてくれて、私は屋敷の皆と再会を喜び合った。


 料理長が張り切った夕食を幸せな気持ちで堪能し、数日ぶりにエメとクラリスに体を全部綺麗にしてもらったところで、久しぶりに一人で私室のソファーに身を預ける。


「ふぅ……本当に、帰ってくることができたのね」


 怒涛の展開にゆっくりと噛み締める時間がなかったけれど、やっと心から安心を感じられた。


 エメが準備してくれた果実水を少しずつ飲みながら心を落ち着かせていると、なんだかフェルナン様のお顔を見たくなる。屋敷に戻ってきてからは皆と喜び合っていて、あまりお話ができなかったのよね……。


 そんなことを考えていたら、部屋が控えめにノックされた。そして聞こえてきた声は――フェルナン様のものだ。


「リリアーヌ、少し入っても良いだろうか」


 自分の願望が見せている夢かと一瞬思ったけれど、もう一度扉がノックされたことで慌てて立ち上がる。


「も、もちろんです……!」


 緊張しながら扉をそっと開くと、そこには緩い部屋着を身に纏ったフェルナン様がいらっしゃった。その姿は初めてみるもので、心臓がドキドキと高鳴ってしまう。


「こ、こんなお時間にどうされましたか?」


 夜にフェルナン様が訪ねてきたのは初めてのことだ。


「困惑させてすまないな。リリアーヌが本当にいるのかと不安になってしまったのだ」


 フェルナン様は眉を下げてそう仰った。今回の事件は、フェルナン様のお心にも傷を残したのね……


 私は扉を大きく開けて、フェルナン様に部屋の中へと入ってもらう。


「どうぞ、中へお入りください。私もフェルナン様のお顔が見たいと思っていたのです」


 そう伝えるとフェルナン様は表情を緩め、私の私室に入った。二人でソファーに横並びで腰掛けると、フェルナン様は僅かに震える手で私のことを抱きしめてくださる。


「リリアーヌ……本当に、無事で良かった。リリアーヌを失ったらどうしようかと、最近はそんなことばかり考えてしまっていた」


 そう言いながら腕に力を込めたフェルナン様の背に、私も腕を伸ばした。


「私も森の中で目を覚ましてから、フェルナン様にもう一度お会いしたいと、そればかり考えていました」


 それからしばらく無言で抱きしめ合っていると、フェルナン様が少しだけ腕の力を抜いて私の顔を覗き込むようにする。


 まっすぐ見つめてくださるフェルナン様の瞳は強い光を湛えていて、恥ずかしいけど逸らせなかった。


 じっと見つめ合っているうちにフェルナン様のお顔が近づき……唇に柔らかいものが触れた。一瞬だけのその感触の後に、またしても強く抱きしめられた。


「フェ、フェルナン様……!?」


 私は慌ててしまい、名前を呼ぶことしかできない。


「……すまない、どうしても我慢できなかった」


 そんなストレートな言葉に、自分の頬が真っ赤に染まっていくのを感じた。


「べ、別に嫌ではないですが……」


 思わず本心が溢れると、フェルナン様にまた顔を覗き込まれた。今度の表情はいつも通りの柔らかい笑みだ。


「では、もう一度しても良いか?」

「だ、ダメです……!」


 自分の口元でバツを作るようにして反射的にそう告げると、フェルナン様は楽しそうに笑い出す。


「ははっ、リリアーヌは可愛いな」

「もう、揶揄わないでください!」


 衝撃的なことをされたという動揺で思わず少し強めに返すと、フェルナン様は嬉しそうに頬を緩めて口を開いた。


「いつもそうやって、本音で話してくれた方が嬉しい。私にはなんでも言ってくれ」

「……わ、分かりました。ありがとうございます」


 私がそう答えると、フェルナン様は私から体を離して微笑まれた。


「では私はそろそろ戻ろう。リリアーヌ、今夜はゆっくりと休むように」

「はい、ありがとうございます。フェルナン様もごゆっくりと休まれてください」


 そうしてフェルナン様と就寝前の挨拶をした私は、ほかほかと温かい心のままベッドに入り、すぐ眠りに落ちた。

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[良い点] あっまぁ~い!(笑)
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