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35.スキルのある学園生活⑥


 それから一悶着あったものの、最終的に俺と沖本がペアを組んで走ることになった。


 明らかにないがしろにされた結果の笹塚はぶつぶつと文句を言っていたが、沖本のタダならぬ様子を見て引き下がった。

 陸上部のエースである男子生徒は血走った眼をしており、俺を見る目には殺意のような感情が宿っている。


 そんな俺達の小さな揉め事をよそに、体育教師が授業を進めていった。

 二人一組のペアが100メートル走のラインに並び、順番に走って行く。

 ゴール地点には体育教師と日直がタイムを測定している。


 俺と沖本はペアになって100メートル走の列に並んだ。


「…………」


「…………」


 俺達の間に会話はない。


 俺にとって沖本はロクに話したこともない他クラスの生徒である。

 当然ながら会話を切りだすような話題もなかった。


(いや、話題がないこともないんだけど……)


 厳密に言うと、共通の話題はある。

 沖本の元カノであり、俺にとってはゴールデンウィーク中に急に親しくなった女子である桜井早苗という共通の知人がいるのだ。


(だけど……その話題は明らかに地雷だよな)


 沖本がやたらと俺を睨みつけてくるのは、間違いなく早苗のことが原因だろう。

 別れた彼女に未練でもあるのか、早苗と親しくしている俺がとにかく気に入らないのだろう。


(うーん、今の俺だったらケンカしたって楽勝だろうけど……どうしたもんかね?)


 ケンカどころか、沖本の得意のフィールドであるはずの陸上競技で勝負したって勝つことができるだろう。


 スキルによって強化された俺の身体能力はすでに常人の3倍にも近い。

 球技のように技術や経験を必要とする種目ならばまだしも、単純な脚力や体力を競う種目ならば負けることなどありえない。


 この100メートル走だって、俺が本気を出せば圧勝に違いない。


(とはいえ、ここで俺が陸上部に勝ったりしたら目立ちすぎるよな? 別に沖本に対して恨みがあるわけでもないし、穏便な学園生活のためにもここはわざと負けておいた方がいい)


 わざと速度を落として、沖本よりも1秒ほど遅くゴールする。

 俺はそう決めて、自分達の順番が回ってくるのをひたすらに待った。


「なあ……お前、早苗と付き合ってるのか?」


 しかし、あと3組で順番が回ってくるというところで沖本が沈黙を破って話しかけてきた。

 沖本は怒りを無理やり抑えつけたような苛立たしげな顔をしており、俺を横目でジロリと睨みつける。


「いや、付き合ってないよ」


 俺は端的に答えた。


 嘘はついていない。

 俺と早苗は一緒にデートをして、昼食をとって、腕に抱き着かれたりしただけで、恋愛関係には至ってなかった。

 ただの同級生というにはあまりにも境界を越えているような気がしないでもないのだが、恋人かと聞かれればノーと答えるしかない。


「そうだよな、早苗がお前みたいな陰キャと付き合うわけないよな」


 俺の返答がお気に召したらしく沖本が上機嫌に笑う。

 こちらを小馬鹿にしきっている、なんとも腹の立つ笑顔である。


 たいして話したこともない奴に『陰キャ』呼ばわりされるのは不愉快だったが、俺がクラスで目立たない地味なポジションにいることは事実である。

 特に反論はなかった。


 しかし――


「お前みたいな暗い奴はあのメガネ女くらいがお似合いだよ。ブサイクはブサイク同士で勝手に付き合ってろよ」


「あ?」


 沖本が吐き捨てた言葉に、俺は眉をひそめた。


 メガネ女。ブサイク――いったい誰のことを言っているのだろうか?


「……それは誰のことかな? まさかと思うけど、藤林さんのことじゃないよな?」


「藤林? 名前なんて知らねーよ。早苗といつも一緒にいる、あの根暗そうな女だよ」


「……藤林さんはメガネだけど、別にブサイクじゃないと思うけどな。それに根暗でもない」


「はっ、ブサイクがブサイクの肩を持つのかよ! やっぱりお似合いだぜ!」


「…………」


 沖本はヘラヘラとあざ笑う。

 そのこれでもかと見下した顔に、俺は拳を叩きつけてやりたい衝動に襲われた。


 ちょうどその時、俺達の前のペアが走り出す。

 次は俺と沖本が走る番だった。


「……本当は目立たないようにするつもりだったんだけどな」


「あん?」


 ボソリとつぶやくと、沖本が怪訝に眉根を寄せる。


 陸上部に100メートル走で勝ったりしたら、余計な注目を浴びてしまう。

 そうなれば、スキルやクエストボードのことを隠しておく難易度が高くなるだろう。


(だけど……俺だって男だ。許せることと許せないことがあるよな)


 自分の親しい女性を中傷されて、拳も振り上げられないやつは男ですらない。


 俺の頭に浮かぶのは、ゴールデンウィークにデートをしたときの春歌。

 メガネを外して三つ編みを解いた彼女の恥ずかしそうな笑顔である。

 続いて、不良に襲われながらも気丈に立ち向かう春歌と、稲荷寿司を口いっぱいにほおばっている食いしん坊な彼女の顔が浮かんでは消える。


「悪いけど……恥をかいてもらうよ。さっさとコースにつけ。けちょんけちょんに負かしてやる」


「テメエ、何をふざけたことを……」


 コースに入る俺に、沖本が目の険を強めて恫喝してきた。

 俺と早苗が付き合ってないと聞いて機嫌が直っていたのだが、俺への怒りが再燃している。

 俺は睨んでくる沖本を無視して、そのままスタート姿勢をとった。


いつも応援ありがとうございます。

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コミカライズ版 連載開始いたしました!
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レイドール聖剣戦記 コミカライズ連載中!
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― 新着の感想 ―
[気になる点] 元陸上部です。 陸上選手が速いのはスパイクシューズを履いてるからって言ってる人がいますけど、違います。 スパイクを履けば確かに少しタイムは変わりますが、重要なのは歩幅と足をどれだけ速く…
[良い点] 誰かの為に怒れる主人公の姿勢は結構好きです。 [一言] 執筆、応援しています。
[気になる点] 人間は脚力が上がっただけでいきなり超人的に早くなったりしません。なぜなら人間にはかぎずめやひずめがないからです。陸上選手が早いのは、スパイクシューズを履いてるからです。スパイクなしに全…
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