34.スキルのある学園生活⑤
両手に花の昼休みが終わって、5限目。
授業の科目は体育。内容は陸上競技の授業である。
「やれやれ……こっちは寝不足だってのに。体育かよ……」
春歌の手作り弁当を腹いっぱい食べたせいで、ただでさえ完徹明けだというのにさらに眠くなってしまった。
俺は寝ぼけ眼をこすりながら、ジャージで運動場へと出て行った。
体育の授業は隣のクラスとの合同である。
ちなみに、女子とは別れており、あちらは体育館でバスケをやるようである。
「なんだよー、こっちもバスケが良かったなー」
運動場の真ん中にて、隣に立っている男子が不満の声を上げる。
彼の名前は笹塚。下の名前は憶えていない。
俺と同じく帰宅部で、マンガやラノベにも詳しいために趣味も合う。休み時間などにも一緒に過ごすことが多い友人であった。
「あとで体育館の窓からのぞいちゃおっかなー。うひひ、バスケで飛び跳ねる女子の乳、ロマンだなー」
ちなみに、笹塚は非常に下ネタが多いせいで女子からは敬遠されていたりする。
春歌が隠れ巨乳であることに気がつき、クラス中に広めたのもこの男だった。
「そういうことを言うからお前は女子から嫌われるんだよ。ちょっとは口を慎んだらどうだ?」
「おやおや、彼女持ちは言うことが違いますなー。委員長の手作り弁当を食べたくらいで、上から目線ですかい?」
笹塚がからかうように言ってくる。
口調こそは冗談めかしたものだが、瞳には一歩男として先に行ってしまった友人に対する嫉妬の感情が込められていた。
俺が春歌だけではなく早苗とまで一緒にお昼を食べて、腕に抱き着かれたことを知ったら、この男は血の涙を流して悔しがるに違いない。
「彼女じゃないっての。たんにゴールデンウィークに助けたお礼をされただけだ」
「はいはい……ま、お似合いだと思うぜー。委員長も月城と一緒で地味キャラだし。地味なやつ同士でくっついたらいいんじゃね?」
笹塚がふふんと鼻を鳴らす。
「委員長は隠れ巨乳だし、メガネを取ったら可愛いと思うんだけどなー。まあ、彼氏だったらその辺りに気を遣ってやればいいんじゃね? 女を磨いて輝かせるのは男の仕事だぜい」
「……彼女もいないくせにわかったことを言いやがる。そう言うセリフは、モテモテのイケメンのものだと思うけどな」
「俺は中身で勝負してるからいいんですー! 顔は関係ありませんー!」
「いや、中身も腐り果ててる気がするんだけど……」
下ネタ趣味のセクハラ男子がどの口で言うのだ。
ここが学校で学生という身分だから許されているが、お前の下ネタは社会に出たらセクハラで訴えられるレベルだぞ。
「よーし、みんな整列―!」
そんな雑談をしていたら、ジャージ姿の体育教師が集合をかけてきた。
俺達は足早に先生の前までかけていき、クラスごと、出席番号ごとに整列をする。
「今日は100メートルのタイムを計るぞー。2人ずつ走ってもらうから、ペアになって順番に並べー。全員がタイムを測定したら今度は運動場を持久走だぞー」
「えー!?」
40代の体育教師の指示に、生徒から不満の声が上がった。
サッカーや野球ならばまだしも、100メートル走と持久走なんて面白くもなんともない。
女子が体育館でバスケをしているとあれば、なおさら不満も積もるものである。
「文句を言うな! 男は根性と体力だ、さっさとペアを作れ!」
40を過ぎてもいまだ独身の体育教師は、ムキッとした大胸筋を張って男子の不満を一蹴する。
2つのクラスの男子は口々に不満をつぶやきながら、親しい者同士で二人一組になっていく。
「月城ー、俺達も組もうぜー」
「ああ」
笹塚がヒラヒラと手を振って声をかけてくる。
代わりばえのしない相手であるが、一番仲の良いクラスメイトだ。断る理由はない。
しかし、別の男子が笹塚を押しのけて俺の前へと出てくる。
「おい、お前!」
「は……?」
「俺と走るぞ。文句ないよな!」
「…………」
一方的に告げてくる男子。自分の提案が断られるとは思っていない、偉そうな口調だ。
言葉を向けられた俺も、力づくでどけられた笹塚も、眉をひそめて言葉を失ってしまう。
(誰だこの偉そうな奴…………あ)
うちのクラスの男子ではない。知らない相手かと思ったが、どうも顔に見覚えがある。
つい最近――それも十数分前に見たような顔だ。
「お前はたしか……」
「てめっ、何すんだよ! 沖本!」
笹塚の抗議の声を聞いて、俺もその男子の名前を思い出した。
陸上部の沖本。
早苗の元カレで、昼休みに射殺すように睨みつけてきた男子生徒だった。
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