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婚約破棄された可憐令嬢は、帝国の公爵騎士様に溺愛される  作者: 蒼井美紗
第4章 大陸騒動編

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108、竜討伐作戦本部

 私も竜討伐に参加することが決まってからは、動きやすい服装や靴など、必要なものの準備を忙しく進めた。


 そして無事にユルティス帝国の騎士団と合流し、私とフェルナン様はついに――霊峰近くに設置された竜討伐作戦本部に到着した。


 道中では辛い現実を目にすることになるだろうと覚悟していたけれど、被害を受けた街のあまりの酷さに、私は涙を堪えるので精一杯だった。


 しかし、ここで折れてはいけない。これ以上の被害を出さないように、私たちはここに来たのだ。


 そう決意しながら本部の中にある一際大きな天幕に入ると、そこでは各騎士団の代表の方々が集まっていた。


「ユルティス帝国のフェルナン・ユティスラートが到着いたしました。聖女として婚約者のリリアーヌも一緒です」


 天幕に入ると、すぐにフェルナン様がそう報告をする。するとそれに答えたのは、天幕の奥に座っていた大柄な男性だ。


「よく来たな。そこに座ってくれ。ここは戦場だから堅苦しいのは必要ない。全員仲間だと思って動こう」

「……分かった」


 男性の言葉に少しだけ迷ってから頷かれたフェルナン様は、私にも合図をしてくださった。


「皆さん、今回はよろしくお願いします」


 私も少しラフに挨拶をすると、全員が好意的な視線を向けてくれる。ほとんどがリナーフ王国の王宮で行われた会議の場にいた人たちであるし、聖女である私のことを歓迎してくれているようだ。


「あなたが聖女様か、可愛らしい方だな。聞いてると思うが俺はレアンドル。今回の竜討伐の総指揮を担当するからよろしくな」


 大柄な男性は、ニカっと親しみのこもった笑みを浮かべながら、そう挨拶をしてくれた。


「はい。よろしくお願いします」


 この方はリナーフ王国の王弟殿下であるレアンドル様だ。リナーフ王国騎士団の騎士団長として、今回の事態が発生した初期から、霊峰の麓で事態の対処に当たっていた。


 その手腕と親しみやすさ、それから四十歳という年齢も加味され、レアンドル様が総指揮を務めることが決定されている。


「ちょうど今は作戦を練っているところだったんだ。二人の意見も聞かせてほしい」

「もちろんだ」

「分かりました」


 私とフェルナン様が置かれていた簡易的な椅子に腰掛けると、レアンドル様はテーブルに広げられた地図を指差した。


「まず皆がここに到着するまでの間に、俺たちでここの沼地に罠の設置を行なった。大陸会議で決められた沼地の罠だな」


 あの会議の内容がもう伝わって実行されているのね。私はその迅速さに少し驚いた。


「罠の設置は成功したのか?」

「ああ、特に沼地の中に張った罠はほぼ完璧だ。沼にハマった竜が抜け出せないよう、様々な魔法陣を設置してある。ちなみに魔法陣は、竜が近づくとほぼ確実に作動する」


 つまり、竜は常に微量の魔力を放出しているということなのね。


「では問題は、竜を沼地に引き込めるかという部分だな」

「そうなんだ。今はそこの作戦について話し合ってるところだったんだが、まず竜を沼地に引き込むようなロープの罠は周囲に張り巡らせてある。ただこれは竜が沼地に近づいてくれなきゃ作動しないし、強度にも不安があるのが現状だ。さらに別の魔物が引っかかる可能性もあり、巡回はしているが確実とはいえない」


 竜を追い込もうとしているまさにその時、他の魔物がロープの罠にかかって罠が意味をなさなくなる可能性もあるということだろう。


 つまり、罠に頼りすぎるのは良くないということだ。


「とにかく、竜を沼地に追い込む方法が肝心だな」

「そういうことだ。現状ではセオリー通りに囮と、竜を追い込む騎士に分かれて誘導する予定なんだが……」


 レアンドル様の言葉に、フェルナン様は難しい表情を浮かべられる。


「それが上手くいかなかった場合のことを考えなければいけないな。竜が好むものなどはあるのだろうか」

「今まで見てきた限り、竜は無差別に移動しているようなんだ。攻撃対象も決まったものはなく、とにかく暴れているという印象だな。目に付いたものを端から襲っている」


 竜は封印されていた竜王であるという事実を知っていると、その現状には納得できた。


 竜王は、苦しんでいるのかしら……。


 被害状況を考えたら竜を恨むのが当然なのだと思うけれど、私は竜王の気持ちも考えてしまった。誰も喜ばないこの現状を、早く打破しなければ。そう改めて気合を入れる。


 フェルナン様とレアンドル様に加えて他の人たちも意見を発する中、私は竜王について考えていると――会話の中に知った名前が聞こえた。


「ノエル魔術師長のことだろうか」

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