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【書籍化】王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います  作者: 狭山ひびき
SS

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ノベル③巻発売記念SS『過保護なサイラス』

ノベル③巻が12/20に発売されますので、記念SSを書きました!

X(Twitter)で行った投票の結果、前回に引き続き一番人気だったサイラス視点のSSです!

お楽しみいただけますと幸いです(*^^*)


ノベル③巻は、WEB版の第三話の後のお話(書下ろし)です。第三話を読んでいなくても問題ないようになっております。

③巻は女性陣が大活躍します☆王太后にサイラスとの婚約を反対されたオリヴィアが、バーバラと、もう一人の頼もしい協力者を得て奮闘するお話です!

オリヴィアはもとより、③巻はバーバラがカッコイイです~!ぜひお楽しみに!


「オリヴィアが倒れた⁉」


 サイラスは、手に持っていた書類を放り投げて叫んだ。

 数枚の書類がひらひらと天井から舞い落ちてくるのを見上げながら、コリンがあきれ顔でゆっくりと首を振る。


「倒れた、のではなく、寝込んだ、です」

「一緒だ!」

「どこがですか」

「倒れたから寝込んだんだろう⁉」


 部屋にいたリッツバーグが、床に落ちた書類を一生懸命かき集めていた。

 今サイラスが放り投げたのはなかなか重要な書類だったが、「オリヴィアが寝込んだ」という報告を受けたサイラスはもはやそんな書類など一顧だにしない。


「倒れてはいません。テイラーによると、オリヴィア様は朝から調子が悪そうだったそうですが、今日仕上げなければならない仕事があるからと無理に登城して、仕事を終えたあとで意識が朦朧としはじめたので、部屋で休ませて――って、あ! ちょっと殿下! 仕事は⁉」


 コリンの制止を無視して、サイラスは部屋から飛び出した。

 部屋で休ませているということは、オリヴィアはまだ城にいるということである。

 意識が朦朧としているのだから公爵家に帰宅できるはずもない。

 行儀悪くも廊下を駆け抜けたサイラスは、オリヴィアの部屋の扉を控えめに、しかし立て続けに五回もノックした。

 かちゃりと扉が開いて顔を出したのはテイラーである。


「テイラー、オリヴィアが倒れたって」

「倒れたというか、熱が出てお休みになっています。先ほどお城の侍医がいらっしゃってくださいまして診断していただきましたところ、季節性の風邪だろうと」


 風邪は感染するからと、テイラーが扉を大きく開いてくれない。

 小さく開いた扉からは中の様子がわからず、サイラスは焦れた。


「オリヴィアの顔が見たいんだけど」

「殿下に風邪を移しては大変ですからダメですよ。陛下が風邪が治るまではお城に泊まるようにと言ってくださいましたから、しばらくは侍医が診察してくださいますし、大丈夫ですから」


 城の侍医たちは、国の中でもトップクラスの医療技術を持った医者たちだ。

 テイラーは侍医が診察するから問題ないというが、問題があるかないかの話ではなく、サイラスがオリヴィアの側についていたいのである。


「僕は大丈夫だから」


 何とかテイラーを言いくるめて部屋の中に入ろうとしていると、コツコツとこちらに向かってくる足音がした。


「オリヴィアが熱を出したと聞いて来てみれば、やっぱりここにいたのね」


 あきれ声に振り返れば、そこには母のバーバラが立っていた。

 こめかみに手を当てて首を横に振っている。


「テイラー、騒がせてごめんなさいね。サイラス、オリヴィアは風邪を引いたのだから、部屋に入ってはいけません。季節性の風邪は感染力が高いのをあなたも知っているでしょう?」

「母上が風邪を引いたときには父上は部屋に入るじゃないですか」

「こういうときだけ都合よく父親を引っ張り出すのはおやめなさい」


 ぴしゃりと言われて、サイラスは小さく舌打ちした。

 テイラー一人ならいざ知らず、母まで出張ってくるとこのまま説得するのは厳しい。


(ここで騒いでいるとオリヴィアが起きるかもしれないし……。ここは出直すか)


 あんまりごねると、サイラスの行動に監視が付けられかねない。

 サイラスはここは聞き分けのいいふりをして引き下がっておくことに決めると、テイラーにオリヴィアの調子がよくなったら教えてほしいと伝えていったん執務室へ戻ることにした。

 熱に浮かされているオリヴィアを想像するだけで居ても経ってもいられなくなるが、ここはぐっと我慢である。


(とりあえず侍医を捕まえてオリヴィアの容体を確認だな)


 サイラスは急いで執務室に戻ると、リッツバーグが抱えている書類を猛然と処理し、コリンに今日の件の稽古は休むと告げると、城の医務室へ向かった。






(……よし、誰もいないな)


 夜。

 サイラスはバルコニーからオリヴィアの部屋のあるあたりを眺めていた。

 少し距離はあるが、バルコニーを伝えばたどり着けるはずである。

 さすがに昼間に堂々とバルコニーを伝ってオリヴィアの部屋へはいけないが、夜、見張りの兵士以外が寝静まった時間帯であれば問題なかろう。


(なんだか泥棒にでもなった気分だ)


 下に落ちないように慎重にバルコニーを伝っていき、ようやくオリヴィアの部屋のバルコニーにたどり着いたとき、サイラスはここで誤算に気が付いた。

 鍵がかかっているのである。

 まだ温かい季節なので、サイラスは窓を開けて寝ているが、考えてみればオリヴィアは女性だ。よくできた侍女テイラーが、主人の寝室の窓の鍵を開けたままにするはずがなかった。

 きっちりカーテンも引かれているので、中の様子をうかがうこともできない。


(どうしよう……)


