51.危険な後輩、危険なデート②
本日2話目になります。
どうぞ前話からお読みください。
「――と、いうことがあったそうです」
「…………」
隣からかけられた後輩の声に、俺は沈黙で答えた。
昼休みの学食。
最近は春歌と早苗と昼食をとることが日常になっていた俺だったが、その日は珍しく2人とも用事があったためボッチ飯になっていた。
入口で食券を購入して、厨房の前まで持っていって料理と交換してもらう。頼んだ料理はチキンカツ定食。この学食のおすすめの逸品である。
料理を載せたトレーをもって向かった先は学食の隅のテーブル。運が良いことにテーブル丸ごと空いている場所があったのだ。
座って割り箸を手に取り、さあいただこうかと思った矢先。俺の隣のイスに腰かける女子生徒がいた。
「……それで、そんな都市伝説を聞かせたくてわざわざ隣に座ってきたのかよ。朱薔薇聖」
そう、隣に腰かけてきた女子生徒の名前は朱薔薇聖。
この高校に通っている一年生で、一つ後輩にあたる女子。父親は近所の教会の牧師さんをしており、部活動は吹奏楽部に入っているらしい。
ちなみに、俺はゴールデンウィークに聖から刃物で襲われており、紆余曲折の果てに下着姿に剥いて押し倒したことがあった。
そんなどっちが被害者でどっちが加害者かもわからない気まずい関係であるはずの後輩が、突如として隣に腰かけてきたのだ。
何事もなかったかのようにうどんをすすっており、挙句にわけのわからない怪談を話したりしている。
いったい、どんなイベントが発生しているというのだろうか。俺は混乱に頭を抱えた。
「あ、おしんこ、食べないならください」
しかし、後輩の謎の襲撃に戸惑っているのは俺1人である。聖は俺の皿から漬物をとっていき、コリコリと小気味よい音を鳴らして齧っている。
俺はのんきな顔に無性に腹が立って、聖の頭を腕で引き寄せて拳を押しつけた。
「はうっ!?」
「よーし、先輩が話を聞いてやるぞー。な・ん・の・用事でやって来たのかなー?」
「痛いです。頭ぐりぐりしないでください!」
兄妹喧嘩でしかやらないお仕置き技である。おかっぱ頭を引き寄せて握りこぶしで攻撃をすると、聖がワタワタと両手を振って抵抗する。やがて腕をタップして降参してきたので、頭を解放してやった。
「うー、ズキズキするのです……先輩のきちく。じんがい。どすけべ、れんぞくれいぷま……」
「人聞き悪すぎるだろ。お前にしかやらないって。こんなこと」
相手は自分のことを刃物で襲ってきた女子である。いくら俺が紳士であるとはいえ、そんな奴に遠慮してやるつもりはない。
俺は憮然と胸を張り、もう一度、聖に要件を尋ねる。
「さあ、俺に何の用だ。さっさと話せ!」
「うー……もう話してる」
「あ?」
「さっきの話。怪談。アレが用件」
さっきの話というと、女性が雨の日にマンホールに引きずり込まれたとかいう都市伝説のことだろうか?
わざわざ、そんな話をするために先輩の食事を邪魔したのか。この切り裂き系女子は。
「あれは都市伝説なんかじゃない。この町で現在進行形で起こっている、本当の事件」
「はあ?」
何を言い出すのだ、こいつ。
怪訝に眉をひそめる俺に、聖はペロンと制服のスカートをまくり上げた。
「うわっ!?」
「これが最初の被害者の里村洋子さん」
白い太腿と、もっと白いパンツが露わになる。思わず顔を背けようとする俺の目の前に、聖が何かを突きつけてきた。
聖がスカートの中から取り出したのは女性の顔写真だった。何でそんな場所に隠しているのだろうか激しく謎である。
ナイフを身体のあちこちに隠していたり、服の下に色々と仕込むのが好きなのかもしれない。
「2人目、山田奈津美さん。3人目、市原康子さん。4人目、時田若葉さん……警察が把握しているのはこれだけ。捜索願が出ていない人も含めたら、被害者はもっといるかもしれない」
「おいおい、どうして君がそんなものを持ってんだよ……」
行方不明者の情報なんて、どう考えても警察の内部情報ではないだろうか。そんなものを女子高生がどうやって入手したというのだ。
最近は女子高生が何をやっても売れる時代だが、ひょっとしてこのイカれた後輩が女子高生刑事だとでも言うのだろうか?
「……ここにいる行方不明者。全員、パパの知り合い」
「え?」
「パパの知り合い――うちの教会に通っている信者の人ばかりが誘拐されてる。下水道に引きずり込まれるのを見たり、悲鳴を聞いたりした人が大勢いる。捜索願が出されていて、警察はパパを疑っている」
「…………」
俺はしばし黙り込み、頭の中で状況を整理する。
聖が口にしている『パパ』というのは、間違いなくあの人の好さそうな牧師さんのことだろう。
牧師さんの知り合いの女性ばかりが誘拐されて下水道に消えている。確かにそれはタダごとではない事態である。
「……それで、君は俺にどうしろと言うんだ」
何故、どうしてそんな重たい話を僕に持ち込むんだ。そんな非難も込めて聖に改めて問いかける。
聖は俺のことをまっすぐに見つめて、口を開く。
「先輩、放課後に狩りに行きます。一緒に来てください」
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