28.最終日は……ぎゃああああああああ!?④
前回までのあらすじ。
後輩女子を半裸にして押し倒した。(左手にナイフ)
その現場を雪ノ下沙耶香に見られた。
ああ、人生終わった。
完全に詰んでいる。
俺は諦めと絶望の極致にいたって、処刑を待つ罪人の気持ちで正座をした。
「そうか……話はわかった」
正座をしている俺からこれまでの経緯を聞きだして、沙耶香は深々と溜息をついた。
仁王立ちする沙耶香と、その正面で正座をする俺。
その隣ではこんなことになった元凶である朱薔薇聖もまた正座をして座っている。
戦技『鎧斬り』によって下着姿にされた聖であったが、現在は柄物のシャツにジーンズという格好である。
その服は先ほど真麻の部屋のタンスから引っ張り出してきたものであり、後輩女子とサイズもぴったりだった。
「……胸がスカスカ。落ち込む」
などと聖は文句を言っていたが、それは発育が悪い彼女の問題であって俺の責任ではない。
たしかに高校生としては随分と小さかったのだが。
「……話を聞く限り、この件に関して真砂君には責任はないようだな。聖、君はいったいなにをやっているんだ?」
「……私のせいじゃない」
沙耶香からのお叱りに、聖はプイっと顔を背けて唇を尖らせた。
「え? 2人は知り合いなんですか?」
「うん……まあ、親同士が知り合いでね。この子とも前々から面識があったのだけど……」
沙耶香が言いづらそうに言葉を濁す。
剣術道場の師範の娘と、教会の牧師の娘。
まるで接点がないようにも思えるのだが、この2人にどのような関係があるのだろうか?
「すまない、真砂君。この子は昔から思い込みが激しくって、一度こうと決めたらそのまま突っ走ってしまう性格なんだ。それで過去にも暴走して問題を起こしたことがあって……」
「……ああ、なんかそんな感じがしますね」
「……私は悪くない。悪いのは…………そう、政治?」
「明らかにあなたが悪い!」
沙耶香が怒鳴った。
あのクールで大人びた剣術少女が顔を真っ赤にして声を張り上げている。
(いや、知り合いが刃物で人を襲う真似をしたらそりゃ怒るか……)
「本当に申し訳なかった! この子には私のほうから重々言い聞かせておくし、もしもケガをしているようだったら治療費も負担させてもらう! だからこの事はできれば警察沙汰には……」
「構いませんよ。俺も……色々と説明しづらいことがありますから」
刃物で殺されかけたのだ。
本来であれば、警察に通報して然るべき処置を取ってもらうのが適切な対応である。
しかし、俺だって聖の服をナイフで斬り裂いて下着姿にしたりしているのだ。
たとえ正当防衛であったとしても警察には説明しづらいことである。
もしも万一、聖が「服を脱がされて襲われそうになったから抵抗した」などと警官に嘘をつこうものなら、俺の方が加害者にされかねない状況である。
俺だって自分のような高校生男子と、聖のような小柄で可愛らしい少女の言い分ならば、後者の方を信用するから仕方がない。
それならば、ここは沙耶香の顔を立てて、年上の美女に貸しを作っておくほうが生産的ではないだろうか?
「ところで、どうして沙耶香さんがこの家にいるんですか?」
俺はお許しをもらったことで正座を崩して、ずっと気になっていたことを尋ねた。
沙耶香は「ああ」と頷いて説明をしてくれる。
「スーパーで買い物をしていた時に真麻に会ったんだ。妙に挙動不審で混乱している様子で、小豆を山のように買っていてね? あの子の言動に不審なものを感じて、家まで様子を見に来たんだ」
そこから、玄関で呼び鈴を鳴らそうとしたときに家から争うような物音が耳に入ってきて、中へと突入したようである。
兄妹ともども迷惑をかけて申し訳ない限りだった。
「ところで、真麻はどうしたんですか? スーパーで一緒だったんですよね?」
「いや、真麻だったら布団を買いに行くといってどこかに行ってしまった。なんでも今夜は初夜だからと……」
「テンパりすぎだ!」
いったいどこまで布団を買いに行ったのだろう。
というか、どうして俺に彼女ができたという勘違いから初夜まで発展するというのだ。
かつてない妹のテンパりように、俺のほうまで混乱してしまった。
「どうしよう……コレ、迎えに行った方がいいですよね? やばいですよね?」
「う、む……まあそうかもしれない。私は聖を連れてお暇するとしよう。今日の侘びはまた改めて」
「あう……」
沙耶香は聖の首根っこをつかんで、ズルズルと玄関まで引きずっていく。
背の高いポニーテールの美女と、中学生どころか小学生にすら間違えられかねないおかっぱの後輩女子。
背丈や性格、スタイルまで真逆の2人が外へと消えていく。
「……先輩」
「あ?」
「……先輩は私のターゲット。絶対に正体を暴いて見せる」
「聖、あなたはまた……!」
捨てセリフのように吐かれた言葉に、沙耶香が再び怒声を発する。
そんな剣術少女の説教を最後に、ガチャリと玄関の扉が閉じられた。
「はあ……」
俺はしばし玄関で立ち尽くして、どうしてこんなことになったのか思案していたが、やがてスマホを片手に真麻を迎えに出るのだった。
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