112、最前線の拠点へ
翌日の朝食後。私たちはさっそく最前線の拠点に向けて出発した。
持っていく荷物は最低限のものだけで、歩いての移動である。馬は世話をする者や餌の数等も限られるので、最低限しか連れて行かないらしい。
「今から緊張していては明日に差し障る。あまり気を張りすぎずに行こう」
レアンドル様のその言葉で、隊列の雰囲気はいい感じにリラックスしていた。
私は護衛のアガットとフェルナン様、そしてノエルさんが近くにいる場所を歩いている。
「リリアーヌ、辛くはないか?」
「はい。大丈夫です」
フェルナン様の問いかけに、私は笑顔で答えた。
もちろん騎士さんたちには遠く及ばないけれど、私も今回のことで今までより体力や筋力がついたのだ。皆さんの足手纏いにはならないように頑張りたいと思っている。
「辛かったらしばらく休憩して、転移で追いかけてくるのでも大丈夫ですからね〜」
「それに馬も少しは連れてきているのだから、リリアーヌが乗ることに文句を言う者はいないだろう」
ノエルさんとフェルナン様の気遣いが嬉しくて、私は頬を緩めながら頷いた。
「ありがとうございます。無理して動けなくなっても大変ですから、自分がどこまでできるのかを見極めますね」
でも、できる限り他の皆さんと同じ立場で行動したいと思っている。聖女……として、皆さんの希望となるには特別な存在という演出も大切なのかもしれないけれど、やっぱり私は親しみやすさを重視したいのだ。
同じ目線で、皆さんを励まして、そして心からの感謝を伝えたい。隣を歩いてそっと背中を押すような、そんな存在になれたらと思っている。
「私がリリアーヌ様を抱き上げることもできますので、仰ってください」
キリッとした表情でアガットがそう言ってくれて、私はふふッと笑みが溢れてしまった。
「ありがとう。でも、私はそこまで軽くないわ。アガットが潰れてしまったら大変」
「いえ、リリアーヌ様をいつでも抱き上げられるように鍛えておりますので」
「ふふふっ、ありがとう」
アガットがいつでも近くにいてくれることに安心感を覚えていたら、脳裏にエメとクラリスの姿が思い浮かんだ。アガットがいてくれて安心したなんて伝えたら、二人は悔しがるかしら。
「アガット、リリアーヌを抱き上げるのは私だ」
二人と早く再会したい。そんなことを考えていたら、フェルナン様の思わぬ言葉が耳に飛び込んできた。
「え〜、団長。心狭すぎません?」
ノエルさんの呆れた声音に、私はさらに笑ってしまう。
「フェルナン様はもちろん特別ですが、アガットたちもまた違う意味で特別なんです」
「もちろんそれは、分かっているが……」
「では、フェルナン様のことは俺が抱き上げます!」
フェルナン様の護衛であるレオが突然キメ顔で言ったけれど、さすがにそれは難しそうな気がした。フェルナン様は背が高くて体格が良く、レオはどちらかというと小柄で小回りがきくタイプなのだ。
「どちらかといえば、逆ではないかしら……」
ついそう告げてしまうと、レオが頬を引き攣らせた。
「そ、それは少し遠慮したいというか……」
「それは私のセリフだ。なぜ私がお前を抱き上げねばならんのだ」
「あ、じゃあ僕にしときます〜?」
ノエルさんがふわふわと飛んで、フェルナン様の前で抱き上げられる準備万端のポーズをとった。
「そもそもお前は自分で飛べるだろ」
「え〜。団長の腕に包まれるのもやぶさかではないというか〜」
「楽をしたいだけということは分かっているぞ」
フェルナン様がジト目でそう告げると、ノエルさんはペロッと舌を出す。
「バレました?」
いつも通りの楽しい会話に、私はあまり緊張せずに移動することができて――。
ついに、最前線の拠点へと到着した。




