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45.目指せ、生産職。かーらーのー……⑤


「む……」


 クエストボードを開いて確認してみると、『Information』に新しいメッセージが届いていた。


『ダンジョンに到達したことでクエストボードに新しい機能が追加されました』


 見れば、トップページに新しいアイコンが加わっていた。アイコンに書かれているのは『ダンジョン探索』という言葉である。

 俺は迷うことなく新しいアイコンを押した。


――――――――――――――――――――


001下級採掘場

 かつて都市アヴァロンに暮らす人々が利用していた採掘場。

 ダンジョンコアの発生とともにモンスターが棲みつくようになってしまい、鉱石を採掘できなくなってしまった。

 その洞窟の奥からは、今日も魔物に襲われた被害者の亡霊が怨嗟と無念の声を上げている……。


残り探索時間 00:58:35

※時間経過、あるいは帰還コマンドにより脱出可能。


――――――――――――――――――――


 ダンジョンの説明文の下には緑色の四角いボタンがあり、『帰還』と書かれている。

 どうやらこのボタンを押すか、1時間が経過することでダンジョンから出られる仕様になっているらしい。

 いや、『迷宮都市アヴァロン』ってどこの町だよ、とか色々と言ってやりたいことはあるのだが、とりあえず帰れなくなって遭難するということはなさそうである。


「……まあ、生きていればの話だけどな」


 この説明文を信じるのであれば、このダンジョンにはモンスターが棲みついているようである。モンスターに殺されてしまったら帰還も何もあったものではない。

 いくらゲームのような力を手に入れたからといって、セーブやコンティニューがあるわけではないのだから。


「作戦は『いのちだいじに』……これの一択だな」


 俺はリュックサックの中から、先ほどホームセンターで購入した(なた)を取り出した。キャンプ用品コーナーで見つけた刃渡り20センチほどの大きさのものである。

 現代日本には武器屋などというものは存在しない。ましてや銃刀法違反という厄介な決まり事まであるのだ。現代人に入手できる武器の限界はこれくらいだろう。

 さらにサバイバルナイフを取り出して腰のベルトに装着する。

 刃物ばかり買う俺に、ホームセンターの店員さんが怪訝な顔をしていたが、「キャンプで使うんです」の一点張りで押し切った。


「……武器は装備しなければ意味がありません、っと」


 俺はいつでも使えるようにしっかりと武器を身に着けて、慎重な足取りで洞窟の中を歩きだした。

 洞窟とは言ったものの、元々は人工の採掘場だけあって地面はキレイに整地されている。横幅も広く、壁にはいったい誰が設置したのか松明まで付けられているため、探索に支障はなかった。

 昔、家族旅行で訪れた鍾乳洞のほうがよっぽど足元が不安定で歩きづらかったくらいである。


 そのまま10分ほど歩いて行くと広い場所へと出た。

 おそらく、ここで鉱石が採掘されていたのだろう。広い空間のあちこちに、錆びついたツルハシやハンマー、ノミなどの道具が放置されている。

 そして――かつてここで鉱夫として働いていたであろう人間の成れの果ても。


「う……」


 俺は壁に寄りかかるようにして倒れている人間の白骨死体を見て、思わず顔をしかめてしまった。

 吸血鬼に襲われたり、不良やチンピラをぶちのめしたりと色々な経験をしたものの、人間の死体を目にするのは初めてのことである。

 誰にも弔われることなく放置された亡骸にさすがにいたたまれない気持ちになってしまい、俺は骸骨の傍にしゃがみ込んで両手を合わせた。


「ナムアミダブツ、ナムアミダブツ。どうか成仏してくださ……」


 と、そこまで口にしたところで腕をつかまれた。

 物言わぬ白骨死体だと思っていた骸骨が起き上がり、ガッチリと俺の左腕を握り締めていたのである。


「カタカタカタカタカタカタッ!」


「ぎゃああああああああああっ!」


 白骨死体が上下の歯を打ち合わせて、笑い声のように音を鳴らす。

 突然のホラーに悲鳴を上げて、俺は掴まれていないほうの手で頭蓋骨を殴り飛ばした。


「カタッ……!」


 殴り飛ばされた白骨死体の頭は胴体から離れて勢いよく飛ばされていき、壁にぶつかってバラバラに砕け散った。

 腕をつかんでいた骨の手が離れて、ダラリと力なく地面に落ちた。


「び、ビックリした……! これがモンスターだったのか…!」


 俺は今度こそ動かなくなった白骨死体から距離をとりつつ、胸に手をあててバクバクと跳ねている心臓を抑える。

 考えても見れば、スケルトンなどのアンデット系のモンスターはダンジョンの定番である。完全に油断していた。


 俺はキョロキョロと周囲に視線を走らせる。どうやらスケルトンはこの一体だけのようだ。他に敵の姿は見当たらない。

 俺は安堵に息をつきながら頭を掻きむしった。


「……完全にホラーだったな。人間相手のケンカには慣れたけど、今のは流石にビビった」


 バラバラになった頭蓋骨の残骸を見下ろす。

 ダンジョンに入って初のモンスターを撃破したわけだが、ドロップアイテムなどは落ちていない。ビビり損である。

 せっかくダンジョンに来たのだから、お土産にアイテムの一つでも手に入れたいところだ。

 俺はとりあえず、手近に落ちていたツルハシを拾ってみた。


「ん……?」


 ツルハシを握り締めてみて、ふと奇妙な感覚がした。途中で採掘が止まっている鉱道の壁がうっすらと光を放っているのだ。

 俺は感覚のままにツルハシを振り上げて、壁に叩きつけた。目の前の壁が崩れて拳サイズの石がこぼれ落ちてきた。


「これは……」


 紫っぽい色の奇妙な石である。アイテムストレージに入れてみると説明文が表示された。


――――――――――――――――――――


魔力結晶(紫)

 魔力を含んだ鉱石。マジックアイテムの素材として使用され、魔力の含有量が大きいほど色が濃くなる。


――――――――――――――――――――


「おおっ、素材アイテムだ」


 ツルハシを握って周囲を見回してみると、坑道のあちこちにうっすらと光を放つ箇所がある。まるでマーキングされているかのように、鉱石がある場所がわかるのだ。おそらく、これが【鉱石採掘】スキルの効力なのだろう。


 どうやら求めていたアイテムは地中にあったようだ。

 俺はさらなるアイテム獲得を求めて、大きくツルハシを振り上げた。


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― 新着の感想 ―
[一言] もうちょっと話の展開が有っても良いと思います。 最初は期待も合ったので良かったが進むにつれイマイチ展開に面白味に欠ける。
[一言] このダンジョンは、一回入ったら消滅してしまうのかな? ツルハシとか買わずによく採掘の為の洞窟に入ったな……
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