104.愛と悲しみの夏合宿⑬
目の前に現れた一つ目神主。その背後には複数の男達が続いている。こちらは何の変哲もない服装で、年齢は全員70代以上の高齢の人物だった。
男達は協力して棺のような箱を運んでおり、祠の前に箱をゆっくりと置く。
何というか……非常に不気味な一団である。
察するに、この地域独特のお祭りか儀礼の最中らしいが、どうも不気味な雰囲気が伝わってくるのだ。
新興宗教の怪しげな儀式を目撃してしまった気分である。
「―――――――。――――――――――」
一つ目神主が何事か、祝詞のような言葉を唱えている。
言葉の内容はほとんど聞き取れない。本当に日本語なのかと疑うような独特のイントネーションだった。同行してきた男達は顔を伏せて神主の声に聞き入っている。
「―――――――。――――――。―――――――――――――!」
祝詞はたっぷり10分ほど続いていたが、やがてピタリと停止する。
一つ目神主が小声で何事かの指示を出す。指示の内容は俺がいる場所までは聞こえない。
男達が頷いて、祠の前に置かれた箱のふたを開ける。
人間が入るほど大きな箱。そこから出てきたのは…………やはりというかなんというか、本当に人間だった。
年齢は中学生くらいだろうか。一糸まとわぬ裸の少女が両手両足を縛られた状態で箱に入れられており、ぐったりと気を失っている
「おいおい、マジでか……!?」
思わずつぶやいた視線の先、妖しい一団はさらに驚くべき行動に出た。
裸の少女の身体を3人がかりで抱えて棺から出すと、崖の方に向けて向かっていったのだ。
「悪く思うなよ。これも町の平和のためだあ」
1人の老人が悲しそうにつぶやいたのを合図にして、少女の身体を崖に向けて投げた。
「っ……!」
俺は迷うことなく駆け出した。
走った勢いのままに崖に飛び降り、真っ逆さまに落ちていく少女を追う。
「この……帰宅部の運動能力なめるなよ!」
俺は崖を蹴って加速していき、空中で少女の身体に飛びついた。我ながらよく追いつけたものだと自分で自分をほめてあげたい気分である。
「ふんぬっ!」
俺はストレージから取り出した剣を崖に突き刺し、勢いを殺す。
ガリガリと崖を削る嫌な音が鳴り響き、あと1メートルで海水に届くというところでようやく停止した。
「俺ってスゲエ……マンガみたいなことしちゃったよ」
今だったら、アクション俳優としてハリウッドスターにだってなれるかもしれない。『日本のジャッキーチェン』とか呼ばれるのも夢じゃなさそうだ。
そんなことを考えながら腕の中の少女を確認すると、とりあえず息をしていて脈もあるようだった。薬でも使われているのかぐったりとしていて目を覚ます様子はない。
「ヒドイことをしやがる……まだ中学生くらいじゃないか」
腕の中にいるのは妹と同じくらいの年齢の少女である。それなりに可愛らしい顔をしていた。
上にいる連中が何を目的にしているのかは知らないが、未来ある少女を崖から放り投げるなど、どんな理由があっても許せるわけがない。
「腹立ってきたな……とりあえず、全員ぶっとばす!」
もはや隠れる必要はない。
俺はステルススーツの機能をオフにして、崖に突き刺した剣を足場にして大きく跳んだ。
「なあっ!? 誰だ貴様はっ!?」
崖の下から飛び上がってきた俺の姿を見て、謎の一団が動揺の悲鳴を上げる。
すでにステルス機能は切っている。黒ずくめタイツにゴーグルという奇怪な人物が少女の身体を抱き、崖下から飛び上がってきたのだから驚くのも無理はない。中には驚きのあまり尻もちをついている者までいた。
「妖しい奴め! 贄の娘をどうするつもりだ!?」
「お前に言われたくないよ! 妖しいのはそっちだろうが!」
一つ目神主に言い返して、俺は少女の裸体を地面に横たえる。
「んうっ……」
少女の口からむずかるような声が漏れ出てきた。
どうやら、少しずつ意識が覚醒してきているようだ。大事がなくて何よりである。
「馬鹿者! その娘をさっさと崖に落とすのだ! ミサキ様に贄を捧げなくては、この地に災いが訪れるぞ!」
「はあ? 何の話だよ……」
呆れ返って肩を落とす。
いったい、コイツらは何を言っているのだろう。
「我らはずっとそうやってこの町を守ってきたのだ! 死骨ヵ浜は呪われた地。荒ぶる海神であるミサキ様を鎮めるためには、うら若き乙女を捧げるしかないのだ!」
一つ目神主が叫ぶと、まるでその言葉に呼応するかのように社の扉が独りでに開く。
中から青い靄のようなものが流れ出てきて、神主と周りにいる人間の身体を取り巻いていく。
「ミサキ様を守れ」
「贄を捧げよ」
「死骨ヵ浜の地にやすらぎを」
「捧げろ」
「捧げろ」
「捧げろ」「捧げろ」「捧げろ」
「捧げろ」「捧げろ」「捧げろ」「捧げろ」「捧げろ」「捧げろ」「捧げろ」「捧げろ」「捧げろ」
「うっわ、気持ち悪っ……!」
まるで操られたかのように……いや、実際に青いモヤに取りつかれて操られた人々に、俺は思わず顔をひきつらせた。
状況はよくわからないが、どうやら目の前にいる連中は『ミサキ様』という謎の信仰に取りつかれたカルト集団のようである。
「それにこの気配……どうやら、居もしない神様を崇めているわけでもなさそうだな」
青いモヤに憑かれた連中からは、かつて両面宿儺やワンダーランドの大クラゲとよく似た気配を感じる。どうやら、彼らを操っている存在も『神』と呼ばれるものの一種なのだろう。
「とはいえ……だいぶ力は劣るっぽいな。この程度なら楽勝だ!」
「へ……?」
俺はすぐさま一つ目神主の懐に飛び込み、アッパーカットで下から神主の顎を撃ち抜いた。
顔に張られていた一つ目の紙が剥がれ落ち、下からどこにでもいる平凡な老人の顔が現れる。
「この……よくも教主様を!」
「【神聖属性攻撃】!」
「へぶっ!?」
信者の1人が飛びかかってくるが、神にダメージを与えることができるスキルを拳に乗せて殴りつける。信者の身体を操っていたモヤが掻き消されたように消滅した。
「将来有望な女の子をイジメた罰だ。全員、鉄拳制裁!」
「う、わああああああああああああっ!?」
モヤに操られた信者1人1人を殴り飛ばしていく。もちろん、死なない程度に手加減をして。
うん、ものすっごい弱い。剣を抜くまでもなく簡単に倒すことができる。
数十秒後には神主と信者一同、全員が地面に倒れて気を失っており、青いモヤも消えている。
最後の1人を倒すと同時に、背後でバキリと何かが砕ける音がした。
「ん……?」
振り返ると、神社の社が真っ二つに割れて崩壊していた。
どうやら、あのモヤを消したことでここに宿っていた『何か』の力が消えてしまったのだろう。
「悪は滅した……ってことでいいのかな?」
結局、最後まで『ミサキ様』とやらの正体はわからずじまいだったが、つまりはそういうことなのだろう。
倒れた少女と、倒れた神主アンド信者。
死屍累々とした光景に囲まれながら、俺は途方に暮れて夏の空を仰いだ。
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