54.危険な後輩、危険なデート⑤
俺と聖は下水道の地面に残った痕跡を追いかける。
脳内のマップも更新されていき、どんどん下水道の構造もはっきりしていく。
「ん……これは……?」
「どうかしましたか、先輩」
「いや、それが……」
脳内のマップ上――下水道を進んだ先に開けた場所があるのだが、そこに複数の反応があるのだ。【索敵】スキルもビンビンに反応しており、複数の敵の気配を感じる。
てっきり単独犯による犯行だと思っていたのだが、敵は一人ではないようだった。
「なあ、聖」
「はい、何ですか。先輩」
「ここからは俺一人で行く。お前はちょっと待ってろよ」
敵が複数となると、戦いながら聖を守りきる自信はない。
俺一人となればどうにでもなる。少なくとも、相手がこの間ダンジョンで戦った巨大骸骨よりも強いということはないだろう。
「それはダメですよ。先輩」
しかし、聖はきっぱりと断言して首を振る。
「父の汚名は子が雪ぐものです。ローズレッド一族の名に懸けて、泥を塗られて黙っていることなどできないのです」
「お前、今なんて言った?」
ちょこちょこ爆弾発言をぶっこまれている気がするのだが、これはもっと深く突っ込んだ方が良いのだろうか。
はたしてこの後輩の発言はタダの中二病として流していいものなのか。
「先輩、何かいますよ」
聖が前方を指差した。【索敵】スキルにも反応。敵が近づいてきている。
前方の通路から複数の人影が現れて、俺達の前に立ちふさがる。
「あ? この人達は……」
目の前に現れたのは複数の女性である。何人かの顔には見覚えがある。食堂で聖から見せてもらった写真に写っていた被害者の女性だった。
聖が安堵の溜息をついて、女性達に近寄っていく。
「皆さん、無事だったみたいですね。よかった……」
「聖!」
「はうあっ!?」
俺は聖の首根っこをつかんで引き戻した。
「シャアアアアアアアッ!」
女性の一人が聖に向けて手を振り下ろしてきた。女性の手は不自然に爪が伸びており、まるでネコ科の猛獣のように鋭くなっている。
もしも俺が引き戻さなければ、聖は女の爪によって引き裂かれていたに違いない。
「シャア、ヒュアアアアア……」
誘拐されたはずの女性達は明らかに目がイッてしまっており、正気を失っているのがはっきりとわかった。ジリジリと追い詰めるようにこちらと距離を詰めてきて、襲いかかるタイミングを計っているようである。
「あれは付け爪じゃないよな……どうなってる?」
「……操られています。眷属化はしていないみたいだけど」
「はあ?」
「おそらく魅了の一種だと思う。完全に転化はしていないようだから、主人を倒せばまだ人間に戻せる」
「ちょ……なんて?」
意味不明の単語を連発させる聖に、俺は怪訝に問いかける。
しかし、おかっぱ頭の後輩は俺の疑問に答えることなく、代わりにグッと立てた親指を突き出してきた。
「先輩、ここは私達の絆の見せ所です。ここは貴方に任せて私は行く!」
「え……は……それって逆なんじゃ……」
「それじゃあ、あとは任せました。骨は拾ってあげます」
「うおおいっ!? ちょっと聖さん!?」
聖は俺の手から離れてピョインと大きく跳ねた。そのまま汚水が流れている側の壁を走って操られた女性を避けていく。明かりも持っていないというのにその動きには迷いがなく、見る見るうちにその背中が見えなくなってしまう。
忍者のような機敏な動きに俺はもちろん、女性達も呆然と見送ることしかできなかった。
「えーと……よくわからないんだが、ここは置いて行かれた者同士、一回話し合って……」
「シャアアアアアアアッ!」
「無理だよね! わかってた!」
残された俺に向かって襲いかかってくる長爪の女性。
俺はぎゃーぎゃーと喚きながら、迫りくる女性達を迎え撃った。
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