57.危険な後輩、危険なデート⑧
「はい、お仕舞い」
思った以上にあっさりとカタがついた。俺は満足して頷き、床に倒れている聖へと目を向けた。
「さあ、ここからがお仕置きタイムだ。色々とやられた分の借りをまとめて返してやろうじゃないか」
俺は自分のことを女性に優しい紳士だと思っていたのだが、なぜか聖が相手だと不思議なほど雑な扱いができるのだ。
せっかくだから、先ほど覚えたばかりのエロスキルでも試してやろうか。そんなことを考えながら倒れた後輩女子に向けて1歩踏み出したところで、脳内に警鐘が鳴り響く。
「むっ!」
【索敵】スキルが発動した。背後に敵の気配!
前方に向かって転がるようにしてその場を離脱する。次の瞬間、俺が先ほどまでいた空間を斬撃が襲う。
「おのれええええええええっ! 人間ごときがアアアアアアア!」
「うわ……変身してるよ」
振り返った俺が目にしたものは、背中から翼を生やして、頭部を狼のように変貌させた老人の姿であった。両手の爪は剣のように伸びており、どうやらそれで斬りつけてきたようである。
ミスリルの剣で両断されたことで腰から下は消失しているが……斬り捨てられた下半身が起き上がってきて、上半身と接合する。
「そうか……吸血鬼って不死身の怪物だったな。油断してたわ」
ゴールデンウィークに倒した吸血鬼が弱すぎて、どうも甘く見ていたようである。
立ち上がって変身した老人の姿は吸血鬼というよりも、蝙蝠と狼を強引に掛け合わせたような異形の姿となっていた。
俺は再びミスリルの剣を構えて、切っ先を怪物に向ける。
「俺達の戦いはこれからだ……文字通りにな」
「許さんぞおおおおおお! 人間がアアアアアアア!」
「おっと!」
怪物が爪を振り下ろす。先ほどよりも格段にスピードが上がっている。
それでもまだ俺のほうが速い。俺は振り下ろされた左腕をそのまま斬り飛ばす。
「下等生物がああああアアアアアアッ!」
『キシャアアアアアアアアアアアアッ!』
「うわあっ!?」
斬り落とされた左腕から無数の蝙蝠が放たれた。四方から襲いかかってくる蝙蝠にギョッと目を剥いて、俺は身体を伏せて転がるようにして躱す。
「あぶなっ……厄介な攻撃を……!」
俺の弱点の1つなのだが、例えば魔法による全体攻撃のように一度にたくさんの敵を攻撃する手段を持っていないのだ。
老人1人であれば変身したところで負けはしないと思うのだが、蝙蝠の群れを相手にするのは難儀である。
「こういう時は……アイテム任せだ!」
ストレージから取り出したのは、先ほど操られた女性を拘束するのにも使用した『魔物捕獲ネット』である。
発射された粘着性のネットが十数匹の蝙蝠をまとめて捕獲する。このアイテムは素材がたくさん手に入ったため、無駄に数を作っているのだ。どんどんネットを撃って、蝙蝠を捕まえていく。
「ナニイイイイイイイイイッ! 人間ガ、小癪ナ真似ヲオオオオオオオオオ!」
次々と手下の蝙蝠が捉えられていくのを見て、怪物が焦ったような声を上げて爪を振り上げる。俺はそんな怪物の顔面めがけて、魔法を撃ち放つ。
「ブレット!」
「ガッ!」
「吸血鬼の弱点の退治法といったら、心臓を木の杭で刺すんだよな! ミスリルじゃダメだってルールはないだろうよ!」
魔法を顔面に食らって怯んだ怪物の懐に飛び込み、服が破れて剥き出しになった胸にミスリルの剣を突き刺した。
ついでに、【聖属性攻撃】のスキルも使用しておく。吸血鬼がアンデットならば、これだって有効だろう。
「ヒ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
肉の焦げるような匂いとともに、吸血鬼の身体が粉々に崩れていく。残骸が白い灰となって床に大きな山を作る。
町の夜を脅かしていた都市伝説の怪物。その大元であった存在が消滅した瞬間であった。
いつも応援ありがとうございます!
よろしければ下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします!




