115、誘導成功(フェルナン視点)
ノエルの奮闘と私たちの動きでなんとか竜を沼地の方向に誘導できていたが、思っていたよりも体力と魔力の消耗が激しく、何よりも時間がかかっていた。
「なんとか沼地まで誘導できたとして、あとは竜を倒し切れるかどうかだな……」
もちろん沼地にはレアンドル殿をはじめとして多くの騎士たちが待ち構えているが、先ほどからの様子を見るに竜の防御力はかなり高そうなのだ。
竜を倒せるかどうかは、どれだけ攻撃の手数を増やせるかだろう。物量で押すしかない。
となると、私たちの部隊が完全に離脱してしまうのは良くないのだ。せめて魔力は使い切ってしまうとしても、体力は残しておきたい。体が動けば剣で戦える。
何よりもこの竜は魔法に対する耐性が高そうに見えるため、沼地に捕らえてからの物理攻撃が最適だろう。体力温存のためには、部隊を率いる私の指示が大切だ。
ドンッッ!!
「うわっ」
「足元に気をつけろ!」
「退避だ!」
色々と考え込んでいたら、竜の振り回した尻尾が強く地面を叩いて、大きな亀裂が発生した。
亀裂に足を取られないよう注意して、必死に逃げながら竜の様子を窺う。すると竜はまた口をカパッと開き、火炎を放とうとしていて……。
「水魔法!」
「はっ!」
皆は亀裂によって体勢を崩しながらも、なんとか魔法を放ってくれた。それによって竜の意識がまたこちらに向くが、すぐにノエルが攻撃をして戻してくれる。
ただ、ノエルは相当消耗してそうだな。ノエルの体力も考えなければ。
「ノエルっ、無理そうだったらすぐに言ってくれ!」
「うんっ。でも、まだ大丈夫ですよ〜!」
そう叫んだノエルの瞳には闘志が燃えていた。そんなノエルの頼もしさに、さらに気合いが入る。
もう少し体力を温存して効率的に、しかし危険性をあまり高めずに竜を誘導するには……。
私は一つの決定を下し、皆に向かって素早く指示を出した。
「これから私たちの部隊は竜の左右に分かれる! 私と共に向こう側へ行くのは火魔法と水魔法、土魔法を使える者たちだ。そしてこちらにはそれ以外の者が残ってくれ!」
こちらに残る者たちのリーダーをすぐに指示して、誰からの反対もなかったことで、さっそく実行に移した。竜の攻撃を相殺するには適切な魔法属性を用いることが必要であり、逆に言うとそれ以外の属性の者は出番がないのだ。
それならば属性ごとに二手に分かれた方が、竜に狙われる回数を半分に減らすことができ、少しは体力を温存できる。
「皆、もう少し踏ん張るぞ!」
「はっ!」
それからも必死に竜を誘導し、なんとか誰一人として欠けることなく、さらに体力を残して沼地まであと少しのところに辿り着くことができた。
目印の旗が見えたところで、私は皆に指示を出す。
「罠を避けて沼地に向かえ!」
ここから先は竜を沼地に引き摺り込む罠が設置されているため、私たちは入れないのだ。左右に大回りをして沼地に向かうしかない。
つまり最後は、ノエルに全てを託すことになる。
「ノエル、頼んだぞ!」
「任せてくださいよっ」
疲れた様子ながらもニッと口端を持ち上げたノエルは、最後の力を振り絞るように竜に向かって風弾を放った。
「グアァァァァ!!」
イラついた様子の竜が叫んだ瞬間に、ノエルは沼地に向かって全力で飛ぶ。竜が放つ火球をほぼ感覚で右に左にと避け、そんなノエルのことを竜は一直線に追いかけた。
一撃でも当たれば命が危ないかもしれない。そんな中で必死に飛ぶノエルの姿に、無意識に体に力が入っていた。
しかし私の心配をよそに、ノエルは最後までやり切ってくれた。ノエルを追いかけていた竜の体が、突然ぐらっと傾く。
設置してあった罠に引っかかったのだ。強力な縄が足に巻き付いたのだろう竜は、次々と発動しているはずの魔法陣の罠によって、悲痛な叫び声を上げる。
「グアァァァァッッ!」
縄にかかった竜が倒れると、それと同時に大量の魔法陣が発動し、魔法陣と触れ合っていた場所が凍るのだ。さらに水魔法と風魔法も発動し、竜が沼地に押し込まれる。
その間にも雷魔法の発動する魔法陣でダメージは増えていく形だ。
バチバチバチッ。
という爆音によって、竜が確実に罠にかかっていることが分かった。
それを確認しながら、私は迂回する形で沼地まで走る。必死に走って視界が開け、見えてきた沼地には――。
作戦通り、竜がその半身を沈めていた。竜は暴れているが、その重さもあって沼地から抜け出せないようだ。
「総攻撃だ!!」
レアンドル殿の合図に従い、騎士たちが一斉に魔法を放った。




