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集まれ、園芸委員会③

 無事に1組の園芸委員に報告会参加を取りつけた俺は、今度は2組の園芸委員に声をかけることにした。

 2組の委員は葛城那須太郎という名前で帰宅部のようだ。

 2組の男子生徒に聞いてみると、放課後にはすぐに教室からいなくなってしまうとのこと。どうやら放課後はバイトが入っているらしく、そのせいで委員会に参加するのが難しいのだろう。


 明日にでも声をかけなおそうかと思ったが……どうやら、バイト先がウチの近所にある商店街らしいので、せっかくだから帰りに寄ってみることにした。


「……と、いうわけなんだけど。報告会には参加できそうかな?」


「…………」


 バイト先まで行って声をかけると、葛城那須太郎はゆっくりと首を振った。

 野球部のアイツのようにムカつく言動はない。申し訳なさそうに何度も頭を下げてくる。


「いや、いいよ。学費と生活費のためにバイトを掛け持ちしていると言われたら、無理にでも来てくれとは言えないからな」


「…………」


 葛城は申し訳なさそうに肩を落とす。

 そして、俺に向かってブンブンと両手を左右に振る。


「ああ、委員長には俺のほうから言っておくよ。だけど……できれば来週の報告会には誰か代理の生徒に出席してもらえないかな? 2組の生徒なら誰でもいいから」


「…………」


 葛城がコクコクと頷いた。

 どうやら、わかってくれたようだ。今回は話し合いで解決してよかった。


 ちなみに、どうして葛城がジェスチャーで会話をしているかというと……葛城のバイトというのが、ぬいぐるみを着てビラや風船を配る仕事のようだ。

 葛城は肺呼吸に目覚めた魚が2本足で歩くようになったような謎の生き物のぬいぐるみを着ており、片手に大量の風船を持っている。

 何というか……怖いデザインだ。子供も怖がって近づいてこないようで、風船は全然減っていない。


「……ところで、そのぬいぐるみって何?」


「…………」


 葛城が無言で胸元を指差した。

 そこには名札のようなものが貼られており、「チュパッブー」と可愛らしい丸文字で書いてある。


「チュパッブー……?」


 チュパッブー。

 チュパッブー。ちゅぱっぶ。ちゅぱぶ……


「チュパカプラなのか、ソレは!?」


「…………」


「いや……猫とかクマとかならわかるけどチュパカブラって。未確認生物のぬいぐるみじゃあ、誰も風船を受け取ってくれないんじゃないかな。子供も怖がるだろうし」


「…………」


「へ、ヘコんでる? いや、この着ぐるみ、君がデザインしたものかよ!? 君、バイトなんだよね!?」


「…………」


「商店街の役員に頼まれた? ああ、親戚なのか。それにしたってUMAって……」


 よりにもよって家畜の血を吸う未確認生物を着ぐるみのデザインに選ぶとか、いったいどういうセンスをしているのだろうか?

 感性が独特すぎてちょっと怖いくらいである。


「……というか、どうして俺は君と普通にコミュニケーションがとれてるんだろうね。それも怖いんだけど」


 さっきから普通に会話をしているようだが、チュパッブーこと葛城那須太郎君は一言もしゃべっていない。

 キャラを忠実に守っているのか、それとも無口な人間なのか……身振り手振りのジェスチャーだけでこちらに意思を伝えてきている。

 それを正確に読み取って会話が出来ているのだから、我ながらすごいコミュ力だと感心してしまうくらいだ。


「まあ、いいや。とりあえず……来週の報告会では誰か代理の人が出席すると委員長に伝えておくよ。アルバイト頑張ってね」


「…………」


 チュパッブーが手を振って見送ってくれる。

 ついでに余っていた風船を渡してきたので、とりあえず貰っておいた。


「やれやれ……」


 ともあれ、2組の園芸委員にも話を通すことができた。

 これで残すところは3組と4組。まだ時間にも余裕があるし、何とかなりそうだ。


「きゃあああああああああああっ!」


 満足した気持ちで帰路につこうとする俺であったが……突如として、絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。

 慌てて振り返ると、そこには道路に飛び出した子供と、子供をかばって抱きついたチュパッブーこと葛城那須太郎の姿。2人めがけて大型トラックが迫っている。


「くっ……!」


 驚いたのは一瞬のこと。俺はすぐさま駆け出した。

 俺と葛城らの距離は10メートルほど。トラックはすぐそこまで迫っており、どう考えても間に合うような距離ではない。


「だが時空干渉! 時よ止まれ!」


「ザ・〇ールド!」などと叫ぶことはないが、周囲の景色全てが停止した。

【万能魔法】のスキルによって時空に干渉して、時間を停止させたのである。


「よいしょっとおおおおおおっ!」


 停止した時間の中で俺は着ぐるみをつけた葛城と子供を抱きかかえ、道路の反対側まで連れていく。

 次の瞬間、ブレーキ音を響かせながらトラックが通り抜けていった。


「ふう……間一髪。危なかったぜ」


「…………!」


 葛城は呆然とした顔で……いや、着ぐるみだから顔は見えないけど、驚いて固まっているようだった。


「ゆうちゃん!」


「ママー!」


 葛城に庇われていた子供が、泣きながら母親らしき女性に抱き着いた。

 状況を察するに……母親から離れた子供が道路に飛び出してしまい、それを見た葛城が庇って抱き着いた構図なのだろう。

 俺がいなかったら、2人まとめてトラックに撥ねられていたはず。


「子供のほうに怪我はなさそうだな。葛城、お前も平気か?」


「…………」


 葛城が着ぐるみの頭部を両手でつかみ、ゆっくりと持ち上げた。

 その下から現れたのは……銀髪碧眼の美少女である。


「危ナイトコロでしたー。助かりマシタヨー」


「は……?」


 誰だ、コイツは?

 この着ぐるみ……チュパッブーの中身は葛城那須太郎という名前の男子だったはず。

 いつの間に外国人の美少女と入れ変わったというのだろうか。


「い、イリュージョン!? 何のスキルを使ったんだ!?」


「違うヨー。ワタシが那須太郎ダヨー」


「いや、いやいやいや! 『葛城那須太郎』だよね!? どう考えてもの日本人の名前だよね!? っていうか、男の名前だよね!?」


「ワタシハは日本とロシアのハーフよー。葛城はママンのミョウジねー。ロシア人としてのナマエは『ナスターシャ』ヨー」


「…………マジで?」


 驚愕の事実に俺は顔を引きつらせる。

 日本の男子高校生――『葛城那須太郎』だと思っていた少年が、本当はロシア人とのハーフ少女『葛城ナスターシャ』だった。

 なるほど、なるほど。いや……わかるわけねえだろうが!


「助けてクレテありがとネー。これはカンシャのアカシよー」


 エセ外国人風のしゃべり方の那須太郎は、そう言って俺の頬にチュッと口付けをしたのであった。


 ちなみに、商店街のマスコットキャラクターである『チュパッブー』だったが、子供を命懸けで助けたことがきっかけとなり、近所の子供達のヒーローとなった。


 さらに、たまたま彼女の素顔を見た人間がテレビ局に連絡したらしく、『美しすぎる着ぐるみ師』として有名になって、商店街の振興につながったのである。


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[一言] まさか! 彼女は、未来の「ハーレム要員」の一人か!?
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