 鍵がかかった部屋への侵入方法なんて、サイラスは知らない。

 扉の鍵であれば細い二本の針金があれば開けられるらしいというのは、推理小説だったか何だったかで読んだことがあるけれど、サイラスがいるのはバルコニー。目の前のガラス戸は内側からのみ鍵がかけられるもので、当然外に鍵穴なんてない。

 泥棒ならば、鍵の近くのガラスを割って開ける、という手段も取れるだろうが、サイラスは泥棒しに来たわけではないのだ。

 翌朝バルコニーの窓が割られていたら大騒ぎになるのは間違いない。


「諦めるか……。いやでも……」


 せっかくここまで来たのだ。せめて一目、オリヴィアの顔が見たい。

 侍医は安静にしていたら大丈夫だろうと言っていたが、熱で寝込んでいる恋人のことが心配ではないはずがなかった。

 つらい思いをしていないだろうか。

 熱は上がっていないだろうか。

 自分の目で様子を見るまで落ち着かないのだ。

 サイラスはバルコニーに座り込んで、何とかして鍵をあけられないものかと考え込む。


「ガラスを割らずに鍵を開ける方法……うーん……。外から鍵をかける方法なら何かで読んだことがある気がするけど……ああでも、最初に細工をしておかないとダメなんだったかな」


 もしかしたらオリヴィアなら知っているかもしれないが、彼女は今、このバルコニーのガラス戸の向こうにある部屋の中だ。

 考えたところで妙案は浮かんでこず、けれども諦めがつかずに、サイラスがうんうん唸っていたときだった。

 かたりと小さな物音がして、カーテンがわずかに開く。

 顔を上げたサイラスは、少しぼんやりとした顔をしたオリヴィアがカーテンの隙間から外を伺っているのを見て慌てて立ち上がった。


「オリヴィア!」

「……サイラス様?」


 熱のせいか潤んでいる目をきょとんと丸くして、オリヴィアがバルコニーの扉を開ける。


「どうしたんですか、こんなところで……」


 さすがのオリヴィアも、夜にサイラスがバルコニーを伝ってきたとは推測できなかったらしい。不思議そうな顔で夜の空を眺めて、それからバルコニーの上を見上げた。


「上から落ちてきたんですか……?」


 オリヴィアにしては間抜けなことを言う。


(たぶん、熱で頭が回っていないんだろうな)


 手を伸ばしてそっとオリヴィアの頬に触れれば、かなり熱く感じた。夜になって熱が上がりはじめたのかもしれない。


「起こしてごめん、オリヴィア。でも、休まないとダメだよ。ほら、部屋に入ろう?」


 どうしてサイラスがここにいるのかという疑問は、オリヴィアは深く考えないことにしたらしい。というより、恐らく頭を使うのがしんどいのだろう。ぼんやりした顔でこくりと頷くと、普段ならば真っ赤になって慌てるだろう彼女は、素直にベッドへ向かう。

 テイラーは控室で休んでいるようで、部屋の中にはオリヴィアしかいなかった。

 オリヴィアがベッドに横になると、サイラスはベッドサイドに水とタオルが用意されているのを見つけて、タオルを濡らして彼女の額に乗せてやる。

 冷たくて気持ちがいいのか、オリヴィアがふうと熱い息を吐き出した。


「大丈夫? つらくない? ほしいものはあるかな?」


 頭を撫でながら問えば、オリヴィアが目を細めて微笑む。


「大丈夫です。……ちょっと、心細かったので、サイラス様がいてくれて嬉しい……」


 熱のせいか、普段なら恥ずかしがって口に出さないことを言うオリヴィアに、サイラスは赤くなった。


(うわ、どうしよう。素直なオリヴィアって破壊力が……いや、いつも素直は素直なんだけど……)


 恥ずかしがり屋のオリヴィアは、甘えるような言葉はあまり言わない。

 表情や仕草を見ているとなんとなく伝わってくるので困りはしないのだが、やはり言葉にしてもらうと嬉しいものである。

 病人にキスをするのはまずいと思いつつ、一瞬だったらオリヴィアの負担にはならないのではないかと、必死に唇を奪うための言い訳を考える。

 躊躇っていると、オリヴィアが小さな笑い声を立てながら、ゆっくりと目を閉じた。

 誘われているのかと、つい身を乗り出してしまったサイラスはしかし、次の瞬間ぴたりと動きを止める。


「……夢にサイラス様が来てくれるなんて、幸せ」


 あと一センチで唇が届く距離で動きを止めたサイラスは、ぐしゃりと前髪を書き上げた。

 夢とうつつの区別もつかないほど体調の悪いオリヴィアに、何をしようとしていたのだろう。

 自己嫌悪に陥りながら、少しずり落ちたタオルを額に戻してやる。


「夢の中の僕が朝までそばにいるから、安心してお休み」


 オリヴィアの心の負担を考えると、このまま夢ということにしておいた方がよさそうだ。

 少し残念だが、こうしてオリヴィアの顔を見られただけで良しとしよう。

 嬉しそうに笑っていたオリヴィアが、やがて静かな寝息を立てはじめる。




 翌朝、テイラーが起きてくる前にバルコニーを伝って部屋に戻ったサイラスは、その二日後から熱を出して寝込むことになったのは、自業自得というもので。


 様子を見に来たバーバラに、「あなたまさか、オリヴィアの部屋にこっそり侵入したんじゃないでしょうね」と睨まれて、誤魔化しきれずに怒られたのもまた、自業自得だった。







お読みいただきありがとうございました!


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12/20➡王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います(ノベル)3巻

 レーベル:PASH!ブックス(主婦と生活社)様

 ISBN:978-4-391-16060-4

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 ISBN:978-4-04-114434-3

 漫画:白渕 こみ先生

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