103、ラウフレイ様のこと
『突然のことに驚いたぞ』
やっといつも通りの雰囲気に戻られたラウフレイ様が、私の下に来てくださった。
「私もまだ混乱しています……この状況を、どうすれば良いのでしょうか」
私は俯いた状態で、小声でそう呟いてしまう。アメリーたちとの話が終わりとなったら、次に皆さんに注目されるのは私とラウフレイ様なのだ。
さすがにラウフレイ様の存在を誤魔化したりはできないし、私のことを助けるためにラウフレイ様が来てくださったのは明白だ。
そして刺されたはずの私に怪我が一つもないことも、ラウフレイ様のお力だろうと、多分ほとんどの方に気づかれている。
これからどうしようと、たくさんの人たちに視線を向けられている中で混乱していると、フェルナン様が私の手をそっと握ってくださった。
「リリアーヌ、大丈夫だ。私がいる。こうなったら全てを話そう」
「大丈夫、でしょうか」
「私に任せてくれ。上手く話す」
私にだけ聞こえる声音でそう言ってくださったフェルナン様は、珍しくパチっとウインクをした。フェルナン様の珍しすぎる行動に、私は緊張や混乱よりも驚きが勝る。
「……ふっ、ふふふ」
「リリアーヌ、笑うことはないだろう?」
「すみません。なんだかとても新鮮で……でも、ありがとうございます。とても元気が出ました」
「それなら良かった」
そう言って安心できる笑みを浮かべてくださったフェルナン様は、とても頼もしい表情で皆さんに視線を向けた。
私のことをいつも守ってくださるフェルナン様に心からの感謝を抱きつつ、私も守られてばかりではダメだとフェルナン様の隣に並ぶ。
「私から説明させてください。まずリリアーヌが聖獣様であるラウフレイ様と知り合ったのは、ある事故によるものです」
事故。その言い方に反応しそうになり、なんとか耐えた。わざわざ帝国の醜聞となるようなことを明かす必要はないとの判断だろう。
「失敗作の転移魔法陣の発動に、リリアーヌが巻き込まれたのです。その失敗作の魔法陣はランダムに対象者を転移させるものであり、リリアーヌは今でも場所が分からぬ遠くへと飛ばされました」
下手したらそのまま命を失うような状況に、話を聞いていた皆さんがざわついた。そこで今度は、私が口を開く。
「私は深い森の中に飛ばされました。どちらに向かえば国に戻れるのかも分からず途方に暮れていたところ、ラウフレイ様と出会ったのです。ラウフレイ様は私の魔法が綺麗だと好意を持ってくださり、帰還の手助けをしてくださることになりました」
『リリアーヌの魔法、そして魔力はとても心地よく美しいのだ。それに惹かれた我はリリアーヌを助けることにした』
ラウフレイ様もフェルナン様と私が言葉を選んでいることを察知してくださっており、そこで言葉を止めてこちらに会話の主導権を委ねてくださった。
私はどこまで話すべきなのか、必死に頭の中で考えてから口を開く。
「聖獣様であるラウフレイ様は、空間属性という私たちには使えない能力をお持ちでした。その能力の一部を私に与えてくださったのです」
私が空間属性を得たことは隠そうかと思ったけれど、そうなるとラウフレイ様が他人を連れて好きな場所に転移ができることになってしまうので、ラウフレイ様に迷惑をかけないようにと考えた。
「空間属性では転移という、先ほどのラウフレイ様のように一瞬で別の場所に移動するという魔法が使えます。しかしこの魔法は他者を連れることはできず、転移できるのは本人のみなのです。そこで私は能力を与えてもらいました」
そこで言葉を切ると、今度はフェルナン様が私の腰にそっと腕を回しながら口を開かれる。
「そうしてリリアーヌは、どこか遠くの深い森から、私の下に帰ってきてくれました。ラウフレイ様には本当に感謝しています」
信じられないという表情でここまでの話を聞いていた皆さんの中から、一人の男性が恐る恐る手を挙げて、口を開いた。
「あの、質問を良いでしょうか」
「はい。なんでしょうか」
「その……まず、聖獣様という存在は、どのようなものなのでしょうか」
意を決した様子の問いかけに、ラウフレイ様は焦らさずに答えてくださる。
『世界を見守る存在だ。我は主にこの大陸だな』
「それは、私たちの危機をお助けいただけると、そういうことではないのでしょうか」
竜によって危機に瀕しているところに、ラウフレイ様のような人智を超えた存在が現れたならば、そう考えてしまうのは当然だろう。
『いや、我はあくまでも見守る存在だ。したがって、世界を大きく変えるようなことはできない』
「そうなの、ですね……で、では! リリアーヌ様に授けたという力を、私たちにも授けていただくことはできないのでしょうか」
『それは難しいだろう。力を授けるのは、そう簡単なことではないのだ。リリアーヌは特別だ』
その説明で納得してくださったのか、男性は残念そうにしながらも口を閉じた。
しかしこの流れだと、私がとても特別な存在のようになってしまわないかしら……ラウフレイ様との関係が公になったのだから仕方がないことだけれど、色々と心配になってしまう。
私が色々と考えていると、また別の方が手を挙げた。
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