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婚約破棄された可憐令嬢は、帝国の公爵騎士様に溺愛される  作者: 蒼井美紗
第2章 婚約者編

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25、宝飾品店

 私たちの向かいのソファーに腰掛けた店員の男性が、さっそく来訪の目的について話を切り出した。


「本日はリリアーヌ様のイヤリングをお探しとのことで、よろしいでしょうか」

「ああ、それが一番の目的だ。リリアーヌには派手すぎない繊細なデザインのものが似合うと思っているのだが、どうだろうか」


 笑顔で頷かれたフェルナン様のその言葉に、男性は綺麗な微笑みを浮かべる。


「はい。私もリリアーヌ様と実際にお会いし、同様の印象を持ちました。例えばですが、シルバーなどを土台にカラーストーンがあしらわれたものはいかがでしょうか。さらにはストーンも大きなものではなく、小さく美しいものが散りばめられているデザインがお似合いになるかもしれません」


 小さな石がたくさん……そのようなイヤリングはあまり見たことがないわ。どのようなデザインなのかしら。


「ほう、それは良い。リリアーヌはどう思う?」

「私もそちらのイヤリングを付けてみたいです。ストーンの色に種類はあるかしら」


 店員の男性に視線を向けて質問すると、男性の合図で室内にいた別の店員が一つの箱をテーブルに載せた。それが開かれると……中には五種類のイヤリングが入っている。


「これ以外にも種類はあるのですが、このように多種多様な色、デザインがございます。一つの色を散りばめているものは定番ですが、最近は右のようにいくつかの色を使用することによって、より美しく仕上げているものが人気となっております」

「とても素敵だわ……」


 小さなストーンを散りばめた宝飾品は、こんなにも可愛らしい仕上がりになるのね。特に赤やピンク、白などが散りばめられたイヤリングがとても美しい。


「気に入ったか?」

「はい。特にこちらのものが」


 一番目を惹いたイヤリングを示すと、フェルナン様は優しく微笑み頷いてくださった。


「私も同じ意見だ。とても可愛らしく、リリアーヌに似合うと思う。これの試着を頼みたいのだが」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 フェルナン様の言葉に店員の男性が頷くと、応接室に控えていた別の男性がすぐに手袋をしてイヤリングを手に取った。それを受け取るのは、私の侍女であるエメだ。


「リリアーヌ様、失礼いたします」

「ええ、お願いね」


 エメは今まで私のことをお嬢様と呼んでいたけれど、もう私はフェルナン様の婚約者となったので、最近はこうして名前で呼ばれることが増えた。

 正式に結婚したら、次は奥様と呼ばれるようになるのだろう。


「左もお付けいたします。――こちらでよろしいでしょうか」


 目の前に掲げてくれた鏡に視線を向けると、涙滴型である美しいシルバーの土台にいくつもの散りばめられたストーンが、それぞれ輝いていた。土台が揺れるとそれと同時にストーンも輝き、また違った顔を見せるようだ。


「とても素敵だわ……エメ、ありがとう。フェルナン様、いかがでしょうか」

「こちらを向いてくれるか?」


 その言葉に従って体ごと左を向くと、フェルナン様は私の耳にそっと手を伸ばしてイヤリングに触れられた。その感触がイヤリングを伝って私にも届き、少しだけ落ち着かない気分になる。


「とても似合っているな」

「ありがとうございます」

「ではこれを買おう」


 フェルナン様は私に向けて笑みを深められてから、体の向きを前に戻して店員の男性に声を掛けた。その言葉で私も我に返り、横を向いていた姿勢を正す。


「お買い上げありがとうございます。本日はそのまま付けていかれますか?」

「そうだな、そうしよう。リリアーヌもそれで良いか?」

「はい。付けていきたいです」

「かしこまりました。では保存用の箱などは、別でご用意させていただきます」


 そうして一番の目的であったイヤリングはすぐに決まったところで、テーブルに載せられていたイヤリングケースは仕舞われた。

 しかしそれと交換という形で、今度はいくつかの宝飾品が入った箱が並べられる。


 中に入っていたのは指輪やブレスレット、ネックレスなど、イヤリング以外の宝飾品だ。


「他にもたくさんの宝飾品がございますので、もしお時間がございましたらぜひご覧になってください。全て当店が自信を持ってお勧めできる物でございます」

「ありがとう。ではせっかくなので見せてもらおう。……どれも質が良いな」


 フェルナン様が仰る通り、私の目から見てもとても良い品ばかりだ。この指輪なんて本当に綺麗に仕上がっている。


「そちらの指輪が気になられますか?」

「ええ、とても綺麗な仕上がりだわ。それにシルバーの土台が、あまり見たことがない形をしているようだけれど」


 指輪とは土台となる部分にあまり違いはなく、どのような石を載せるのかで差別化を図るものだったはずだ。しかしこれはその土台がとても珍しく、二本のリボンが組み合わさるようになっていた。


「そちらは当店お抱え細工師の最新作でございます。二本のリボンが組み合わさるデザインには、別々の道を歩んでいた二人が、結婚などで同じ道を歩んでいくこれからが幸せになるようにと、そんな願いが込められているようです」


 それでこのようなデザインなのね……確かに二つが一つになるようなデザインは、結婚を表しているようだわ。


「これは結婚する者たちがそれぞれ身につけるのか?」

「はい。お揃いで付けていただくのが良いかと思っております」

「とても素晴らしい宝飾品だな。ぜひ買おう!」


 フェルナン様はよほどこの指輪が気に入ったのか、瞳を輝かせている。


「リリアーヌ、この指輪をつけてくれるか?」

「はい、お揃いの宝飾品を身に付けられるなんて、とても嬉しいです」


 それからは指輪に付ける宝石を変更可能だという話を聞き、どちらが付けても似合う色の宝石を慎重に選んだ。そして納得のいく石が見つかったところで、指輪の作成を依頼し、宝飾品店での買い物は終了となった。

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