39.スキルのある学園生活⑩
「ふう、悪は滅んだぜ」
「なっ……何なんだよお前は! いったい、何をしたんだ!?」
仲間の不良全員が地面を倒れたのを見て、沖本が悲鳴のような声を上げた。
人数を集めて恋敵をリンチしてやろうとしたのに、その相手におかしな攻撃で返り討ちに遭ったのだ。
動揺するのも無理はないことである。
「何をした、か……はは、何をしてんだろうな。まったく」
スキルやクエストがバレないようにと決めていたにもかかわらず、今日1日を振り返ってみたら使いまくっている。
体育の授業では100m走で陸上部のエースを負かして目立ってしまったし、今もこうして魔法でバンバン敵を倒してしまった。
我ながら、本当に隠すつもりがあるのかと疑わしくなってしまうような生活ぶりである。
「ああ、そうか、そうか。俺ってバカだったんだな」
自嘲しつつ、ふふんと笑う。
そもそも、俺は隠しごとの類が好きではないのだ。
たとえスキルがバレることになったとしても、例えば目の前で春歌や早苗、真麻が危ない目に遭っていたら迷わずスキルを使ってしまうだろう。
それによって平穏な学園生活が遠のいてしまうとしても、そんな後先を考えられるほど賢くないのだ。
「俺はもっとクールな人間のつもりだったんだけどな。いや、マジで」
「さ、さっきから何を言って……」
「悪い悪い、忘れてた。先にお前のことを片付けておくよ」
残っている敵は沖本ただ一人。もはや脅威などにはならない。
俺はスタスタと迷いなく沖本の前へと歩いて行く。
「ヒッ……!」
沖本は迫ってくる俺にビビって後ずさるが、すぐに神社の木の一本に背中をぶつけて止まってしまう。
俺はそんな沖本の頭部へと手を伸ばし、脱色した髪をガッチリとつかんだ。
「いや……そもそも最初からお前らは脅威の内に入っていなかったんだろうな。緊急クエストも発生しなかったし」
ゴールデンウィーク中には緊急事態が起こるたびに緊急クエストが発生したものだったが、沖本らに襲われた時にはそれがなかった。
つまり、沖本とヤンキーの群れはクエストボードにとって『緊急』には値しない、ごく日常的で取るに足りない存在だったのだろう。
「はは、お前らみたいのに日常的にエンカウントするのはちょっと面倒だけどな。歩いているだけで敵と遭遇するって、どこのRPGの世界なんだか」
「何をする気だ! やめろ!」
頭をつかまれた沖本が声を上ずらせる。
その顔は焦りと恐怖に歪んでいる。
先ほどまではあんな得意げな顔をしていたのに、ざまあなツラである。
「お、俺に手を出してみろ! パパが……俺の親父が許さねえぞ!?」
「……お前、今パパって言ったよな?」
強がって「親父」とか言ってるけど、家ではパパ呼びなのだろう。
沖本は赤面しつつ、なおも父親自慢を言い放つ。
「俺の親父は社長で、県の公安委員会にも入ってるんだぞ! 俺に手を出したら、すぐに警察に逮捕させてやるからな!」
「……ああ、そういえば親の権力で早苗とのラブホ事件を揉み消したんだってな」
「ふ、ふふんっ! それに会社には顧問弁護士だっているし、お前の親が破産するくらい賠償金を請求してやる!」
暴力で俺を倒せないと知るや、今度は親の権力を持ちだしてきた。清々しいほどのクズっぷりである。
父親の権力とかで悪事を揉み消す人間は刑事ドラマとかではたまに出てくるのだが、現実世界にも存在するとは驚きだった。
「そうか、すごいパパなんだな」
「へぶっ!?」
俺は沖本の頭を握ったまま、とりあえず腹パンしておいた。
「お、おまっ……こんなことをしてタダじゃ……」
「今のは暴力じゃない。ちょっとイラっとしたからツッコミを入れただけだ」
「つ、ツッコミ?」
「本当に何かをするのは…………これからだ」
「がっ……」
俺はいっそう沖本の頭部を握る手に力を込めて、本日のデイリークエストによって修得したばかりのスキルを発動させた。
【精神魔法Lv1】
ちなみにクエストの内容は『魔法を10回、敵に命中させろ』というものである。
どうやって修得したものかと悩んでいたのだが、沖本が連れて来てくれたヤンキーが的になってくれたおかげで達成することができた。
このスキルによって修得した魔法は『フォーゲット』。
相手から特定の記憶を奪って、忘却させる魔法である。
「あ、ぎ、がががっ……」
「……ご都合主義というか、どうにも見透かされているよな。欲しい時に欲しいスキルが手に入るんだから。誰かが俺のことを見張っているのかね?」
俺は沖本にフォーゲットをかけながら、ふと思い当たったことをつぶやいた。
もしもこのスキルが入手できていなかったら、沖本の口をふさぐのにかなり苦労することになっただろう。
それこそ、パパに告げ口をさせないように物理的に口封じが必要になっただろう。
事故に遭った早苗を助けるのに必要なポーションがデイリークエストによって入手することが出来たように、何者かがあらかじめこの展開を予想して、必要になるスキルを報酬として用意しているような気がしてならない。
「俺は隠し事が苦手だから記憶を消せるスキルはたしかに必要だよな……神か仏かわからないが、誰かに踊らされている気がする。俺がクエストボードをもらったのは、本当にたんなる実験のためなのか?」
ひょっとしたら、他に目的があってこの力を授けたのかもしれない。
そんなふうに邪推をしつつ、俺は沖本への証拠隠滅を終える。
「ががががががががが……」
「ふう、これで今日のことをバラされることはないが…………ちょっと余計な記憶を奪いすぎたかな?」
壊れたラジオのように同じ音を繰り返している沖本に、俺は腕を組みながら眉をひそめた。
記憶には意味記憶とエピソード記憶というものがあるらしい。
エピソード記憶はいわゆる思い出というもので、意味記憶は単語の名前などの言語能力に深くかかわる部分を指している。
この神社での出来事を忘れさせるだけでも良かったのだが、それだと早苗への執着はそのままなのでまたちょっかいをかけてくる恐れがある。
そこで意味記憶の部分もちょこっと消してみたら俺達に関われなくなると思ったのだが、やりすぎたのかもしれない。
「ががががががががが、ががががががががががが……」
「……まあ、いいか。こいつも色々と悪事を働いているっぽいし、自業自得ということで」
神社にゴミを捨てるとバチが当たると祖母に言われたことがあったが、はたしてこの大きなゴミについては許してくれるのだろうか?
俺は少しだけ不安に思いながらも、他のヤンキーの記憶処理を済ませて神社を後にするのであった。
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