37.スキルのある学園生活⑧
「いやあ、マジでスカッとしたぜ!」
体育の授業が終わり、教室に戻る廊下で笹塚がゲラゲラと愉快そうに笑う。
「沖本の野郎、すっかり意気消沈してやんの! 見たかよ、あの顔! 現実が受け入れられねえって面してたぜ!」
「そう言ってやるなよ。あいつだって一生懸命、走ったんだから」
俺は笹塚の横を歩きながら、沖本をフォローする。
沖本が春歌のこと中傷する言葉を吐いたことは腹が立ったが、それでも元カノである早苗が他の男といちゃついているのが気に入らないという気持ちは理解できなくもない。
あいつの得意の陸上競技で鼻をへし折ってやり、すでに俺の溜飲は下がっていた。
「それにしても驚いたぜ。月城ってあんなに足が速かったのか?」
「……最近、体力づくりをしてるからな。かけっこには自信がある」
「いや、そんなレベルじゃなかったと思うんだが? 沖本は性格は悪いが、それでも陸上部のエースだぜ? 3年にだってあいつより速く走れるのは何人もいないはずなんだが……」
「あははは……」
納得いかないといった様子の笹塚に、俺は笑ってごまかそうとする。
スキルやクエストボードのことをバレないように生活しようと誓っていたはずなのだが、ついつい一時の感情に流されて怪しまれるような行動をとってしまった。
いくら春歌のためとはいえ、先が思いやられることである。
「ま、なんでもいいか。沖本の悔しがる顔も見れたことだしよ」
「随分とあいつのことを嫌ってるんだな? そんなにさっき突き飛ばされたことが腹が立ったのか?」
「それもあるけどよ…………あの野郎、メチャクチャ評判が悪いからな」
笹塚がわずかに声を潜めた。
キョロキョロと周囲を見つつ、小声になってささやいてくる。
「知ってるか? あいつ、少し前に警察に補導されたんだぜ。女を無理やりホテルに連れ込もうとして」
「は……?」
俺は眉をひそめて聞き返した。
他人の噂話にあまり関心のない俺にとって、初めて聞く話題である。
「相手が誰だかは知らないけど、付き合っている女をデート中にホテルに連れ込もうとして、嫌がる相手を殴っちまったんだと。たまたまその近くを巡回中の警察がいてその場で補導されて、学校にまで連絡が入ったらしいぜ」
「…………」
その言葉にふつふつと嫌な感覚が湧いてきた。
沖本と交際をしていて、最近になって別れた女性に心当たりがあったからだ。
「……それでどうなったんだよ。女の子を殴ったりして、立派な犯罪だろ? 普通に学校に通っているってことは大きな問題にならなかったのか?」
俺の疑問に笹塚は腕を組み、眉間にシワを寄せて考え込む仕草をする。
「そうだなあ……俺も詳しくは知らないんだけど、沖本の家って結構大きな警備会社らしくて、おまけに親父さんは公安委員会だかなんだかの役員みたいだぜ? 親父の力で問題を揉み消したってもっぱらの噂だよ」
「そんなマンガみたいな話が……」
あるわけがない――そう言おうとして、言葉を切った。
マンガや小説の題材になるということは、少なからずそういった社会問題が実際に存在するからではないだろうか?
国家権力である警察に働きかけて不祥事や犯罪を揉み消すことができる人間も、ひょっとしたら身近にいるのかもしれない。
「なんて……沖本は偉そうな性格のせいで元から嫌われてるからなあ。女だってとっかえひっかえみたいだし。あいつに女を寝取られたりした誰かが流したデマかもしれないけどな」
「そうか……いや、そうであるといいんだけど」
言いながらも、俺の心中から不安は消えない。
沖本が噂通りの人物であるとして、ホテルに連れ込まれそうになった女子が早苗だったとしたら。
無理やりホテルに連れて行かれそうになって抵抗して、暴力を受けた――それが別れる原因になったとは考えられないだろうか。
(……あの性格の悪そうな男が、このまま早苗を放っておくか? あるいは、早苗を奪った感じになっている俺のことを見逃すだろうか?)
そんなことはあり得ない。
確実に、またちょっかいをかけてくるはずだ。
(先に仕掛けてくるとすれば俺の方だろうな。さっきの授業で恥をかかされた恨みもあるだろうし、注意しておいたほうがよさそうだ)
俺は改めて警戒を心に刻みつけ、拳を握り締めた。
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