美少女+ゴツい武器=何故かテンション上がる ⑧
「最優先コード実行のため、禁則事項を解禁します。『セラフィムモード』オン」
「む……!」
セラちゃんがつぶやくと、背中の羽から放出されるオーラが爆発的に増大する。
俺でさえ気圧されるほどの圧倒的な魔力。
勘違いではない……これまで幾度か戦ってきた敵と同じ気配。神の力……『神格』がセラちゃんから放たれている。
「どうやら……お前も『神』に至っているようだな。本当にやれやれだぜ」
俺は舌打ちをして、宙に浮かんでいるセラちゃんを睨みつける。
よくよく見てみると……セラちゃんの手足が少しずつではあるが、端から崩れているように見えた。
おそらくではあるが、『セラフィムモード』というのは彼女にとっての切り札なのだろう。
発動させることで戦闘能力が飛躍的に上昇する代わりに、肉体の崩壊を招いてしまうようだ。
「……先輩、1つだけ確認したいことがあります」
「……どうした、聖」
俺の制服をつまんで引っ張り、聖がかつてない真面目な口調で言ってくる。
「今回のエピソードですけど……ヒロインは私ですよね? あの子じゃないですよね?」
「それは今すぐに確認しなきゃいけないことなのか!?」
アホの後輩はこんな時でもアホの後輩だった。
いっそのこと、清々しいとすら思えるくらいの妄言である。
「大事なことです。何か知らないうちに新規の女が割り込んできた気もしますし、私のメインヒロインの座が脅かされていますよ!」
「お前をメインヒロインだと思ったことはない!」
「脱げばいいんですか? そうですよね? 先輩がバトッてる間にストリップしてれば満足なんですよね!?」
「知るか! 勝手に全裸になっとけ!」
聖に一喝して、改めてセラちゃんに向き直る。
「対象を排除――『神巨人の鉄槌』!」
セラちゃんの背中の翼が大きく広がり、そこからミサイルのような砲撃が放たれた。
俺達に……というよりも、聖に向けて放たれた攻撃はおよそ一千発。一撃一撃にダイナマイトのような威力が込められている。
「クソッ……冗談だろ!?」
俺は降りそそぐミサイルを片っ端から迎撃する。
下手をすればこの近辺が更地になってしまう。俺は魔法でミサイルを消していき、爆発することすら許さない。
「公園が破壊されてしまったら、子供達の遊び場がなくなってしまう……テレビゲームやユーチューブばかりで外で遊ばなくなった子供達の運動不足を助長してしまう……!」
そして、公園に落ちているエロ本を見つけて一喜一憂。ドキワクしながら大人の階段を1歩ずつ昇っていくという通過儀礼も失われてしまうのだ。
「そんなことはあってはならない! 少年達の思春期は俺が守る!」
周囲に乱発されている無数のミサイル……俺はそれを魔法によってかき集めて、極限まで凝縮させた。
「重力魔法、かーらーのー……マサカリ投法!」
野球ボールサイズまで圧縮させたミサイルを宇宙の彼方まで投げつける。
渾身の力を込めたミサイルが流れ星となり、お月様の向こうまで消えていった。
「よし、解決! とはいえ……」
「排除を続行。別のシークエンスを実行します」
「やっぱり終わりじゃないよな! 次の攻撃かよ!」
『ニャンニャンニャンニャン』
「猫おっ!?」
セラちゃんの翼から数十匹の猫が出てきた。
猫にゃんの大群は俺に向かってチョコチョコと走り寄ってくる。
「わー、可愛いです。先輩は猫派ですか、犬派ですか?」
「俺はどちらかというと犬……って、そうじゃなくね!?」
『にゃあーん』
俺達に近寄ってきた猫にゃんが突如として点滅し……そのまま大爆発した。
骨まで焼き尽くすようなとんでもない火力である。大規模な爆発によって、空にキノコ雲が上がった。
公園が跡形もなく吹き飛び、撒き散らされた中性子によって半径数十キロメートル圏内が地獄に変わっていく。
「……とかやらせるものかよ! どんな凶悪な兵器を積んでやがる!?」
相手を猫で油断させておいて、それが爆発。しかも中性子をまき散らすとか凶悪過ぎる。
「……時間を巻き戻さなかったら、何人犠牲になったかわからんぞ。やれやれだぜ」
俺は咄嗟に時間を操り、猫型中性子爆弾による攻撃をなかったことにする。
セラちゃんが猫ちゃん爆弾を放つよりも先に、四本の翼をまとめて切り裂いた。
「神格装置を破壊されました。最優先にて再生いたします」
「させるかよ! 頼むから、そのまま眠っておいてくれ!」
当然のように翼が再生しようとするが……それをさせる俺ではない。万能魔法をフル稼働させて再生を阻止する。
土で翼の切り口にまとわりつかせて炎で熱して固定。植物でコーティングして凍らせて。セラちゃんには毒と麻痺の状態異常をプレゼント。最終的には精神魔法で頭の中に干渉して気絶させる。
「機能、停止……スリープモードに、はい、り……ます……」
「ふう……手ごわい相手だったぜ」
気を失ったセラちゃんを見下ろして、俺は疲労に肩を落とす。
何が手ごわいって、外見は普通に可愛らしくておっぱいが大きいことだろう。
戦いながら躍動している胸部がこれでもかとくらい油断を誘ってきて、こちらの意識を削ぎ落としてくるのだ。
何というトラップ。貧乳キャラの聖では到底不可能な殺し技である。
「先輩、私の胸は貧乳ではなく美乳というのですよ。間違えないでください!」
「当たり前みたいに心を読むんじゃない。美乳というよりも微乳の間違いだろうが」
隣にやってくる聖に言い返して、さてどうしたものかとセラちゃんを見下ろした。
気を失っているセラちゃん。このまま『結社』に引き渡すつもりだったが……考えが変わった。
先ほどの生物兵器ぶりを見る限り、『結社』に渡したら身体を解体させて隅々まで調べられるか、さもなくば危険人物として殺処分にされてしまうだろう。
「可愛い女の子がそういう扱いをされるのは面白くないね。ヒロインを好き勝手にしていいのは主人公だけに許された特権だろうに」
ネトラレ物は好きではないのだ。
この娘の問題は俺が自力で解決した方が良さそうである。
「とらあえず……お体の具合でも調べてみるかな」
決して、やましい気持ちではない。先ほどの暴走ぶりの原因を調べるだけだ。
俺は誰にともなく言い訳をして……セラちゃんの服に手をかけて、裸に剥いてみるのであった。
今年も一年間、お疲れさまでした。
来年も執筆活動に励んでいきますので、どうぞよろしくお願いいたします。




