桃〇郎電鉄には温泉を覗けるスポットがある ⑥
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離れの部屋に戻ると、すでに布団が敷いてあった。
どうやら、留守中に旅館の女将が準備しておいてくれたようである。
「いつでも眠れるわけだけど……結局、この旅館には何も無かったのか?」
嫌な予感はずっとしていたものの、結局、おかしなことは何も起こらなかった。
若女将が風呂で背中を流してくれたことが異常事態といえなくはないが……そういうサービスの風〇店と思えば納得できなくもない。
「……後日、とんでもない料金を要求されるのではないか。怖っ!」
俺はブルリと身体を震わせ、明かりを消して布団の中に潜り込んだ。
昼間にスキーをして身体を動かし、雪の中を車でさまよい。
そして風呂場でのハニートラップに、女子3人との乱痴気騒ぎ。
色々あって心身ともに疲れていたのだろう。布団で横になるとすぐに眠気が襲ってくる。
「ムウ…………」
薄れゆく意識の中で思い浮かぶのはスキー旅行での楽しかった思い出。
みんなでスキーをしたり、トランプをしたりして、何だかんだで面白おかしな旅行だった気がする。
「スヤスヤ……」
このまま眠気に身を任せて夢の世界に旅立ってしまおう。
ガチャリと部屋の扉が開く音がしたが気にしない。
ミシミシと畳を踏んで誰かが近づいてくる音がしたが気にしない。
いつの間にか布団の周りを複数の気配が囲んでおり、かごめかごめ状態になっているが気にしない。
「気にしろよ!」
……と、あまりの事態に飛び起きる。
いくら何でも、布団の周りを包囲されて起きないわけがなかった。
布団を跳ねのけて身体を起こすと……いつの間にか複数の人影に取り囲まれている。
俺を囲んでいたのは和服姿の女性。正面に正座をしているのは例の若女将だった。
若女将以外にも年頃の女性ばかりが俺を取り囲んでおり、誘うような淫靡な笑みを浮かべて見つめている。
「お、おおおおっ……!?」
何故だかわからないが気圧されてしまった。
和服の女性ばかりに取り囲まれ、謎の威圧感がのしかかってくる。
「お客様、夜のご奉仕に参りました」
「ご、ご奉仕だとうっ!?」
若女将の言葉に俺は身体をのけぞらせた。
「まさか」というか「やはり」というか、この旅館はそういうサービスを提供する店だったというのか。
若女将が浴衣の帯を解き、胸元をはだける。
他の女性らもためらうことなく服を脱いでいき、全裸の女性に囲まれる。
「ま、まさかここまでだとは……」
何が「ここまで」なのかはさっぱりわからないが……色々な意味で、俺はここで終わりなようだ。
周囲にいる全裸女性はいずれも美女ばかり。
彼女達に一斉に襲われて、拒める男などいるわけが……。
「………………………………ん?」
いるわけがない……と言いたいところなのだが、ここで不思議なことが起こった。
こんな状況であるにもかかわらず、俺の下半身のエクスカリバーがエレクトしていないのだ。
先ほど、早苗らと脱衣ポーカーをしていた時にはあんなに元気だったというのに……まるで巣に隠れているチンアナゴではないか!
「能力発動……『女子を見通す神眼』!」
今、適当に考えた技の名前を叫んだ。
説明しよう。
スキルを駆使して編み出したこの技は『女子』という生き物の全てを見通すことができる。
身長、体重、スリーサイズはもちろんのこと。
家族構成や生い立ち。トラウマになっている幼少時の出来事。初体験のアレコレやら経験人数やら性癖やら。
その女子の全てを掌握することができる能力なのである!!!
「フッフッフ……この力があればこの全裸美人の正体もうわああああああああああああっ!?」
それを目の当たりにして、俺は思わず叫んだ。
俺を取り囲んでいる裸の美女……彼女達は人の皮を被っているだけで中身はまるで別物。
中身はカマキリによく似た昆虫のような生き物で、顔の部分からは短い触手のようなものがウネウネとイソギンチャクのように蠢いている。
「いやあああああああああああああっ!」
ホラー映画で扉を開けたら血まみれのピエロがいたような衝撃である。
俺は思わず、正面にいた美女……すなわち、若女将の顔面を殴り飛ばした。
「ミゴッ!?」
若女将がふっとんで壁に衝突した。
その衝撃でビリビリと若女将の顔面に貼りついた人間の皮が破れていき、中身の触手カマキリの姿が露わになる。
「灯籠館……『蟷螂』の宿か。そういうことかよ!」
「「「「「ミギャアアアアアアアアアアアアッ!」」」」」
仲間がやられたのを見て、他の女性達も人間の皮を脱ぎ捨てていく。
正体を現した女。もといカマキリの怪物が襲いかかってくる。
両手についているカマ……ではなくハサミを振りかざし、こちらに殴りかかってきた。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
俺は襲いかかってくるカマキリを殴りっては蹴り、投げ飛ばして叩き潰す。
見た目こそおぞましい怪物であったが……その実力は意外なほどあっけない。
俺でなくとも、それなりに訓練を積んだ人間であれば十分に渡り合えるレベルの敵だった。
「ハア、ハア……そうか。そんなに強くないから人間の皮を被っておびき寄せて、ハニートラップを仕掛けてきたのか」
俺は死屍累々と倒れたカマキリに囲まれて荒い息をついた。
畳の上に倒れているカマキリが黒い灰のようになって消えていく。念のために魔法で周囲を探ってみるが、他に仲間はいない様子。
もちろん、春歌と早苗も無事だった。
魔法を使って彼女達の部屋を覗いてみると、肌色満載の美女美少女が布団に折り重なって眠っており、何とも扇情的で素晴らしい光景が……コホン。映像を切っておく。
「結局……コイツら、何がしたかったんだ?」
このカマキリの目的が何だったのかはわからずじまい。
カマキリらしく子供を作ってから『俺』を食べようとしていたのかもしれないし、他に目的があったのかもしれない。
ともあれ……スキー旅行の最終日。謎のパニックホラーハプニングは無事に終了し、俺は生き残ることができたようだ。
俺はカマキリの残骸で汚れてしまった布団を綺麗にして、改めて眠りの世界へと旅立つのであった。
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