133.そして伝説へ!!! ⑦
「フウッ……フウッ……フウッ……」
頭上から断続的な息遣いが聞こえてくる。
見上げると、少し上をクラリスが登っていた。二本の長い脚が木の瘤に足を乗せ、枝を踏みしめて太い幹をずんずんと進んでいく。
俺とクラリスは食事と睡眠を摂り、十分な休憩をとってから大樹を登り始めた。
もちろん、鎧などの装備を脱いで身軽な格好に着替えている。武器も大剣を置いて短剣を腰に差しているだけだった。
すでに登山ならぬ登樹を開始してから5時間ほどが経過している。いくら体力がある俺達といえど、疲れがみえだす頃合だった。
「フウッ……フウッ……フウッ…………ハア、ハアッ」
上を登っているクラリスの息遣いもどんどん荒くなっている。そろそろどこかで小休憩をとった方が良さそうだ。
「クラリスー、どこかで休もう! 無理をすると手を滑らせて落っこちるぞ!」
「だ、大丈夫だ……まだまだ問題ない……」
「お前が落ちたら下の俺も無事じゃ済まないって! 『あと少しいける』は『そろそろヤバい』のサインだ。限界が来る前に休んでおけ!」
「……わかった。上に太い枝があるから、そこで休もう」
クラリスも納得してくれたようだ。荒い呼吸を繰り返しながら休憩地点を目指して進んでいく。
俺もクラリスの下を進みながら、彼女が滑落しないようにローアングルから見守った。
真下から見上げたことでパン・ツー・マル・ミエなことになるかと思いきや、クラリスはしっかりとズボンを履いているため下着は見えない。
「無念……非常に残念」
湖で全裸を見たからいいじゃないかと思うかもしれない。
だが……裸とパンチラは別腹である。お好み焼き屋で食べる焼きそばとカップ焼きそばが別の存在であるように、両者の間に上下関係など存在しない。
裸は見たけれど、それとは無関係にパンツも見たいのである!
「マサゴ……さっきから全部口に出しているからな? 君の恥ずかしい性癖が聞こえているからな?」
「嘘おっ!?」
「私の身体に魅力を感じてくれるのは素直にうれしいが……あまり調子に乗ると飛び蹴りを喰らわせるぞ。地面に落ちて踏まれたカエルみたいになりたくなければ、口を閉じることをお勧めする」
上から呆れたような声が落ちてくる。これ以上セクハラ発言を続けたら、本当に下に落とされてしまいそうだ。
俺は反省しつつ、黙って木を登る。
休憩地点の枝まではすぐにたどり着いた。
俺達は寝転がれそうなほど太い枝に並んで座り、大きく息をつく。
「ほい、水分補給をしておけよ」
「……ハア、ハア。すまない。助かる」
ストレージから水を取り出して渡してやると、クラリスは素直に受け取って口をつける。
水や食料はたっぷりとストレージに入っている。餓死などの心配はないだろう。
「フウッ……ほら、マサゴも飲んでくれ」
ゴクゴクと喉を鳴らして半分ほどを水を飲んだクラリスが、こちらに水筒を投げ渡してくる。
きゃっ、間接キスだわ──などとちょっとだけ考えながら、俺も水分を補給しておく。
「それにしても……随分と大きな樹だな。ちっとも頂上が見えてこない」
クラリスが頭上を見上げながら嘆息する。
世界樹のごとき大樹であったが、登っても登ってもちっとも上に進んでいる気がしない。枝が生い茂って視界をふさいでいるということもあるが、やはり木が大きすぎる。
「山みたいにデカいからな。今日中に頂上まで登り切ることはできないだろ。そろそろ日も暮れてくるだろうし、ここでキャンプすることも考慮したほうがいいな」
「やっぱりそうなるか……それにしても、マサゴがいてくれて本当に良かったと思う。私1人だったら詰んでいただろう」
「役に立てたようで嬉しいよ。お礼は身体で払ってくれれば構わないから」
冗談めかして言ってみると……クラリスは「フム」と何かを考え込むような仕草をとる。
「考えておく」
「……マジで?」
考えてくれるのか。
考えてくれるのかああああああアアアアアアアアアアッ!
俺は思わず頭上に拳を突き上げた。
ダメもとで言ってみるものである。1度は童貞のまま死んでしまったが、どうやら異世界で卒業チャンスが巡ってきたようである。
「パンツを見せるくらいなら安いものだからな。胸を触らせるのも……まあ、いいだろう。それ以上はちょっと……いや、しかし……魔王を倒した後であれば子供を孕んでも問題はないし……」
「期待しておくから前向きに考えておいてくれ! マジで。絶対にっ!」
悩ましげな様子で考え込んでいるクラリスにしっかりと言い含めておき、俺は嬉々としてキャンプの準備を始めたのであった。




