激闘! 退魔師試験!⑰
「これで終わりって……マジかよ」
とんでもなくあっけなく終わってしまった戦いに、さすがに俺も呆れ返る。
どんな終わり方だよと嘆きたくなる。嘆きながら……俺の右手はスマホでパシャパシャと写真を撮っており、小河童にとんでもないことをされているカスミの姿を激写していた。
「チッ……やっぱりジャングルの中は暗いな。フラッシュを焚いても影が入る」
「いやいやいやいやっ! 写真撮ってないで助けてくださいよっ!?」
「いや、手出しをしないで欲しいって言われてるし」
「写真を撮って良いとも言ってませんけどね!? そんなことよりもお嫁に行けなくなりますうううううううううっ!?」
「ここまでされておいて、まだ嫁に行くつもりなのか……いや、別に悪くはないんだけどさ」
俺は指で魔力を弾いて、弾丸のように撃ちだした。
5発の魔力の弾丸は狙いを外すことなくカスミにセクハラをする小河童の頭部を撃ち抜いていき、彼女を凌辱から解放する。
「はう~、助かりました~」
「ハア、ハア……どうにか勝利することができました。カスミさんが相手の注意を引いてくれなければ、負けていたかもしれません……」
地面にへたり込むカスミ。同じように、紫蘭もまた座り込んでいた。
お嫁に行けなくなる5秒前くらいの状態だったカスミはもちろんだが、紫蘭の方も全身をグッショリと汗で濡らしている。巫女服が肌に貼りついてなかなかにセクシーだ。
どうやら、蜘蛛御前の操作にはかなりの体力と精神力を消耗するらしい。こちらも限界直前だったようで、あのまま戦いが続いていたら危なかっただろう。
「大したものだな。どんな形であったとしても、俺が助太刀することなく勝利しちゃったか」
俺は疲労している彼女らにペットボトルのドリンクを渡した。
「銀のメダルが1枚。銅のメダルが15枚。1度の戦闘で25点も稼ぐなんて恐れ入る。これで『甲種』認定に大きく近づいたな」
「ありがとうございます……」
「ううっ、お風呂に入りたい。着替えたい……」
紫蘭が飲み物を受け取る。カスミはグッタリと項垂れており、それどころではなさそうだ。
「2人とも満身創痍……これ以上の狩りはもう無理みたいだな」
体力的な問題もあるが、魔力や霊力がほぼ底をついている。
まだ昼を過ぎたほどの時間帯ではあるが、もう戦いは無理だろう。
「仕方がありませんね……できれば、もう少しメダルを集めておきたかったのですが……」
紫蘭が悔しそうに表情を歪めた。
彼女が所持しているメダルは銅が35枚。銀が1枚。得点で表すと45点。
合格点が100点であると考えたら希望は消えていないが……決して余裕があるともいえないだろう。
「仕方がないさ。このまま続けたところで、返り討ちに遭うだけだからな。今日のところはゆっくり休んだほうが良い」
今度は九尾の狐に見つからないように拠点を作り、そこで十分な休息を取ろう。
俺は自力で歩けなくなっている彼女達に手を貸そうと近づくが……そこで近づいてくる第三者の気配に気がついた。
「ん……誰だ?」
「おーおー、ちょうど良く弱ってんじゃねえか!」
「しかもさっきの巫女がいますよ! さすがは玄炎さん、ツイてますね!」
木々をかき分け、現れたのは3人組の男達だった。
初対面……かと思いきや、よくよく見ると覚えのある相手だった。
「コイツら、さっきのレストランの……?」
そう……レストランで紫蘭をナンパして、ブレザー姿の少年に叩きのめされていた3人組の男達だった。
3人は地面にうずくまっている紫蘭とカスミの姿を見て、ニタニタと下品な笑みを浮かべている。
「あなた達は先ほどの……?」
「覚えてくれていて光栄だね。人形使いの巫女さんよお」
「……何のようでしょうか。先ほどのように、私を手籠めにするおつもりですか?」
紫蘭が警戒しながら訊ねる。
リーダー格の男……玄炎と呼ばれていた男が愉快そうに肩をすくめた。
「ヒャヒャッ! それはそれで魅力的な提案だが……残念ながら、ここでは女を抱くことはできねえんだよな!」
「そうそう。さっきも三流退魔師の家系の女を抱こうとしたら、あと少しというところで女の身体が消えちまった。どうやら、この島には性的暴行を防ぐ術もかけられてるみたいだな!」
「そういうわけで……メダルを献上するのなら優しく可愛がってやるぜ? さっさと差し出しな!」
男達が口々に身勝手なことを叫ぶ。
なるほど、この島で死亡した人間は外に弾き出されるようになっているが、性的暴行を受けている人間も同様らしい。
まあ、そうでなければ河童に捕まって回されてしまう可能性もあるし、当然の安全処置か。
「ということは……これまで、かなり危なかったんだな。よく安全装置が発動しなかったもんだ」
どこまで貞操の危機を迎えれば外に出されるのかはわからないが、カスミとか5、6回くらいは外に飛ばされていてもおかしくはない。
カスミは本当に失格スレスレだったのではないかと、危うい気持ちになってしまう。
「あ? 誰だよ、テメエは」
「男もいるじゃねえか、つまらねえなあ」
男達がようやく俺に気づいたとばかりに、視線を向けてきた。
「野郎をいたぶる趣味はねえよ。テメエはメダルを出してさっさと消えな!」
「女共は逃がさねえけどな! 殺す直前までいたぶって、たっぷり遊んでやるぜ!」
「なんという破廉恥な……!」
「ふえ、クズじゃないですかあ……!」
紫蘭とカスミがそろって軽蔑の顔になる。
俺もまた、男達のクズっぷりにハラワタが煮えくり返る。
「最低だな。女の子をイジメるとか小学生かよ!」
俺は怒りのままに吐き捨てる。
「女の子の身体を許可なく触ったり、服を脱がしたりするのは最低の行為だ! お前らにとっては遊びかもしれないが、それで傷つく子達がいるかもしれないとわからないのか……このゲス野郎!」
ん……何だか大きなブーメランが胸に突き刺さったような気がするぞ?
