33.スキルのある学園生活④
そして、春歌と早苗という両手に花の昼食会が終わりを告げた。
「ふう、腹八分目ってところね。やっぱり3人だからもう少したくさん作ったほうがよかったかしら?」
「……そうか、俺はもう腹いっぱいなんだけどな」
俺の倍近くも食べているはずの春歌が戦慄の言葉を口にする。
ペットボトルのお茶を口に流し込みながら、俺は顔を引きつらせた。
重箱二段の弁当はかなり量があったはずなのだが、すっかり空になってしまっている。
春歌は決して太っている方ではないのだが、この身体のどこにあれだけの量が入っているのだろうか?
(ひょっとしたら、本当にあの胸の中に詰まっているかもしれないな……委員長の隠れ巨乳。クラスの男子も騒いでたからなあ)
春歌はやぼったい黒縁メガネと三つ編みという地味な格好のせいであまり男子ウケは良くなかったが、隠れた巨乳キャラであることは秘かに噂されていた。
(メガネ取ったら普通に美少女なんだけどな……まあ、その素顔を知っているのが俺だけってのは気分がいい)
ゴールデンウィークに一緒に出掛けたおかげで、俺は春歌の素顔を知っている。
他の男子生徒が知らない委員長の魅力を自分だけが握っているというのは、男としてかなり優越感があった。
「うーん……やっぱり春歌の料理はおいしかったなあ」
早苗もほのぼのとした様子で言いながら、午後ティーを飲んでいる。
食後のためかリラックスしている早苗は足を崩しており、スカートから伸びた2本の脚がかなり際どいところまで露わになっていた。
きっちりと膝下丈のスカートの春歌に対して、早苗は股下近くまで短く折っている。
その脚の白さが5月の日差しの下に晒されているのは、かなりドキドキさせられてしまう。
「ところで……真砂君?」
「ういっ!?」
脚をチラチラ見ていたところで名前を呼ばれて、思わず変な声が出てしまった。
そんな俺を気にした様子もなく、早苗はイタズラっぽく口を三日月形にする。
「やっぱり男子は料理ができる女の子の方がいいのかな? 胃袋つかまれちゃったりしてるのかにゃー?」
「あー……そうだなあ」
探るような目で訊ねてくる早苗に、俺はなぜか居心地が悪くなって目線を逸らした。
「やっぱりマイナスにはならないんじゃないか? 女の子の手料理とか、俺だって憧れがあったし」
「ふーん……やっぱりそうなんだー」
「まあ、最近は男女平等な世の中だし、男だって家事をする時代だからな。料理ができなかったからといって魅力がないとは思わないけどな」
「そっか、そっか……えいっ!」
「んぐっ!?」
早苗が俺の口に何かを押し込んできた。
甘い。
それにプルプルしている。
「さっき購買で買ったマンゴープリン。分けてあげるねー」
「……ん、ありがとうございます」
「いいのいいの。はい、もう一口追加―」
「んむ……」
早苗は親鳥がヒナにエサを与えるように、マンゴープリンをスプーンですくって俺の口に運んでくる。
ニコニコと笑っている早苗の顔は、ほんのりと朱に染まっているように見える。
(これって……よく考えたらすごい状況じゃね?)
クラスの女子の手料理を食べたかと思えば、他の女子からデザートを「あーん」をされている。
なんだこのハーレム展開は。
俺はいつからこんなにリア充になったというのだ。
(こんなところをクラスの男子に見られたりしたら……あ!)
中庭の少し離れた場所からこちらを見つめている男子がいる。
クラスの男子ではない。顔には見覚えがあるので同級生だと思うのだが、名前は出てこない。
おそらく、他クラスの男子だろう。
「…………」
俺と目が合っても、なおもその男子はこちらを凝視している。一切、視線を逸らす様子はなかった。
その顔に浮かんでいるのは――激しい嫉妬と憤怒。
殺意すら含まれているのではないかというほどの烈火の目で、こちらを睨みつけてくる。
「早苗、あれって……」
こちらを見ている男子に気がついて、春歌が早苗の服の袖を引っ張った。
早苗が同じ方向へと目を向けて表情を凍りつかせる。
「あー……沖本君……」
どうやら、こちらを睨んでいるのは早苗の知り合いのようである。
『沖本』という名前を聞いて、俺はその男子の正体を思い出した。
「沖本って……たしか隣のクラスの陸上部の奴だよな」
「そう……早苗のクラスメイトで、陸上部2年生エースの沖本君……」
俺の質問に春歌が答える。
早苗ほどではないが、春歌も緊張した顔をしている。
「沖本君は……その……」
「いいよ、春歌。気にしないで」
言いづらそうに言葉を濁す春歌に、早苗が沖本から視線を外して俺の顔を見る。
「沖本君はね、私の元カレなの。もう完全に別れちゃったけどねー」
「ちょっ! 早苗!?」
早苗が俺に抱き着いてきた。
俺の腕を抱いて、小ぶりな胸を押しつけてくる。
「っ……!」
遠くでこちらを見ている沖本の顔つきがさらに険しくなった。
陸上部のエースである男が、もはや人殺しのような顔になっている。
今にもこちらに殴りかかってきそうだ。
「…………」
しかし、沖本は予想に反してこちらに来ることはなく、俺達から視線を外して速足で中庭から去って行く。
沖本の背中が見えなくなって、さらに早苗がギュッと俺の腕を抱きしめる。
「……沖本君とはもう関係ないから。今は真砂君、一筋だからね?」
「…………ういっす。光栄です」
俺は何と返していいのかわからず、とりあえずそれだけ返したのであった。
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