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婚約破棄された可憐令嬢は、帝国の公爵騎士様に溺愛される  作者: 蒼井美紗
第4章 大陸騒動編

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122、ラウフレイ様

 勝手に転移してしまったことについて私が謝罪をすると、ラウフレイ様は少し怒ったような雰囲気で口を開いた。


『リリアーヌには我の守護があるが、それは絶対ではない。物事に必ずというものはないのだ。我の守護は強力だが、もしかしたら命の危険に陥ることもあるかもしれない。また物理的な怪我は防げたとしても、心の傷を防ぐことはできない。それをしっかりと認識してほしい』


 しっかりと怒られてしまい、私は少し落ち込みながら頷いた。


 ラウフレイ様の仰るとおりだ。私は何度同じ状況に陥っても戦場に転移してしまうだろうけど……どこかで、私は大丈夫だという楽観があったかもしれない。


 ラウフレイ様に頼らず、しっかりと自分で自分を守らなければ。


 フェルナン様に自分を大切にしてほしいと伝えたのだから、私は私自身も大切にしなければいけない。そう思って深く反省した。


 しかしそんな私に、今度はラウフレイ様がとても優しい雰囲気で体を寄せてくださる。


『ただ、大切な者を助けたいという気持ちは理解する。リリアーヌもフェルナンも無事で良かった』

「……はい。ありがとうございます」


 ラウフレイ様が心から喜んでくださっていることが伝わり、胸が温かくなった。


 そんな中で、フェルナン様が一歩前に出た。


「ラウフレイ様」


 フェルナン様の表情はとても固く、緊張しているのがすぐに分かる。その様子に私も緊張してしまう中で、フェルナン様は深く頭を下げた。


「この度は私の命を救ってくださり、本当にありがとうございました。いくら感謝してもし足りません。私にリリアーヌとの未来を与えてくださり、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。……同時に、命を失うような事態に陥ってしまい、申し訳ございませんでした。リリアーヌを危険に晒してしまったのは私の責任です」


 フェルナン様の言葉を最後まで聞いたラウフレイ様は、少しだけ時間を置いてから首を横に振った。


『――いや、そこまで気にする必要はない。今回は竜との戦闘だ。いくら日頃から鍛え、全力で戦ったとしても、危険に陥ることはあるだろう。お主も無事で良かった』


 ラウフレイ様のその言葉に、フェルナン様は少し雰囲気を和らげる。そんな中で、さらにラウフレイ様が告げた。


『さらに、お主に渡した髭が効果を発して消えたことをリリアーヌに伝えたのは我だ。伝えぬという選択肢も選べたところ、リリアーヌに伝えることを選んだ。リリアーヌを危険に晒したのは我も同じだ』

「そんなっ、そんなことはありません」


 私は思わず話を遮るように声を出してしまった。ラウフレイ様によって危険に陥ったなどとは全く思っていない。


「お話を聞いた上で転移を選んだのは私ですから」

『つまり、今回のことは誰も悪くない。それで良いだろう』


 ラウフレイ様が平和にまとめてくださり、私は体に入っていた力を抜く。フェルナン様も頬を緩めていた。


「はい。そうしましょう」

「そう思うことにいたします」


 そこで雰囲気が緩んだけれど、ラウフレイ様はもう一度少し空気を引き締めて、フェルナン様に視線を向けた。


『しかし、あの髭のような守護はそう何度も渡せるものではない。フェルナン、もうお主に我の守護はないのだから、これからは今まで以上に気をつけるように。リリアーヌを悲しませてくれるな』

「はい。もっと強くなります。リリアーヌが心から安心できるように」


 フェルナン様の瞳には、強い決意がこもっている。それに私も気を引き締めた。


「私も強くなります。フェルナン様を守れるように」

「リリアーヌ、ありがとう」

「こちらこそ、いつもありがとうございます」


 フェルナン様と笑い合っていると、ラウフレイ様の纏う空気が完全にいつも通りになった。


『またのんびりと茶会でもしたいな』

「素敵ですね。色々と準備をいたします」

『今度はフェルナンも参加するか?』

「良いのですか? ではラウフレイ様がお嫌でなければ、私たちの屋敷で開催するのはどうでしょうか」

『それも良いな』


 もうラウフレイ様の存在は公になってしまっているから、ユルティス帝国に戻っても必死に隠す必要はないのだ。


 ラウフレイ様が煩わしい出来事に巻き込まれないように配慮しようとは思っているけれど、屋敷に来ていただくぐらいならば問題はない。


 これからも秘密にするのは、聖樹様の存在と、ラウフレイ様の住処が深淵の森ということぐらいだ。


 私の空間属性も隠す必要がなくなったから、これからは自由に使える。ラウフレイ様といつでもどこでもお話ができて、また転移で会えるというのはとても嬉しいことだ。


 ただ今は聖女として好意的に捉えてもらえているけれど、私の持つ力は他国などからすれば脅威にも感じるはずだ。私が揉め事の原因にならないように、これからも気をつけなければ。


「ラウフレイ様が来てくださると聞いたら、皆が喜ぶと思います」

「屋敷の者たちは張り切るだろうな」

『では屋敷に伺おう。楽しみだ』


 ラウフレイ様が屋敷に来てくださって、皆で準備したお茶やお菓子を楽しみながらお話をする。想像するだけで、幸せな気持ちになれた。


 早くユルティス帝国に帰りたいわ。


 戦闘が終わったばかりだというのに、そんな気持ちになってしまった。

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