117.夏の終わり、世界の終わり⑨
牧師さんとの話を終えた俺は、そのまま教会を出て家に帰宅することにした。
もうすっかり夜も遅くなってしまった。頭上には月が輝いている。
「はあ……気が重い。嫌なことを知っちゃったなあ……」
悶々と、鬱々と悩みながら、重い足取りで家路につく。
教会から自宅までそれほど離れていないはずだが……まるでゴルゴダの丘でも登っているような心境だ。恐ろしく家が遠くに感じる。
それでも、足を動かせばちゃんと前に進むものである。帰り道でまたしても吸血鬼と遭遇して戦闘に突入――などということもなく、無事に自宅にたどり着くことができた。
「遅いじゃない、お兄! 遅くなるならちゃんと連絡してよね!」
玄関で待ち構えていた妹の真麻にプリプリと叱られる。
帰宅が遅くなったことにたっぷりと説教を喰らって、遅い夕飯を出された。
レンジで温めてくれればいいのに、遅くなった罰なのか夕食は冷たいおかずだった。
牧師さんから聞いた話のせいでどうせ味もわからなかったし、どうでも良いことといえばそれまでである。
夕食を終えてベッドにぼんやりと寝転がっていると、スマホが小さく音を鳴らす。
画面を確認すると、雪ノ下沙耶香からメッセージが届いていた。
『大切な話がある。明日の午後にでも道場に顔を出して欲しい』
沙耶香らしく、絵文字なども使われていない簡素な文面である。
「大切な話……。愛の告白とかかな?」
もちろん、違うだろう。
おそらくというか間違いなく、牧師さんから聞いた話に関連した内容に違いない。
察するに、彼女が所属している『結社』とやらがこれから事態の解決のために動き始めるのだろう。ひょっとしたら、すでに何らかの行動に出ていてもおかしくはない。
俺も特殊能力を持つ戦力の1人として、世界を救うための戦いに駆り出されることになるのだろうか?
「モテる男は辛いぜ。やれやれだな……」
正直に言って、気が重い。
世界の命運がどうのとか。滅亡がどうのとか。そんな重苦しいものを背負わされたくはない。
俺は女の子とイチャイチャパラダイスをしながら、のんびりと生きていきたいだけなのだ。負けたら世界が滅ぶとかハードな戦いに巻き込まれたくなんてない。
だが……これから起こる未来を知ってしまった以上は避けて通れなかった。
吸血鬼の『神』とやらが復活して殺されるのはごめんだし、妹の真麻や友人――春歌や早苗が犠牲になる事態も許しがたい。
それに……この事態に俺が巻き込まれるのは、あらかじめ決まっていたことなのかもしれない。
たまたま、世界終末をかけた戦いの舞台となる町に住んでいる俺が、謎の神から『クエストボード』という力を授かる――これが果たして、偶然だったというのだろうか。
神様からもらったメッセージには『実験』と書かれていたが、クエストボードは吸血鬼に立ち向かうために与えられた力ではないかと疑ってしまう。
両面宿儺にはじまり、最近は神っぽい敵と遭遇していたのも、あるいは吸血鬼の『神』と戦うための予行練習なのかもしれなかった。
どうして自分のような平凡な人間が神様に選ばれたのかは激しく謎だが……それでも、自分には確かに出来ることがあるのだ。
「神様の思惑がどうであれ……どっちにしても、やることは変わらないか。戦う力があるんだから世界は守らないとな」
天井に向けて深々と溜息をつき、俺は決意した。
吸血鬼の「神」とやらの復活を阻止する。
この世界を……というよりも、親しくなった女の子達を守るために、全身全霊で戦ってやろうではないか。
真麻のことも。春歌のことも早苗のことも。沙耶香のことも……ついでのついでに聖のことも。浩一郎や彩子、その他大勢のことだって守ってやろうではないか。
「それに……もしも世界を救うことができたのなら、これまで俺が犯してきた罪だって許されるよな?」
女の子の服を切り裂いたり、ラッキースケベでおっぱいを触ったり……自分のこれまでの業を思い出して、俺はそっと苦笑いをしたのである。




