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【書籍化】王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います  作者: 狭山ひびき
第四話

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予想外の味方 3

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

(ジュール陛下の時代の収支報告書にもおかしな部分はあったけど、これだけじゃ弱いのよね)


 オリヴィアは廊下を歩きながら考えた。

 まだすべての収支報告書に目を通したわけではないが、バーバラがしるしをつけていた箇所と合わせて、おかしな箇所は複数あった。

 その中には追及できそうな問題もあったけれど、それを追及したところで大きな問題には発展しないだろう。


 報告書の改ざんは、多かれ少なかれどこの領地もやっていることだ。たいていが、見つかっても追加納税だけですむくらいの微々たる罪で、それを見つけたからと言って相手にとって痛手ではない。

 かつてレモーネ伯爵が行ったような金の密輸事件や巨額の脱税行為になれば話は別だが、あのような大胆なことをする人間はそうそういない。


 ――いっそ冤罪でも捏造できれば楽でしょうけど、あの狐ババアがいる限りそれも難しいでしょうからね。


 バーバラも脱税疑惑だけでは相手をやり込めるに足りないと感じているようで、忌々しそうにそんなことを言った。

 冤罪は反対だが、バーバラがそう言いたくなる気持ちもわからなくもない。

 報告書に軽く目を通すだけで、先王時代、エバンス公爵家やその一族がどれだけ横暴なことをしていたかよくわかる。

 地位も金も正当な方法で入手したように記されているため、先王時代の問題を追及することは極めて難しいけれど、おかしいのは間違いない。


(よくあそこまで横暴が通ったものだと思うわ)


 アトワール公爵家も宰相を多く輩出している家だが、宰相や大臣職についたからといって、自分たちの好きに国を動かせるわけではない。

 先王時代、エバンス公爵家が好きにできたのは、グロリアの存在があったからだろう。グロリアはよほど実家に便宜を図ったと見える。

 ブリオール国の王妃は代々能力で選ばれる。優秀なバーバラしかり、先代であるグロリアもまた油断ならない才媛だ。下手を打てばこちらに返ってくる。エバンス公爵家に冤罪をかけようものなら、逆にそれを利用されてこちらが潰されるだろう。


 考えているうちに城の自室にたどり着いて、オリヴィアは難しい顔のまま部屋に入った。

 出迎えてくれるテイラーに「ただいま」と挨拶をして、ソファに座ると、クッションを膝に抱えてまた考える。


「オリヴィア様、ミルクティーです」


 オリヴィアの前に、テイラーが温かいミルクティーを置いてくれる。砂糖が多めに入っている甘めのミルクティー。頭を使っているときにはオリヴィアが糖分を取りたがるのを知っているテイラーは、考え事をしているときにはいつもこれを出してくれる。


(テイラーって本当、わたしにはもったいないくらいよくできた侍女だわ)


 オリヴィアより三歳年上のテイラーは、侍女であると同時に姉のような気の置けない存在だ。

 オリヴィアの侍女になってそこそこ経つが、思えば昔からテイラーは優秀だった。相手の機微を感じ取るのがうまいのだと思う。痒い所に手が届くと言うか、オリヴィアが何かを頼む前に先回りして動いてくれることが多い。


(テイラーもそろそろ結婚を考える年齢よね。……やだなあ)


 テイラーはとても可愛い女性だ。ベージュ色の髪にオレンジがかった茶色の瞳。オリヴィアより少し背が低くて、スタイルがいい。そして優秀で気さくで優しいとくれば、世の中の男性は放っておかないだろう。

 テイラーが結婚して離れていくかもしれないと考えると、オリヴィアは憂鬱になる。テイラーも自分の幸せを考えなければならないので、オリヴィアの側に一生いてくれるわけではない。ずっとそばにいてほしいと思うけれど、それはオリヴィアの我儘だ。


(そろそろもう一人侍女を雇わないと。テイラー一人に負担をかけていたら、テイラーもやめたくてもやめられないわよね)


 落ち着いたらもう一人侍女を入れることを検討しよう。テイラーと仲良くやれる人がいい。そして、テイラーがあとを任せて去ることができるような、しっかりした人を探さなくては。

 チクリと胸を刺すような淋しさを覚えつつ、オリヴィアはテイラーに向かって微笑んだ。


「ありがとう、テイラー」

「いいえ。……お嬢様、わたくしは何があろうともお嬢様の味方ですからね! 何の役にも立たないかもしれませんが、いつでも頼ってください。お嬢様とサイラス殿下は完璧なんです。わたくしの理想の恋人たちです。邪魔をするやつは地獄の底に落ちればいいんです!」

「地獄の底はともかく、わたくしもあきらめるつもりはないわ」

「はい! まあ、最悪どうにもならなかったら既成事実って作戦もありますけどね、ふふ。その辺もテイラーは全面協力いたしますからお任せください。子供ができればこっちのもの」

「テイラー⁉」


 オリヴィアは危うくミルクティーを吹き出しかけた。

笑顔で親指を立てるテイラーにオリヴィアは真っ赤になる。テイラーはときどき発言が過激になるが、今日はまたとんでもないことを言い出した。


「旦那様は卒倒するかもしれませんが、子供ができた女性を捨てたなんて醜聞、王家が許すはずがありませんからねー。むしろ一番いい方法だと思います」

「よくないわよ! もうっ。結婚も前になんてこと……」

「はー、お嬢様は頭が固すぎなんですよ。できちゃった婚なんて今時珍しくないじゃないですか」

「そうなの⁉」

「そうですよ。婚約者が嫌いで好きな相手と結婚したいから子供を作りましたーって話、聞きません?」

「聞かないわ!」

「そうですか? わたくしの姉の友人はその手を使って夫を手に入れたらしいですよ」

「…………」


(あれ? わたしの方が間違っているのかしら……?)


