美少女+ゴツい武器=何故かテンション上がる ②
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「……何か今、すげえザワッとしたんだけど?」
「先輩、何を言っているのですか? 頭にウジでも湧きましたか?」
早朝。
いつも通りの時間に起床した俺は、洗面所で歯磨きをしていた。
隣には少し前から同居することになったアホの後輩――朱薔薇聖が立っている。
並んで歯磨きをしている俺達であったが、服装は二人ともパジャマだった。
傍目から見れば同居中の恋人の朝チュン直後のような光景であったが……もちろん、俺と聖はそんな関係ではない。
俺が聖と一緒に暮らしているのは、少し前に吸血鬼の『神』の器となっていた聖の監視のためである。
『神』の器となった聖は退魔師の組織である『結社』から危険人物とみなされており、一時は殺処分されるところだった。
聖のことを生かしておく条件として、『神』を討伐した俺が監視役として同居することになったのである。
「ウジが湧いてるのはお前の脳みそだろうが……っていうか、隣に並ぶな。居候なんだからもっと遠慮しろ」
「ちゃんと家賃は払ってますし、居候扱いされるのはガッカリです。せめてセフレと呼んでください。肉便器でも構いませんよ?」
「お前とセックスしたことはないけどな!? 勘違いされるようなことを言うな!」
慌てて洗面所の扉を見るが……うん、特に異変はない。
こんな会話をもう一人の同居人である妹に聞かれたら、とんでもないことになりかねない。
赤飯を炊いてくれるか、それとも中学生みたいな外見の少女に手を出した犯罪者として包丁で刺されるか……どっちにしても面倒臭い展開である。
「年頃の男女が一つ屋根の下で暮らしているのだから似たようなものでしょう? 知ってますか……男女でルームシェアしているカップルの8割が主人と肉便器の関係なんですよ?」
「どこ調べのデータだよ、それ……偏見がものすごいな」
歯を磨きながら器用に会話していた俺達は、うがいをして口の中を洗い流すとダイニングに向かう。
ダイニングでは俺の妹――真麻がテーブルの上に皿を並べていた。
米とみそ汁。焼き魚。典型的な日本の朝のメニューだ。ほのかに香ってくるお味噌の香りに、起きたばかりの胃が空腹を訴えてくる。
「あ、起きたんだ。お兄」
「ん、おはよう」
「それに……聖ちゃんも。2人で一緒に歯磨きだなんて仲が良いですねー」
中学校の制服の上にエプロンを身に着けた真麻が、拗ねたように唇を尖らせる。
真麻は当然ながら、急に家に転がり込んできた聖のことを認めてはいない。
決して恋人ではない。事情があって預かるだけだと説得しても、なかなか受け入れてはもらえなかった。
最終的には剣術少女にして『結社』所属の退魔師である雪ノ下沙耶香が説得してくれて、ようやく聖との同居を受け入れてくれた。
表向き、聖は紗耶香の親戚の子供ということになっている。紗耶香と同じ剣術道場に通い、彼女のことを慕っている真麻は、尊敬する女性からの説得にようやく首を縦に振った。
「真麻ちゃん、今日も美味しいご飯をありがとうございます」
「ふあっ!」
しかし、そんな真麻にアホの後輩が容赦なく距離を詰める。
皿を両手に持っていて抵抗できないのを良いことに、背中から抱き着いて顔に頬ずりをしていた。
最近になったわかったことだが……朱薔薇聖という少女は人との距離感がバグっている。
出会ったばかりの相手には人見知りを全開にするくせに、ちょっと親しくなった途端にボディタッチを繰り出してくるのだ。
「そういえば……俺の時もそうだったな」
ゴールデンウィーク。急に家に来て刺しにきたかと思えば、学校で会ったら平然と頼みごとをしてくる。部活の合宿にまで参加させられた。
好感度を上げるようなイベントを消化したことはないのに、同居してからは風呂やベッドに潜り込んでくることまであるのだ。
「良い子、良い子。真麻ちゃんは良い子」
「ああ、もう! 引っ付かないでください! 私は犬じゃないですっ!」
「いつも頑張ってくれている御礼に、今晩、私のことを好きにして良いですよ。朱薔薇聖……誰にでも抱かれる都合の良い女」
「何を言ってるんですか、貴女は!?」
「……うん。距離感とか関係なくてアホなだけだな」
俺は妹に引っ付いている聖を引き剥がした。
そのままテーブルのイスに連れて行き、座らせる。
「黙って食え。そして学校に行け」
「先輩は一緒に行かないんですか? 同じ学校なのに別々に登校するだなんてナンセンスだと思います」
「クラスメイトに勘違いされたら困るんだよ。さっさと食え」
同じ学校の先輩・後輩である俺達だったが……もちろん、一緒に登校はしない。
コイツと恋人だとか思われたら困る。非常に困る。
「吹奏楽部の朝練だってあるんだろ? 早く行けよ」
「そうでした。忘れてました」
部活のことを指摘すると、聖は慌てたように朝食を摂りはじめる。
俺と真麻は顔を見合わせて、深々と溜息をつく。
「やれやれだぜ……」
「やれやれね……」
そんな騒がしい朝の風景であったが……聖との共同生活に慣れてきている自分が嫌だ。
真麻も同じような感覚なのだろう。意図せずできた同居人との距離がどんどん近くなっており、戸惑っているようだ。
「……俺達も食うか」
「……うん。お兄、目玉焼きはソースでいいよね?」
「ああ、サンキュ」
俺と真麻は並んで座り、朝食を摂りはじめるのであった。
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