ヒジリの伝説 ヴァンプの仮面⑥
聖がフワフワと……今にも落っこちてきそうな怪しい動きで空を飛んでいく。
夜闇に溶けるようにして遠ざかっていく聖のことを見送り、俺はうんざりしたように長い息を吐いた。
「さて……これからどう動いたものかな?」
不恰好に空を漂っている聖を見上げながら……僕は口元に手を当てて考え込む。
聖の指示に従うのであれば、正面玄関から突撃して陽動。警備会社の社員を引きつける囮役を務めるべきだろう。
だが……聖の言われたとおりにするのは何となくシャクである。その作戦が正しいかどうかという理屈ではなく純粋にイラッとしてしまう。
「そもそも……アイツが無事に潜入して、目的のアイテムを見つけ出すことができるかどうかも疑問だしな……」
なんたってアイツは朱薔薇聖。
我らが貧乳の星にして『アホの後輩』である。彼女が組み立てた作戦がスムーズに運ぶとはとても思えない。
ブルーブラッドなる吸血鬼が上の階にいて、そこに石仮面がある保障など何処にもなかった。
ましてや、気づかれることなくそれを盗み出すことができる確率がどれほどあるというのだろう。
「……絶対に失敗する。失敗する前提で動かないと」
ならば……どうするべきだろう。
正直に言わせてもらうのなら、ブルーブラッドをやっつけるのも、石仮面を盗み出すのも……俺だけだったら楽勝である。
俺は激しい戦いと冒険の果てに神格を得て、吸血鬼の『神』をやっつけた男なのだ。
力ずくにせよ、穏便に済ませるにせよ……たいていの問題は独力で解決できるだけの力は持っている。
「だけど……俺が全部やってしまうのも良くないよな。聖の教育的に」
今回の一件は聖が持ち込んできたもの。
吸血鬼とのハーフである聖が抱えている問題なのだ。
それを俺が一方的に解決してしまうことが、果たして正しいやり方といえるのだろうか?
サポートをするくらいだったら構わないかもしれないが……全部をやってしまうのは明らかに違う。
子供ができることを保護者が全部やってしまうのは堕落の始まり。
そうやって甘やかされて育った子供が、将来、社会に出てから自分では何もできなくなってしまうのだろう。
「……うん、完全に親とか兄の気持ちになっているな。実際に保護者ではあるんだけど」
聖は吸血鬼の『神』の器となったことで、ある種の観察処分を受けている。
『神』を倒した俺、この土地の管理者である雪乃下家が管理をしているからこそ、始末されることも拘束されることもなく自由を許されているのだ。
だからといってウチで預かって同棲……じゃなくて同居するのはやり過ぎのような気がしなくもないけれど。
妹の真麻なんて完全に勘違いをしているし……同居初日には泣きながら赤飯を炊いていて、事情をわかってもらうのに苦労したものである。
「うーん……やっぱり肝心な部分は聖にやらせなくちゃいけないよな。これもアホの後輩の成長のため。俺が将来的に迷惑をかけられないようにするためだ。どうにもならない状況になるまではサポートに徹しないと」
などという状況を纏めると……指示されたとおりに囮役をやるしかなかった。
結局は聖の言うとおりになっている。あの後輩の手の上で踊らされているかと思うと、非常に不愉快な状況であった。
「まあ……いいさ。今度お仕置きしてやるから覚悟しておくがいい。泣いても漏らしても絶対に許さないからな!」
俺は聖にキツイ灸をすえることを心に決めて、警備会社のエントランスに向かって足を踏み出した。
数日後、俺は隣町のショッピングモールでビニール紐と革ベルトと山芋と耳かき、それと成人用オムツを購入することになる。
それらをどのように使用したのかは、賢明なる紳士諸君の想像にお任せしておくとしよう。
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