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婚約破棄された可憐令嬢は、帝国の公爵騎士様に溺愛される  作者: 蒼井美紗
第4章 大陸騒動編

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124、竜玉の話

 準備が整ったところで、私たちは竜との戦闘を繰り広げた沼地を後にし、拠点へと向かった。


 私が転移ではなく歩いて帰ると決めたことで、ラウフレイ様も共に歩いてくださっている。


「ラウフレイ様、お疲れではありませんか?」


 体力的な問題はないだろうけど、精神的な疲れはあるだろうと思ったのだ。私が心労をかけてしまったし、力があるのに手を出すことはできないというのは、とても辛いことだと思う。


 しかし私の問いかけに、ラウフレイ様は穏やかな表情を浮かべた。


『全く問題はない。むしろリリアーヌたちと共に行動できることが嬉しいぞ』


 本心からの言葉だとすぐに分かり、嬉しくなる。


「私も嬉しいです。ただ願わくば、戦場ではなく美しい花が咲く丘へとピクニックなどに行きたいですね」


 戦いが終わって気が抜けたからか、癒されたい気分だった。私の提案に、ラウフレイ様は瞳を輝かせる。


『それは良いな』

「私も参加したい」


 隣にいたフェルナン様が、間をおかずに参加希望で手を挙げた。その様子に思わず笑ってしまう。


「ふふっ」


 最近はフェルナン様が可愛く見えることが増えた気がするのだ。


 こんなことを言ったらフェルナン様は少し拗ねるかしら……そう思うと、より可愛らしいと思ってしまう。


「リリアーヌ、なんだか楽しそうだな。何を考えているのだ?」

「えっと……秘密です」

「そう言われては気になってしまう」

「そんなに気にすることじゃないですよ?」


 はぐらかしていると、フェルナン様が自然と私の手を握った。少し腕を引かれ、顔を覗き込まれる。


 その一連の動作と至近距離のフェルナン様は、今度はとてもカッコよかった。つい顔が赤くなってしまう。


 フェルナン様はそれで満足したのか、頬を緩めて私から手を離した。


『赤くなっているリリアーヌは可愛いな』

「分かります」


 ラウフレイ様の言葉にフェルナン様が何度も頷いていて、私はさらに恥ずかしくなる。


 赤くなった頬を隠すために両手で顔を覆っていると、私たちが隊列から少し外れていたことに気づいた。話し声がちょうど聞こえないほどの距離だ。


 これは、良いタイミングかしら。


 私は気になっていたことを、ラウフレイ様に聞いてみることにした。


「ラウフレイ様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」


 少し真面目な声音で問いかけると、ラウフレイ様も雰囲気を引き締めてこちらに意識を向けてくださった。フェルナン様も表情を引き締める。


『無論だ。何かあったのか?』

「はい。実は竜を倒した際に――」


 竜玉を竜から託されたという話をすると、最後まで話を聞いてくださったラウフレイ様は真剣な表情で考え込まれた。


 少し時間が空いてから、知っていることを話してくださる。


『まず、竜玉とは竜族にとってとても大切なものである。一人一つしか持たず、生涯誰にも渡さぬ者もいれば、伴侶などに渡す者もいるという物だ』


 伴侶という言葉に、フェルナン様がピクッと反応した。剣呑な雰囲気になったフェルナン様に、私は苦笑しつつ伝える。


「今回は、伴侶に渡すという意味合いはないと思いますよ」

「……まあ、そうだな」


 少し納得してない様子ながらもフェルナン様は頷いた。それを確認してから、私はまたラウフレイ様に視線を戻す。


「そんなに大切なものを、なぜ私にくださったのでしょうか」

『そこがよく分からぬのだが……やっと苦しみから逃れ、同胞たちの下へ行ける喜びに満ちていた竜王は、誰かに竜玉を託したかったのだろう。なぜリリアーヌだったのかは本人にしか分からぬが、我のようにその清らかさに惹かれたのかもしれない』


 つまり、ラウフレイ様でも推測しかできないということだ。私はラウフレイ様の言葉に曖昧に頷きながら、竜王から言われた『同胞』という言葉が頭の中を巡っていた。


 何かの間違いだろうけれど、なんとなくその言葉を口にするのに躊躇ってしまう。これを伝えることで、また何かに巻き込まれてしまったら嫌だと思ったのだ。


 もう、平穏な生活に戻りたい。フェルナン様と穏やかで幸せな日々を送りたい。


 そんなことを考えているうちに、ラウフレイ様が言葉を続けた。


『とにかく悪いものでないことは確かだ。リリアーヌがもらったのならば、大切に保管しておくと良い』


 危険なものでないならば、竜玉の話はこれで終わりでいいだろう。


「分かりました。大切に保管しておきます」


 深く考えずに保管しておこうと私の心が決まったところで、フェルナン様が先ほどの嫉妬を吹っ切った様子で言った。


「竜玉の保管場所を屋敷の中に作ろう。リリアーヌがもらったのだから、リリアーヌの目に入るところが良いかもしれない。使用人たちではなく、リリアーヌが磨くか?」

「はい、できればそうしたいです。後は隠された場所ではなく、皆の目に入るようなところが良いのではないかと……」


 竜玉はとても綺麗だから、屋敷を飾る置物にもなるはずなのだ。ずっと寂しい場所に封印されてきた竜王だから、せめてその竜玉は賑やかなところに保管したい。


「そうだな。食堂か、エントランスか、応接室などに飾るのもありだろうか。屋敷に戻ったらセレスタンたちにも相談しよう」

「はい。楽しみです」


 そうして話が終わったところで私たちは隊列に戻り、レアンドル様に竜玉という名前で危険はないらしいと、ラウフレイ様から聞いたことを簡単に報告した。


 特に何の効果もないということで、レアンドル様によって私が保管することを了承してもらえる。


「また何か変化があれば報告してほしい。うちの国とユルティス帝国の間でも情報共有をする形にしよう」

「かしこまりました。そのようにお願いいたします」


 レアンドル様への報告が終わった頃、ついに拠点が見えてきた。

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