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激闘! 退魔師試験!㉔


「やあ、おはよう。いい朝だね!」


 退魔師試験3日目の朝。

 試験も最終日の早朝、目を覚ましてリビングに下りてきた仲間に朝の挨拶をする。


「おはようございます……?」


「おはよう、って……月城さん、どしたの?」


 俺の挨拶に、紫蘭とカスミが何故か疑問符になっている。


「どうしたって……別にどうもしないさ。強いて言うのであれば新境地を開いたくらいさ」


 昨晩、お湯に変身した状態で賀茂晴嵐に入浴された。

 体内に美少女を取り込むというありえないシチュエーションに、俺の中で新しい扉が開いてしまったようだ。


「おはよう、みんな起きているようだね」


 遅れて、晴嵐も階段から降りてきた。

 晴嵐の格好は昨日と同じでブレザーを着ている。

 こうしてみると美少年にしか見えないのだが……俺は晴嵐が男装の麗人であることを知っていた。

 それはもう……全身を持って体感している。


「おはようございます、晴嵐さん! 今日はよろしくお願いします!」


 俺はビシリと敬礼をして晴嵐を迎えた。

 勢いに任せた挨拶を受け、晴嵐がわずかにたじろいだ。


「お、おはよう? えっと……どうかしたのか、月城さんは?」


「わかりません……」


「きょ、今日の月城さん、なんか怖いんだけど……」


 晴嵐に問われ、紫蘭が首を振った。カスミも紫蘭の背中に隠れて震えている。

 おっと……どうやら、覚醒してハイテンションになっていたことで3人を怯えさせてしまったらしい。

 そろそろ真面目にならないとな。

 俺は意識して開いていた扉を閉め、いつも通り真面目に不真面目(・・・・・・・・)をすることにしようか。


「おっと……失敬。徹夜明けハイになっていたみたいだ。もう直ったから大丈夫だよ」


「徹夜ですか? こんな日に夜更かしだなんて、何か大事な用事でもあったのでしょうか?」


「まあね。今日は九尾の狐との決戦だろう? 俺は参加しない予定だけど……手助けくらいはしておこうと思ってね」


 昨晩の入浴パニック後。

 晴嵐が部屋に戻ったのを確認して変身を解いた俺は、九尾の狐討伐のための準備をはじめた。

 いくら手を出さないで欲しいと頼まれているとはいえ、本当に何もしないのは気が引ける。

 せめて装備くらいは整えてやろうと思い、【錬金術】のスキルでアレコレ制作していたのだ。


「まずは雛森さん。君のためにこれを用意しておいた」


「これって……まさか、人形ですか?」


 雛森紫蘭のために制作していたのは、彼女の傀儡術で操るための人形である。

 昨日、大河童との戦いで、紫蘭は『蜘蛛御前』を除いた人形をことごとく壊されてしまった。

 もっとも強力な蜘蛛御前が残っているのは幸いだが……予備の武器はあった方が良いに決まっている。


「銘をつけるとしたら……『鐵丸(くろがねまる)』というところかな?」


 俺が創作したのは漆黒の鎧を身にまとった人形である。

 右手には大太刀を携え、左手には魔力を撃ち出すことができる『砲』がついていた。

 日本人形よりも西洋の鎧っぽい外見をしているが、その戦闘能力は一目見ただけでわかるだろう。


「これほどの呪を込めた人形を一晩で作ってしまうだなんて……月城さん、貴方はいったい何者ですか?」


「タダのしがない高校生さ……これ、人生で言ってみたかったセリフの1つね」


「そうですか……これは本気で狙ってみる必要がありますね。一族の者が知ったら放っておかないでしょうし。そのためには、まずは雪ノ下家と話を……」


 紫蘭がブツブツと小声で何かをつぶやいている。

 とりあえず、サプライズプレゼントは喜んでもらえたらしい。


「次はカスミだけど……君にはこれをあげよう」


「へ……これって、セーラー服? うちの学校の制服よね?」


 カスミのために用意したのはセーラー服だった。

 彼女が最初に着ていたものと寸分たがわぬデザインのもの。肩についた学校の校章までもが正確に再現されている。


「ただのセーラー服じゃない。これは特殊な繊維を編み込んでいて、防弾チョッキ以上の物理防御力がある。魔術に対する抵抗力も強いし、状態異常への耐性も得られるのだ!」


「げ、ゲームみたいね。性能が良過ぎて、逆に胡散臭いんだけど……」


