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99.愛と悲しみの夏合宿⑧


――――――――――――――――――――


緊急クエスト NEW!


『浴場の殺意』

 何者かの陰謀によって女湯に取り残されてしまった。このままでは女子のリンチによって命を落としてしまう。

 誰にも見つかることなく、女湯から離脱せよ!


制限時間:10分

報酬:アイテム『ステルススーツ』を獲得


――――――――――――――――――――


「ここでクエストが出るのかよっ!?」


 ――などと叫んだりしてはいません。

 大声を出したら、さすがに見つかっちゃうからね!


 しかし、危うく叫びそうになったのは事実である。

 だって……こんなくだらないというか、しょうもないハプニングがきっかけで緊急クエストが発生するとは思わないではないか。


 これまで緊急クエストは何らかの事件であったり、大切な人に危機が迫ったりした際に発生していた。

 それが女湯に取り残されてリンチされそうになるとか、そんな少年漫画のサービス回みたいな状況で出てくるなんて、このクエストボードを作った神様はヒマなのだろうか?


「リンチで命を落とすって……そんな大げさな」


 俺は女子達に聞こえないくらいの声量でポツリとつぶやいた。

 確かに吹奏楽部の女子に見つかれば、非常にまずいことになってしまうに違いない。

 最悪の場合は警察を呼ばれかねないし、そうでなくとも部活動の合宿中に起きた出来事だ。停学といった学校側からの罰もありえるだろう。


 だが……いくらなんでも、殺されるとか大げさすぎる。

 相手はタダの女子高生。いくら多勢に無勢とはいえ、様々なスキルによって武装し、魔物や神との激闘すら潜り抜けてきた俺が負けるわけがない。


「ちょっとー、私だけ置いていくとかヒドイじゃない!」


「あ、英子ってば遅―い」


「大浴場にいないから探しちゃったじゃないのよー! 露天風呂に入るのなら、ちゃんと教えてくれないとあんまりよー!」


 ――などと考えていると、露天風呂の入口が開いて新たな女子が入ってきたようだ。

 念のため誰が入ってきたのかを確認するためにそっと岩陰から顔を出し…………俺は思わず噴き出した。


「ブオッ!?」


 遅れて露天風呂へと入ってきたのは……女子とはとても思えないような大柄な身体つきの人物だった。

 身長は2メートル以上。彫りの深い日本人離れした顔つきに、身体は装甲のような筋肉で覆われている。手足は丸太のようであり、上腕など成人男性の太腿くらいの太さがあるかもしれない。

 完全に男のプロレスラーかボディービルダーにしか見えないのだが、胸をきっちりタオルで隠しているのが逆にイラっとする。


 その姿は……完全にエ○ディシにしか見えなかった。

 とんでもなく究極生命体っぽい。柱に閉じ込められている姿がありありと浮かぶ。


「ウソおん……」


 こんな女子、合宿のメンバーにいただろうか?

 完全に記憶にない。無意識のうちに視界に入らないように心がフィルターをかけていたのかもしれない。


「ちょっと英子、あなたまた二の腕が太くなってない?」


「えー、別に太ってないってばー。確かに最近、スイーツ食べすぎちゃったけどさー」


「いや……太ったなんて誰も言ってないけど。アンタ、マジでやばいよその身体」


「どうやったらそんな身体になるのかしら? エシ子って、別にスポーツやってないわよね?」


「やってないわよー。あ、お風呂あがりにヨガとストレッチはやってるけどー」


 いや、その身体で女子トークとかやめて欲しい。

 どうでもいいが、誰かコイツのこと『エシ子』とか呼んでたよね? エ○ディシ扱いされてイジられてるよね?


「やっべえ……なんか、本当に殺されるような気がしてきた……」


 ほかの女子はともかくとして……エシ子はヤバすぎる。

 だって究極生命体だもの。『メキシコの熱い風』をはるかに上回る戦闘能力を有しているに違いない。

 エシ子を含む吹奏楽部の女子にリンチをされたら、いくらスキルで武装しても命の危機がありうる。


「本格的に脱出しないと不味いな…………どうしよう」


 エシ子に意識を奪われていたら、いつの間にか制限時間は3分を切っている。タイムリミットがきたら、考えるのも恐ろしいことが起こるに違いない。


 俺は風呂の熱気でのぼせた頭を手で叩いて喝を入れ、どうにか見つからないように逃げ出す手段を振り絞るのであった


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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