 オリヴィアは軽く混乱してきた。テイラーの考えの方が正しいのだろうか。いやいや、そんな、結婚前に子供ができるような行為をするのは間違っている。第一オリヴィアの心臓が持たない。うん、聞かなかったことにしよう。

 そう思ったのに、テイラーはさらに過激なことを言い出した。


「わたくしもいつか好きな男性ができたときは、その手を使って手に入れて脅して要求を全部飲ませるつもりです!」

「ええ⁉」

「わたくしは死ぬまでオリヴィア様のそばを離れませんから、子育てを全部引き受けてくれる男性が理想なんです。見つけたら手段は選んでいられません」


 がっちりホールドして離さないのだと胸を張るテイラーに、オリヴィアはくらくらと眩暈を覚えた。

 テイラーもそろそろ結婚して幸せになるべきだと思っていたが、何やら危険な匂いがプンプンする。


(一生側にいてくれるのはすごく嬉しいけど、それはダメだと思うの!)


 さっきまでテイラーがいなくなるのは淋しいと思っていたのに、テイラーの発言を聞くとオリヴィアは何としてもテイラーに「一般的な結婚」をさせるべきだという使命感に駆られてきた。既成事実をもとに脅して手に入れて育児を丸投げなんて、選ばれた男性が可哀そうすぎる。


「だ、だめよテイラー。結婚は好きな人としないと」


 サイラスに恋するまで、結婚は家のためにするべきだという価値観を持っていたオリヴィアが言っても説得力はないかもしれないが、とにかくテイラーの考えを改めなければと必死になるオリヴィアに、テイラーがきょとんとする。


「当り前じゃないですか。好きでもない男と結婚なんてしませんよ」

「でも、さっき子育てを丸投げって……」

「そうですよ。わたくしの言うことを聞いてくれて子育ても全部引き受けてくれて、ずっとオリヴィア様の侍女でいさせてくれる男性なんて理想中の理想です。好きにならないはずがありません。確信しています」

「まだ出会ってもいないのに⁉」


 オリヴィアが頭を抱えると、テイラーはくすくすと笑う。


「オリヴィア様は難しく考えすぎなんですよ。少し肩の力を抜いてください」


 テイラーはそう言って、仕事に戻っていく。城のクローゼットを入れ替えているらしい。新しいドレスを入れて、もともとクローゼットにあったドレスを出している。


(……あれ? もしかして気を遣われた?)


 どこまで本気なのかは読めないが、テイラーの発言に脱力したこともあって、全身から力が抜けている。

 頭の中がすっきりして、視野が広くなったような感じがした。


(すぐに答えが出ないのはわかっていたことだもの。今はできることをすべきよね)


 オリヴィアが今すべきことは二つ。

 一つは言わずもがな、エバンス公爵家を探ること、

 もう一つは、エバンス公爵家を探っていると気づかれないように、カモフラージュをすることだ。


(自分の評価を上げるために、ほかの方法を取っているところを見せておかないといけないわ)


 そしてそれは、人の目につく方法がいい。誰かが噂して、グロリアやエバンス公爵の耳に入るような手段が理想だ。


「ねえテイラー。世間一般的に、貴族令嬢が自分の評価を上げようとする場合、どんな方法があると思う?」

「慈善活動がいいんじゃないですか? オリヴィア様、もともと孤児院とかに興味をお持ちだったじゃないですか」

「孤児院への慰問……そうね、いいかもしれないわ」


 母のブロンシュは、慈善活動に積極的だ。孤児院にもよく足を運び、お菓子や服などを差し入れしている。オリヴィアも何度かついて行ったことがあるし、孤児院で開かれるバザーに協力したこともある。


「テイラー、お菓子を包んでくれる?」


 今日はまだ時間がある。

 座って考え事をしていても生産的ではないので、それならばいっそ孤児院に出向こう。


「すぐご用意しますね」


 テイラーもオリヴィアの狙いがわかったのか、大きく頷いて棚に納められているお菓子を取り出してくる。オリヴィアの部屋には、サイラスやバーバラが差し入れてくれるので、お菓子が食べきれないだけあるのだ。


(孤児たちは昔に比べれば少なくなったとは聞くけれど、まだ捨てられる子は多いのよね)


 子供たちが捨てられる理由はまちまちだが、一番多いのは経済的理由だ。ブリオール国は平和な国だが、貧困問題がまったくないわけではない。この問題は、サイラスと結婚し、オリヴィアにある程度の権限が与えられたのちに着手したいとは思っていた。

 それは今すぐどうこうできる問題ではないが、将来のためにもしっかり見てこよう。


「ここから一番近い孤児院は、王都の端の修道院よね」


 オリヴィアは外套を羽織ると、テイラーと数名の護衛を連れて、孤児院へ向かった。





ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


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「婚約していないのに婚約破棄された私を、侯爵令息が求婚してきます」

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どうぞよろしくお願いいたします!

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あらすじ:

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