58.危険な後輩、危険なデート⑨
新作小説『悪逆覇道のブレイブハート』を投稿いたしました!
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「さて……今度こそ終わったみたいだな」
老人――化け物になった吸血鬼の消滅を確認して、俺は「ふう」と溜息をついた。
クエストボードを呼び出して確認すると、緊急クエストの達成が表示されている。
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緊急クエスト
『下水道に潜む怪異』 CLEAR!
下水道に潜み、うら若き乙女をさらっていた怪物の正体は吸血鬼だった。
町に次々と現れる吸血鬼。彼らの真の目的は……?
そして、謎に包まれた後輩・朱薔薇聖の正体は……?
報酬:スキル【闇属性魔法Lv1】
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「む……」
色々と気になる内容の文章である。
ツッコミどころがあるのは、やはり後輩女子・朱薔薇聖の正体についてだろうか。
色々と気づかないフリをしていたが、さすがに聖がタダ者ではないことは察していた。しかし、こんなおふざけ満載、脱衣系おかっぱロリ後輩が重大な秘密っぽいものを抱えているということにイラっとしてしまい、中二病という言葉で片付けていたのだ。
いい加減に気づかないふりも限界がありそうである。そろそろ、ちゃんと問い詰めなければいけない時が来たようだ。
聖の方を振り返ると、半裸の後輩はすでに目を覚ましたようで身体を起こしていた。スポーツブラに包まれた小さな胸を隠すことなく、赤い瞳をこちらに向けている。
「まさか本当に倒してしまうとは……先輩はやはり一般人ではなかったようですね。私が見込んだだけのことはあります」
「……お前が何を見込んだというのだ。そんな言葉でごまかされるわけないだろうが」
「何の話ですか? 私は先輩に怒られるようなことはしていませんよ?」
ヒューヒューと吹けもしない口笛の真似をして、聖が視線を背ける。
ああ、そうだな。お前はそういう奴だよ。
人をこんな場所に連れてきておいて、一方的に敵を押し付けて囮に使う。身勝手で破天荒な後輩だとも。
「……まあ、そんなアホの子だから、何をしてやっても許される気がするんだが」
「先輩、目が怖いですよ? ほらほら、私のおっぱい見てもいいですから機嫌を直してください」
「お前のおっぱいにそんな価値はないよ。いい加減に、しつけの時間だ」
俺はジリジリと距離を詰める。聖は相変わらずの無表情であったが、わずかに口元を引きつらせて後ずさる。
「せ、先輩? それ以上は18禁ですよ? 地上波では放送できませんよ?」
「お前の存在自体が放送禁止だから心配するな。これはあくまでも馬鹿な子供に対するしつけだから。エロいことなど何もない!」
「ふあっ!?」
俺は聖の身体に飛びかかった。逃げる後輩女子を捕まえて、無理やりうつぶせにする。
「ふはははははは……もねもね、うにうに!」
「ひゃああああああああああっ!」
「うにうに、ぐにぐに、こねこね……!」
「ちょっ! ダメですこれ! みゃあああああああああっ!」
勘違いしないでいただきたい。決してエロいことはしていない。
俺がやっているのは、うつぶせに寝かせた聖の背中にマッサージをしているだけなのだ。
首から肩のラインを丁寧に指でもんで、僧帽筋と棘上筋のコリをほぐしていく。肩甲骨の後ろを手の平で円を描くように撫でて、さらに背骨にそって上から下へと順繰りに揉む。もちろん、腰は重点的にマッサージをした。
「ふあっ……せ、先輩……これ、すごいです……ダメになっちゃいます!」
よほど気持ちが良かったのだろうか。普段は平坦な口調の聖の口からは蕩けたような甘い喘ぎが漏れている。
「ふふふふっ、この程度で終わると思うなよ!」
実を言うと、俺は昔からマッサージが得意なのだ。
子供の頃は毎日のように祖父母の肩を揉んでいたし、両親と同居していた頃には30分1000円で請け負っていた。最近は日々の家事で疲れた妹を労うことにしか使っていないが、俺のマッサージの腕には素人ながらも定評があるのだ。
それに加えて、先ほど覚えたばかりのスキルである【調教】と【性技】、【治癒魔法】での回復効果をプラスしている。これが気持ち良くないわけがない。
無表情キャラである聖も、溶かした鉄のようにトロトロになっていた。
この生意気な後輩をとうとうやり込めてやった達成感に、俺の心も昂っていく。
「ところで、聖。お前はまだ俺に隠し事をしているよな?」
「ふえ……?」
「何でお前は吸血鬼のことをあんなに良く知っているんだ? それに、何度か聞いた『ローズレッド』というのはどういう意味だ?」
「そ、それは……」
「ローズレッド……直訳すると、『朱薔薇』になるよな? どういうことだか説明してもらおうか?」
「そ、それは…………話せません」
「ほお?」
マウントを取られながらも、聖がプルプルと首を振る。追い詰められた小動物のような姿には、ちょっとした嗜虐心が湧いてきてしまう。
「いい度胸じゃないか。俺のお仕置きがこれで終わりだとでも思ったか?」
俺はゆっくりと手を腰から太腿。足先まで下げていく。
「秘技・地獄足つぼマッサージ!」
「あたたたたたたたっ! ちょ、せんぱい! みぎゃああああああああっ!?」
「フハハハハハハハッ! さあ、大人しく口を割るが良い! 昇天するまで続けてやる!」
「きゃああああああああああっ!」
「……何をしているんだ。君達は」
「へ……?」
――と、調子に乗って聖を攻めていたら、背中に冷や水のような声が浴びせられた。
突然の第三者の声に振り返ると、下水道の通路に1人の女性の姿があった。
「………………沙耶香さん?」
「…………」
後輩女子に無理やりマッサージをしている俺を冷たい目で見つめていたのは、長い黒髪をポニーテールにした背の高い女性。
剣術道場の娘――雪ノ下沙耶香であった。
「…………デジャブだ」




