40.スキルのある学園生活⑪
沖本一味を懲らしめた数日後。
俺は昼休みになるや、昨日と同じように春歌と早苗と一緒に昼食をとることになった。
「いや、本当にもうお礼は十分なんだけど。さすがに何度もお昼を作ってもらうのは申し訳ないぞ?」
「いいのよ、月城君は少食だし。いつもよりちょっぴり多めに作るだけだから」
「いや、俺が少食なわけじゃなくて……」
春歌が大食いなだけなのでは?
そんなことを口にしそうになったものの、相手は女子である。
大食いであることを気にしているかもしれないし、どこからどこまでがセクハラにあたるのかわかったものではないご時世である。
俺は喉から出そうになった言葉を春歌の手料理とともに飲み込んだ。
「そういえばさー、今日、うちのクラスの男子が転校したんだよね」
「転校? こんな時期に珍しいな」
早苗がポツリと漏らした言葉に、俺は首を傾げた。
「よくわからないけど、ここ何日か学校を休んでてさ。最後に学校に来たのはゴールデンウィーク明けだったかな?」
「……ふうん」
ふと感じるものがあって、俺は微妙な返事を返した。
はたしてその男子とは何者だろうか。
「沖本って名前の男子なんだけど、真砂君は知ってたりする?」
「…………知らにゃい」
なぜか探るように顔を覗き込んでくる早苗から目を逸らして、俺は唇を尖らせた。
どうやら俺が沖本にかけた魔法は予想以上の効果があったらしく、もはや高校に通い続けることが難しくなってしまったようである。
はたして、沖本の転校先は違う学校なのか、それともどこかの病院や療養施設なのか?
じーっと見つめてくる早苗の隣で、春歌も首を傾げている。
「あら? 沖本君ってたしか早苗の……」
「春歌、その話はいいじゃん」
「あ、ええ。そうね」
春歌は失言に気がつき、手で口を覆う。
トラブルの末に別れた恋人の話など、誰も蒸し返されたくないだろう。
もちろん、俺にとっても都合の悪い話である。
俺は春歌が作ったおにぎりを口いっぱいに頬張り、食事に集中しているフリをする。
「ふご、ほご。もがもがもが」
「もう、月城君。そんなに慌てて食べたら喉に詰まらせるわよ」
「はい、お茶を淹れてあげるねー」
呆れたように溜息をつく春歌。
早苗が水筒からお茶を淹れて、俺に手渡してくれる。
「……ありがとね。真砂君」
「ふぐっ!?」
「えへへへ。何となく、お礼を言いたくなっただけ。気にしないで」
「ちょっとちょっと! 早苗ってば、どうして月城君にくっついてるのよ!?」
お茶を手渡してそのまま腕に抱き着いてくる早苗に、春歌も目をつり上げている。
いくら何でも学校で大胆すぎる行動である。
そもそも、俺達は恋人でもなんでもないというのに。
「ほら! 早く離れて!」
「ちょっとくらいいいじゃん。ほら、春歌も!」
「きゃっ!」
早苗がグイッと春歌の手を引っ張る。
前のめりになった春歌が俺の方に倒れ込んできて、そのまま胸に寄りかかってきた。
腹部に押しつけられたダブル・エベレストの感触が素敵すぎて、俺はそのまま固まってしまった。
「ねえ、真砂君。もう一つだけお願い聞いてくれない?」
「へ、あ……」
「今度から、ちゃんと私のことは早苗って呼んで? そうしてくれたらすっごく嬉しいな」
「……善処します」
俺はゴクリとおにぎりを飲み込み、早苗の言葉に頷いた。
「あ、あわわわっ!」
「えへへへ、食べさせてあげる。あーん」
春歌が俺に抱き着いた体勢のまま、キョドッて声を上げている。
早苗がニコニコと幸せそうに笑って、箸でつまんだ卵焼きを俺の口に運んでくる。
「ぐふ…………」
俺は2人の美少女の可愛すぎる顔と行動に、腹を殴られたような声を漏らした。
ゴールデンウィークが明けて、スキルとクエストのある学園生活はこうして始まったのであった。
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