18.五日目は教会でセーブを⑤
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謎のファンタジー的生命体との遭遇から十数分後。
自宅へと帰り着いた俺は、妹から帰りが遅くなったことへのお説教を食らいながら夕飯を食べることになった。
夕飯のおかずは焼きうどんと餃子。シーザーサラダ。どれも俺の好物のメニューである。
数年前から家事を担当するようになった真麻は日々料理の技量を上げている。今やその腕前はベテランの主婦と比較しても遜色のないものになっていた。
そんな妹の料理を口に運びながら、俺の頭に浮かぶのはやはり先ほどの化け物の姿である。
(結局、アレって何だったんだ?)
夜道で現れた怪物。クエストボードのログには『レッサーヴァンパイア』などと記載されていた。
(スキルにクエスト……それを与えた神がいるんだ。ヴァンパイアがいたっておかしくはないんだけど……)
だからといって、これまでの人生で一度として遭遇することがなかったものが、どうして今さら目の前に現れるのだろうか?
そもそも、俺は自分がどうしてあの化け物に襲われたのかも理解できていなかった。
(たしか色々言ってたよな。えーと……ローズレッドがどうとか、クルセイダーがどうとか)
聞きなれない単語。気になる単語をさんざん吐いたあげくにあっさりと消滅した怪物を思い出して、俺はムウっと顔をしかめる。
こんなことなら一思いに倒すことなく尋問でもしてやればよかっただろうか?
(いや、さすがに無理かな? どう考えても格上の相手だったし、たぶん聖水がなかったらやられていたのは俺だったよな)
偶然、デイリークエストで聖水を入手していなかったらと思うとゾッとしてしまう。
本当に理由もわからないままに怪物に捕まり、わけもわからず拷問を受けることになっていたのかもしれない。
帰り道で運悪く怪物と出くわして。
それをたまたま手に入れていたアイテムで撃退して。
まったく、自分が運が良いのか悪いのか全くもってわからない。
ひょっとすると、クエストボードにはそういうトラブルを招き寄せる効果でもあるのかもしれない。
「お兄、ごはん中に考え事しないの」
「ありゃ? バレたか」
考え事を中断して顔を上げると、真麻が半眼になってこっちを睨みつけていた。
責めてくる眼差しに居心地の悪い気持ちになりながら、餃子をタレにつけて口に放り込む。
モグモグと咀嚼している俺を真麻がじいっと見つめてくる。
「悪かったよ。ちょっと思うところがあってな? ちゃんと味わって食べるよ」
「それはいいんだけど……お兄、最近ちょっと雰囲気変わったよね」
「んー、どうかなあ……」
真麻の言葉に俺は曖昧に言葉を濁した。
クエストボードのことは当然ながら真麻には話していない。
今の俺はスキルによって常人を越えるような力を手に入れつつあり、関係があるのかわからないが今日は怪物にまで襲われてしまった。
これから何が起こるかも定かではないのに、妹に事情を話して巻き込むわけにはいかないからだ。
「まあ、男子は三日会わないとどうのこうのってやつだな。刮目してくれよ」
「……毎日会ってるじゃない。家族なんだから」
「あ、そうだっけか?」
妹のツッコミに俺は首を傾げて誤魔化しにかかる。
真麻はなおも疑わしげに俺の顔を見て、ポツリとつぶやいた。
「……今日も帰り、遅かったよね。彼女でもできたの?」
「彼女? なんでそうなるんだよ」
見当違いな予想に、俺は思わず声を上げた。
いったい、何をどうすればそんな考えに至るというのだろうか。
「道場でもそうだったけど、最近のお兄は妙に落ち着いてるというか余裕があるよね? 前のお兄だったら沙耶香先輩みたいな美人と緊張せずに話せるわけないのに」
「えーと、それは……」
「気づかなかった? 道場の女の子、お兄のことすっごく気にしてたみたいだよ? 大人びててカッコいいって」
「へ……マジで?」
予想外の言葉に真顔になって尋ねてしまう。
自慢することではもちろんないのだが、俺は生まれてこれまで彼女というものができたことはなかった。
まさかこの年になってモテ期がやってきたのだろうか?
「沙耶香先輩だってお兄のこと……」
「ん? 沙耶香さん?」
「……やっぱり何でもない。忘れて」
「いや、そこまで言われたら気になるだろうが。最後まで言えよ」
「うるさいなあ! デザート抜きにするよ!」
プリプリと怒り出す真麻に、俺は仕方がないので口を閉ざした。
真麻はそれきり俺と目を合わせることはなく、無言で夕飯を口に運び続けた。
「やれやれ……妹に勝てる兄貴なんていないってことかな」
俺は口の中でつぶやいて、今度こそ食事に集中しようと箸を皿へと伸ばした。
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