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70.俺が知らない世界の裏側⑩


「真砂君、避けなさい!」


「っ……!」


 両面宿儺の雄叫びに怯んだ俺に向かって、沙耶香が叫んでくる。

 考えるよりも先に後ろに飛ぶ。先ほどまで俺がいた空間に金属の刃が振り下ろされ、ズカンと爆発するような音を立てて床が爆砕された。


「おいおい、マジか……!」


「まだよ! 油断しないで!」


「うっ……!?」


 両面宿儺の攻撃は終わってはいなかった。

 8本の腕に持っていた剣の1本を、後方に回避した俺めがけて投げつけてくる。


「シールド!」


 とっさに魔法を発動させて回転して飛んでくる剣を防ぐが、直後、猪のような勢いで突進してきた両面宿儺にまでは対応することができなかった。


「うわあっ!?」


「真砂君!?」


 両面宿儺が剣を投げて空いた腕で俺の身体をつかみ、壁に向かって投げ飛ばす。背中が壁に衝突した途端、パリンとガラスの割れるような音が鳴った。

 次の瞬間には俺の身体は先ほど登ってきた山道を転がっていて、周囲は無数の木々に囲まれている。


「これは……ひょっとして、結界が壊れたのか?」


 沙耶香は、あの修行場が特殊な結界によって作られた異界のようなものだと説明していた。両面宿儺の攻撃で結界が壊されて、外の世界に弾き飛ばされたのだろうか。

 前方に視線を飛ばすと、先ほどまであった山中のお堂は跡形もなく消失していた。木々が切り拓かれて開けた空間には、呆然と立ちすくむ沙耶香の姿だけがあった。


「沙耶香さん、しかいない……!?」


 背筋を撫でる冷たい悪寒。

【索敵】スキルを発動。木々の隙間を縫って、右側から勢いよく迫ってくる気配を察知した。


「ああもうっ……手がいっぱいあるからって調子に乗るなよ!」


 ストレージから剣を取り出して、右側へと振るう。俺の身体を斬り裂かんと肉薄していた刃と、ミスリルの剣がぶつかった。


『オオオオオオオオオオオオッ!』


「このっ……化け物め!」


 こうして剣をぶつけ合って初めてわかる。凄まじいパワーだった。

 力任せに押し込もうとするが、受けるだけで精一杯だった。とてもではないが力比べで勝つことなどできない。

 こちらは両手で剣を握っているのに、あっちは腕の1本しか使っていないのがまた理不尽を感じさせる。


『オオオオオオオオオオオオッ!』


「あ……」


 そして、何よりも厄介なのは両面宿儺には腕が8本あることである。

 両面宿儺の残る7本の腕には依然として剣が握られていた。いつ拾ったのか、さっき投げたはずの剣まで戻っている。


「やべっ……!」


 こちらは両手で剣1本を防ぐのがやっと。シールドの魔法を使ったとしても、7本の剣を一度に防ぐことなど不可能。

 俺の脳裏にかつてない死の予感がよぎった。


「はあああああああああああっ!」


 しかし、そうはならなかった。

 7本の剣が俺の身体を斬り裂くよりも先に、両面宿儺の頭上から沙耶香が斬りかかる。


「斬神一刀!」


 3メートルほどの高さから赤い軌跡を描いて、沙耶香が大太刀を振り下ろす。

 両面宿儺は頭上を見ることもなく2本の剣で沙耶香の攻撃を防ぐが、真っ赤なオーラのようなものを纏った大太刀が青銅の剣を粉々に破壊する。


「ヤアッ!」


『オオオオオッ!?』


 沙耶香の斬撃が銅剣を打ち砕いたままの勢いで、両面宿儺の右側の顔を斬り裂いた。傷口から血の代わりに光の粒のようなものが噴き出し、雪のように舞う。

 効果はバツグンといったところだろうか。ひょっとしたら、あの赤いオーラには両面宿儺に対して有効な属性が込められているのかもしれない。


「真砂君、ここから逃げて! ここは私が引き受け……」


『オオオオオオオオオオオオッ!』


「かはっ!?」


 両面宿儺が沙耶香に向けて手をかざす。

 かざした手の平から衝撃波のようなものが放たれて、沙耶香の身体が蹴られたボールのように吹き飛ばされる。


「沙耶香さん!?」


「っ……! 私にかまわなくていい、早く、逃げて……!」


 沙耶香が地面を転がりながらうめく。

 どうやら両面宿儺は俺よりも沙耶香のほうを脅威と見たらしく、沙耶香のほうに顔を向ける。

 沙耶香は必死に起き上がろうとするが、吹き飛ばされたダメージのせいかなかなか立つことができないようである。


『オオオオオオオオオオオオッ!』


「くっ……しまった!」


 両面宿儺が攻撃の標的を変えて、沙耶香へと銅剣を振りかざす。沙耶香の表情が恐怖に歪んだ。


「よそ見してんじゃねえぞ、怪物!」


 だが――もちろん、俺もそれを静観はしない。両面宿儺へと手をかざして魔法を発動させる。

 黒い炎が手の平から放たれて、両面宿儺の左の頭部を包み込む。


『アアアアアアアアアアアッ!?』


「闇属性魔法――『ラース』!」


 発動させたのは、下水道の事件を解決したクエスト報酬として手に入れた【闇属性魔法】のスキルだった。


 事件解決から半月。このスキルを重点的に鍛えたおかげで、レベルはすでに5まで上がっている。

【闇属性魔法】はLv1の『ダークブレット』を除いて、いわゆる『七つの大罪』に関連したスキルらしい。Lv2で『スロウス』、3で『グラトニー』、4で『グリード』、5で『ラース』を修得することができた。


 そのレベル上げ方法はワールドクエストに乗っていたのだが、それはかなり特殊で困難な手段だったりする。

 例えば、『スロウス』という魔法は『24時間ベッドから降りるな』という謎のクエスト成功によって取得した。

 風邪を偽って真麻の目を誤魔化したり、さらにトイレに行かなくて済むように尿瓶や成人用オムツを購入したりと、意外にそのレベル上げは大変で思い出したくもない。


 ワールドクエストの内容が大変な代わりに、【闇属性魔法】によって修得できる魔法はかなり強力だった。

『ラース』は黒い炎を敵に向かって放つ魔法である。使用者が怒れば怒るほど威力が増していくという特性があるのだ。


「俺の目の前で女を攻撃するんじゃない! そのまま燃え尽きろ!」


『オオオオオオオオオオオオッ!?』


 目の前で沙耶香がやられそうになっていたため、怒りのゲージは頂点にまで上がっていた。放たれた魔法の威力はかなり大きい。

 両面宿儺は燃え盛る頭を激しく掻きむしって炎を消そうとするが、なかなか黒い炎は消えなかった。

 それもそのはず。ラースの魔法による火炎は、俺の怒りが消えない限り決して消えないのだから。

 両面宿儺がそのことに気がついたかどうかは不明だが、2つの頭部がぎょろりとこちらに向けられる。


「ガッ、アアアアアアアアアアアッ!」


「むっ……!」


 どうやら魔法攻撃によってヘイトを稼ぐことができたらしい。両面宿儺は沙耶香から俺へと標的を変え、再びこちらに突っ込んでくる。


 俺は沙耶香が逃げる時間を稼ぐため、地面を蹴って木々が生い茂る森の中へと飛び込んだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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