気のせいだよな。うん、気のせいだ。
「ハッ! 威勢がいいなあ。テメエもぶっ殺決定だ!」
「女を可愛がる前に、お前を先に痛めつけてやるよ。ヒャヒャッ!」
男達が敵意を剥き出しにした。
紫蘭が地面に座り込んだまま、こちらを見上げてくる。
「月城さん……よろしいのですか?」
「よろしいも何も、アッチがやる気じゃないか。俺は自分が売られたケンカを買っただけ。別に君達の手助けをするわけじゃないよ」
「……ありがとうございます。感謝いたします」
紫蘭が小さく頭を下げてきた。
私闘でケンカをするだけなのだから、お礼を言われる道理などないはずなのだが。
「ま……どうでもいいさ。サクッと片付けさせてもらおうかな!」
「しゃらくせえ……やっちまえ!」
「「応ッ!」」
中央の男……玄炎の取り巻き2人が術を発動させた。
2人の男が手に持った呪符を投げつけると、一方が鷲に、もう一方が大蛇に姿を変えて襲いかかってくる。
「へえ……式神か。それなりにやる」
術の発動スピードがかなり速い。
どうやら、虚勢ではなく本当にそれなりの実力者のようだ。
「玄炎流式神術を受けて見ろ!」
「欠片も残さんぞ、四流退魔師が!」
「はいはい、どうでもいいからさっさと消えろ」
「「なあっ!?」」
俺は魔力を拳に込めて一撃。
たった一発の打撃によって、2体の式神をまとめて打ち砕く。
「馬鹿な! 俺の『神鷹』がやられるなんて!?」
「ふ、ふざけるなっ! 『竜備』があんなワンパンで……!?」
「御大層な名前を付けているところを申し訳ないが……弱かったぞ、お前らの式神」
「ッ……!」
「はい、さっさと後を追えよ。じゃあな!」
今度は蹴りを放ち、取り巻き2人の頭部を潰す。
頭を失った男達が消えていく。島の外に飛ばされたのだ。
「さあ、これで残りは1人。まだ『可愛がってやる』とか調子に乗ったことを言うつもりじゃないだろうな?」
「テメエ……何者だ?」
手下をやられたことで玄炎の目にも警戒の色が宿った。
「市井の術者じゃねえな? どこの家のもんだ?」
「さあ? 聞いたところで意味はないだろう。連絡先でも交換したいのかよ」
「……分家の術者を倒したくらいで調子に乗ってんじゃねえよ。俺は玄炎一族本家の嫡男。お前が倒した連中とは格が違う!」
「おお?」
玄炎が式神を召喚した。
現れたのは巨大な蜥蜴……否、恐竜。ティラノサウルスである。
「控室にいたティラノサウルスはお前のだったのか? 随分と目立つ式神だな」
「一族に伝わる式神――『竜雅』。テメエみたいな三流の雑魚退魔師にやられるほど軟じゃねえぞ!」
「ははっ、さっきは四流呼ばわりだったのに出世したな? だったら……俺より弱いお前は五流ってところか?」
「死にやがれ!」
『ガオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
ティラノサウルスが駆けだした。
巨大な暴食竜が向かった先は……俺ではなかった。
「女共を狙え! あっちは隙だらけだ!」
「チッ……この期に及んで、とことんクズだな!」
玄炎は俺を無視して、紫蘭とカスミに矛先を向けた。
ティラノサウルス型の式神が2人の少女めがけて襲いかかる。
「やれやれだぜ……仕方がないな」
虚を突かれたせいで、ティラノサウルスがあと少しで2人に喰らいつくというところまで接近していた。
とはいえ……問題はない。
時間を停止させれば、今からでも余裕で追いついてティラノサウルスを潰すことができる。
「ザ・ワール……ん?」
時を止める寸前で気がつく。
その瞬間、頭上から人影が降ってきた。
「ハアッ!」
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
頭上から落ちてきた影がティラノサウルスの頭部を踏みつけ、背中に手に持った刀を突き刺した。
不意打ちの一撃を受けたティラノサウルスが粉々に砕け散り、煙のように消えていく。
「な……俺の『竜雅』が!?」
「見ていられないな。下種の所業というものは」
「テメエはあの時の……!?」
颯爽と目の前に現れ、女性2人を救出したのは見知った人物だった。
ブレザー姿の小柄な少年。刀を手にしており、軽く右手を振るって黒い刃を払う。
「女の敵は僕が許さない。退魔師にふさわしくない下郎の輩め……覚悟するが良い!」
賀茂晴嵐。
レストランで3人組の男を叩きのめしたブレザー姿の少年が、見図ったようなベストタイミングで現れたのであった。
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