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激闘! 退魔師試験!⑱


「糞が……よくも俺の式神をやりやがったな!?」


「文句があるのならかかってくればいいさ。喜んで相手になろう」


 顔面を歪めて怒鳴り散らす玄炎に、晴嵐が涼しげな口調で言う。

 何だよ。お前は主人公かよと言いたくなるほど格好良い態度である。


「チッ……覚えてやがれ! お前ら全員、絶対にぶっ殺してやるからな!?」


 式神を倒された玄炎が迷うことなく逃走を図った。

 清々しいほどの逃げっぷり。さんざんイキッておいて、コイツにプライドというものはないのだろうか?


「逃がすわけないだろう――『龍雅』!」


『リュウウウウウウウウウウウウウッ!』


 晴嵐の腕から白い龍が飛び出した。

 白龍は弾丸のような速さで玄炎に迫り、その肩に噛みついて捕まえる。


「ガッ……!?」


「よくやった、戻って来い」


『リュウッ!』


 白龍が命じられたとおりに戻ってきた。

 大きな牙で玄炎を捕まえ、地面を引きずりながら。


「さて……貴方はここでゲームオーバーのようだね? 最後に言い残すことはあるかな?」


「畜生……外に出たら覚えていやがれ!」


 白龍に捕らえられた玄炎が憎々しげに表情を歪めた。


「俺は陰陽師の名家である玄炎家の次期当主だぞ! こんなことをしてタダで済むと思ってるのか!?」


「…………」


「絶対に復讐してやるからな! 許さねえ……テメエも、テメエの家族も生かしてはおかねえぞ!?」


「家族……だって?」


 脅しかけられた少年が冷笑する。

 見下げ果てたとばかりに鼻で笑い、白龍に抑え込まれた玄炎に向かって言い放つ。


「面白いことを言うね……僕は京都守護職である賀茂家の人間だ。まさか筆頭陰陽師である当家にケンカを売ってくる人間が、この業界にいるとは思わなかったよ」


「は……?」


 玄炎が愕然と目を見開いた。

 どうやら、晴嵐の素性を知らなかったようだ。面白いように顔が青ざめていく。


「ば、馬鹿な。賀茂家だと!? ありえねえ……今の賀茂家にテメエみたいなガキがいるなんてこと……」


「龍雅」


『リュー!』


「ぎゃあっ!?」


 白龍が玄炎の頭部を噛み砕いた。

 身体が粉々に砕け散り、空気に霧散していく。

 チャリンと金属音が鳴って、玄炎が所持していたメダルが地面に落ちた。


「ミイラ取りがミイラ。他人のメダルを奪おうとして反対に奪われるだなんて、間抜けの見本のような男だな」


 晴嵐が肩をすくめて、こちらを振り返ってくる。


「危ないところでしたね。皆さん、大丈夫ですか?」


 厳しい表情から一転。穏やかなイケメンフェイスで笑いかけてきた。

 正直、助力がなくても何とかなっていたが……助けてもらったのは事実である。感謝はしておくべきだろう。


「すまん、助かっ……」


「大丈夫ですか? 手を貸しましょうか?」


 声をかけようとする俺であったが……晴嵐は俺を無視して、後ろにいた紫蘭とカスミに手を差し伸べる。


「まったく、とんでもないゲス男でしたね。2人が無事で何よりです」


「……ええ、助かりました。賀茂様」


「あ、ありがとう?」


 紫蘭が晴嵐の手を取って立ち上がる。

 この中で唯一、晴嵐のことを知らないカスミも戸惑いながら手を取った。


「たまにいるんですよね。旧家の中には他家の術者を見下している輩が。筆頭陰陽師である我が家の目が届かないばかりに、彼らの蛮行を許してしまっている。御二方にも迷惑をかけてしまったようで申し訳ありません」


「……いえ、賀茂様のせいではございません。何処の世界にも愚か者はいるものですから」


「そう言ってくださると助かりますよ。ところで……そちらのお嬢さんとは初対面ですよね? お名前を窺っても構いませんか?」


「あ、えっと……遠藤カスミです」


「カスミさんですか。僕は賀茂晴嵐といいます。よろしくお願いします」


 ニッコリとイケメンな笑顔で自己紹介をしている晴嵐。

 一方で、紫蘭が戸惑ったような目を俺に向けてくる。

 うん、言いたいことはわかるぞ。俺ってば……さっきから存在を無視されてるよな。


「えっと……これはケンカを売られていると受け取ってもいいのか?」


 話しかけて、無視された。

 今もこちらを一瞥もしない。

 ひょっとして……俺の声が聞こえなかったのだろうか。姿が見えていないのだろうか?

 そうでないのなら……俺が自分でも知らないうちに透明人間になっていたとか。やったぜ、女湯を覗き放題だ!


「……なんてことはあり得ないよね! コラ、無視するんじゃない!」


「ああ……貴方ですか」


 肩を掴んで抗議すると、ようやく晴嵐がこちらを振り返った。

 あからさまに鬱陶しそうな表情で舌打ちをする。腕を振り払い、ゴミでも祓うように掴まれていた肩をパンパンと叩く。


「僕に何か用ですか? 特に用事がないのなら、邪魔なので隅で小さくなっていてもらっていいですか?」


「……初対面の相手になかなかの態度だな。イケメンのエリート陰陽師くんは女の子以外、目に入らないのかよ」


「失礼。僕の目に入らないのは見る価値もないゲスな男ですよ。たとえば、貴方のような」


「はあ!?」


 今度こそ、あからさまにケンカを売られた。

 うん、ここまで言われたら殴ってもいいよね。俺は拳を握りしめた。


「『未確認(アンノウン)』――月城真砂。吸血鬼の『神』を討ち滅ぼした謎の退魔師。聞いていますよ。噂はかねがね」


「む……?」


 俺は握りしめた拳を叩きつけようとして……手を止める。

 俺の素性を知っている?

 いや……別に隠しているわけではないから、あり得ないことではないのか?


「姉さんも貴方のことを話していました。戦いの真っ最中で女の子の身体を触り、セクハラばかりしていたゲス野郎だと」


「あ……」


 ここに来て、ようやく俺は晴嵐が敵意を向けてくる理由に気がついた。

 賀茂晴嵐。賀茂。そう、賀茂である。

 あの現場。吸血鬼の『神』と戦ったあの場所にも、同じ姓を持った人間がいなかったか。


「僕の姉――賀茂晴佳の胸も触ってくれたそうですね、月城真砂さん?」


「…………めんご」


 ジットリとした目で睨みつけてくる晴嵐に、俺は両手を挙げて降参するのであった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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