 カスミは戸惑いながらも、渡されたセーラー服を受け取る。

 これには異世界産の蜘蛛の糸とか、聖人が死ぬときに着ていた衣とかが編み込んであり、価格にすると億単位になりかねないのだが……それは言わない方が良いだろう。


「それとこのセーラー服には特別な魔法が織り込んである。効果は実戦で試してくれ」


「……なんだか、メチャクチャ怖くなってきたんだけど? ホントに大丈夫だよね?」


 制服がないと困るからもらうけど……そんなふうにつぶやいて、カスミは着替えるために脱衣所に向かった。


「さて、最後は晴嵐さま……じゃなくて賀茂さんだけど、君は俺が作ったアイテムとかいらないよね?」


「……ああ、必要ないよ」


 晴嵐が腕を組んで、首を横に振った。


「先ほどの呪具に相当な力が込められているのは見てわかった。『結社』の上層部が知れば、貴方のことを放っておかないだろう。だが……僕は貴方から施しを受ける覚えはないね」


「そうか、そうか……だけど、そんな君にプレゼンツッ!!!」


「わっ!?」


 俺は魔法で収納していたソレを取り出し、晴嵐に投げ渡す。

 晴嵐が慌ててソレを受け取り……目を丸く見開いた。


「これは……脇差か?」


 晴嵐に投げ渡したのは刃渡り30センチほどの短刀。いわゆる脇差と呼ばれるものだった。

 晴嵐が昨日、刀を使って戦っているのを見た。メイン武器はそれとして、サブの武器として脇差を作ってみたのだ。


「あげるよ。好きなように使ってくれ」


「ま、待て! 僕は君から物をもらう理由が……」


「まずは抜いてみたらどうかな? 突き返すのはそれから判断してくれ」


「ん……」


 晴嵐が不愉快そうな顔をしながら、言われたとおりに脇差から刃を抜き放つ。


「これは……!」


「良いデキだろう? 現時点では最高傑作なんだ!」


「…………」


 脇差の出来前を見て、晴嵐はそれを突き返すことも忘れて見入っていた。

 俺に刀鍛冶としての才能はない。

 だが……魔法で刀鍛冶の霊を憑依させることにより、シャー〇ンキング的な方法によって作り上げたのだ。

 人間国宝クラスの刀鍛冶の手を借り、それに俺が大量の魔力を注いで生み出した『妖刀』。いくら嫌いな人間からもらった物だとしても、易々と手放すことはできまい。


「いらないのなら返してもらうけど……本当にいいのかい?」


「クッ……卑怯な」


「……どうして、物をプレゼントして卑怯者呼ばわりされなくちゃいけないんだよ。俺に物をもらう理由がないとか言っているけど、ちゃんと理由はあるから大丈夫だよ」


「なんだって……?」


「君のおかげで俺は新しい境地にたどり着くことができた。俺はまだ強くなれる。その感謝を込めて作った刀だ。受け取ってくれ」


 刀の銘は『湯崩し』。

 名前の由来とかはない。本当にない。


「九尾の狐との戦いでも必ず役に立つはずだ。使ってくれよ」


「…………」


 脇差を受け取った姿勢のまま、晴嵐はしばし考えこんでいた。

 だが……やがて顔をあげて、俺の目をまっすぐに見つめる。


「……謝罪をさせてもらう。色々と不愉快な態度をとってすまなかった」


「お?」


「姉のことがあるとはいえ、失礼なことをした。本当は貴方が悪いとは思っていなかったのだが……ついつい意地になってしまったらしい。どうか許してもらいたい」


「……別に構わないさ。こちらこそ悪かったよ、本当にね」


「姉のことだったら良い。本人も気にしていないから」


 晴嵐が手を差し出してきたので、俺も握り返す。

 仲直りの握手を交わして……ようやく、俺達の間にあった軋轢が消えた。


「九尾の狐との戦い、後詰をよろしくお願いします。もしものことがあったら、2人を助けてあげてください」


「もちろんだ。そっちも気をつけて」


 固い握手を交わす俺達であったが……昨晩、俺が湯船に潜んでいたことを知ってなお、晴嵐が俺を許してくれるかは謎である。


 かくして、退魔師試験最終日の幕が開いた。

 標的は九尾の狐。島の主にして神格を有した大妖怪である。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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