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婚約破棄された可憐令嬢は、帝国の公爵騎士様に溺愛される  作者: 蒼井美紗
第4章 大陸騒動編

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105、リリアーヌの覚悟

「フェルナン様、勝手に決めてしまって申し訳ございません。しかし、私もお役に立ちたいのです。私にしかできない役目があるならば、それを全うします」


 フェルナン様の瞳をまっすぐに見つめながらそう伝えると、フェルナン様はグッと眉間に皺を寄せられた。悩む様子を見せてから、ゆっくりと口を開く。


「――しかし、戦場はとても厳しいところだ」

「分かっています。――いえ、真には分かっていないのかもしれません。ただそれでも、この世界のために私も頑張りたいです。それに、フェルナン様の苦しさを少しでも理解したいのです」


 ずっと助けられてばかりだったから、私もフェルナン様の心の支えになれるような、そんな存在になりたいのだ。


 私の言葉を聞いたフェルナン様はまだ迷われている様子で、さらに言葉を重ねることにする。


「魔物の大発生時にも同行していましたが、こうして今は元気ですし、何かあれば転移で逃げることもできます。さらに光魔法による治癒でもお役に立てると思いますし、改良版治癒薬の管理もできますし――」


 同行を許してもらえるような事実をいくつも挙げていると、突然フェルナン様にキツく抱きしめられた。


 その強さからフェルナン様の心配や葛藤が伝わってくるような気がして、私はフェルナン様の腕に優しく触れる。するとフェルナン様は力を抜き、少し体を離した。


 私の顔を覗き込んだフェルナン様の表情は、苦笑混じりのような柔らかいものだ。


「リリアーヌは、意外と頑固な部分もあるのだな」

「そうでしょうか……?」

「もっとわがままを言ってほしいと思っていたが、まさかこんな方向だとは思わなかった。つくづくリリアーヌは予想外で、そこがとても愛おしく好ましい」


 突然愛の告白のようなことをされて、私は一気に顔が赤くなった。


「フェ、フェルナン様、皆様が聞いておられます……!」

「ははっ、カッコよかったり可愛かったり、リリアーヌは本当に魅力的だな」


 そう言って私の頬に軽く触れたフェルナン様は、表情を真剣なものに変えて口を開く。


「リリアーヌ、私が迷ってしまってすまなかった。リリアーヌが覚悟を決めたのならば、私はそれを応援する」

「良いの、ですか?」

「ああ、そもそも本人が望んでいるのに、私がそれを止めることはできないからな」


 そう言って頬を緩めたフェルナン様に、私はなんだか無性に抱きつきたくなってしまった。しかしさすがに皆さんの前なので、我慢して笑みを浮かべる。


「ありがとうございます。とても嬉しいです。私、頑張りますね」

「ああ、共に竜へと立ち向かおう」


 フェルナン様は私との話が終わったところで、リナーフ国王陛下に視線を向けた。


「私が戸惑ってしまい申し訳ありませんでした。ユルティス帝国からは、リリアーヌも聖女として竜討伐に参加します」


 その言葉に、リナーフ国王陛下はゆっくりと頷く。


「ありがとうございます。とても心強く思います。リリアーヌ様、よろしくお願いいたします」

「はい。精一杯頑張ります。ただラウフレイ様からいただいた能力については、私本人にしか影響を与えられませんので、ご了承ください。私ができるのは光魔法の治癒と、改良版治癒薬の管理ぐらいになります」

「それはもちろん分かっています。リリアーヌ様は皆を鼓舞してくださるだけで良いのです」


 その言葉に、私も大きく頷いた。


「できる限り全力を尽くします。……そういえば、ラウフレイ様は戦場に姿を現すのもダメなのでしょうか」


 ふと、私よりもラウフレイ様の方が旗印として優秀なのではないかと思ったのだ。ラウフレイ様の顔を覗き込むように首を傾げると、しばらく悩まれたラウフレイ様が躊躇いながらも頷かれる。


『……そうだな。少し姿を現すぐらいは問題ないだろう。リリアーヌが戦場にいるのであれば少し顔を出す。しかし、戦闘には関われないからな』

「本当ですか! ありがとうございます」


 ラウフレイ様が少しでも来てくださるということに、私は大きな安心感を覚えた。


 するとそれは他の方々も同じだったのか、ラウフレイ様に向けて次々と頭を下げていく。その光景を見て、私も慌てて礼をしようとすると……それはラウフレイ様に止められてしまった。


『別にリリアーヌはしなくとも良い。我はリリアーヌとは対等でいたいのだ』


 その言葉に嬉しさを感じると共に、他の皆さんが頭を下げているのに自分だけ頭を高くしている居心地の悪さも感じつつ、私は頷いた。


「ありがとうございます。嬉しいです」


 そうして話が終わったところで、この場は解散とすることになった。会議後にそのままこの場に来て事件が起きたので、さすがに疲れている。


「では皆様、これからもよろしくお願いいたします」


 リナーフ国王陛下のその言葉を最後に、皆さんがそれぞれ客室へと戻るために中庭を後にした。

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