エピローグ
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オリヴィアの推測したウィルソン国王の思惑は正しかったらしい。
エドワールとユージーナはウィルソン国王のもとから戻ると、ユージーナのこれまでの態度の理由を聞き、兄妹の関係が昔のように良好なものに戻るだろうと確信した国王は、とても喜んでいたらしい。
その後、ウィルソンはエドワールが儀式で認められた次期王であることを発表して、選定の儀式の終了を宣言した。
「帰国日程を後ろ倒しにしなくてすんでよかったですね」
国王夫妻とエドワールとエリザベート、ユージーナとイーノックに見送られて、オリヴィアとサイラスを乗せた馬車は、フィラルーシュの城をあとにした。
城が見えなくなってきたところで、馬車の帳を半分ほど降ろしながらオリヴィアが言えば、サイラスが馬車の天井に向かって大きく伸びをしながら「まったくだね」と頷く。
「滞在を延長なんてしたら、帰ったあとで父上がうるさかっただろうからね」
滞在の延長の理由を根掘り葉掘り聞かれるのは面倒くさいと、サイラスが笑う。
「そうですね。……でも、巻き込まれはしましたが、選定の儀式を行わなければ、エドワール殿下はユージーナ王女のことをまだ誤解したままだったでしょうから、結果を見ればよかったと思います」
「オリヴィアはお人よしだなあ。……まあ、エドワール殿下への借りは返せたし、むしろ今回のことでこちらに恩を感じているみたいだから、よしとしようかな。それにしても、エドワール殿下は、身内のことになると途端に冷静な判断ができなくなるタイプみたいだね。意外だったよ」
「それはわたくしも思いました」
エドワールのことは常に冷静で計算高い王太子だと思っていた。しかし、どうも妃のことになると盲目的になるようだ。驚いたけれど、逆に人間らしい一面が見えて、以前よりも好感が持てる気がする。
けれども、盲目的にエリザベートを愛して守ろうとするエドワールも、今回のことで多少なりとも考え方が変わったらしい。
自分が盾になって守るだけでは、本当の意味でエリザベートを守ることはできないと感じたのだろう。
エリザベートが王太子妃――のちの王妃という立場であれば、ただ周囲に強靭な盾を張り巡らせて大切に隠して守るだけではなく、エリザベート本人が周囲に認められるようにならなくてはならない。
エリザベートも今回のことでそれを痛感したようで、ユージーナに教えられながら、社交界での立ち回り方を学ぶらしい。エリザベートの場合、実家の身分は味方しないので、自分の実力だけで周囲を認めさせなくてはならないので、なかなか茨の道だろうけれど、夫とユージーナに支えられながら少しずつ改善していくのだと言っていた。
手始めに、モアナ・アーネット伯爵夫人を毅然とした態度で裁くことからはじめるらしい。
友人だと思っていた女性を自身の裁量で裁くのはなかなか勇気のいることだと思うけれど、目を背けて逃げることはしないと言ったエリザベートは前を見据えた強い目をしていたから大丈夫だろう。
「それで、僕たちの賭けのことだけど――」
馬車が王都から出たところで、ふと思い出したようにサイラスが言った。
サイラスとした賭けのことなどすっかり忘れていたオリヴィアはハッとして身構える。
どちらが早く選定の剣を見つけるかということで勝負をしていたのだが――この場合、どうなるのだろう。
(肖像画の裏の文字に最初に気が付いたのはサイラス様だから……わたしは負けたことになるのかしら? どうしましょう!?)
負けたら五秒以上のキスをして「大好き」とささやかなくてはならない。オリヴィアが青くなったり赤くなったりしながらおろおろしていると、サイラスが苦笑した。
「図書室に気づけたのはオリヴィアのおかげだし、君はウィルソン陛下の本当の目的にも気づいたわけだから……賭けは君の勝ちでいいよ」
「え?」
(いいの?)
てっきり自分が負けたと思っていたオリヴィアは、予想外の答えにきょとんと目をしばたたいた。
「帰ったら、約束通り君がほしい本を一冊あげるよ」
「本当ですか!?」
サイラスに勝ちを譲ってもらったような気がしなくもないが、後ろめたさはサイラスの本がもらえるという一言で遠くに飛んで行った。
ブリオール国に帰ったら、さっそくサイラスの部屋に行って、何をもらうか物色しなくては。
「帰るころには秋も終わりごろだろうね。予定では、婚約発表は冬の初めだったよね」
「はい、そう聞いています」
冬の初めには金の密輸問題も大方片づくだろうから、オリヴィアとサイラスの婚約発表と、それからアランの王太子位の返上の発表を行うのだとジュール国王が言っていた気がする。
オリヴィアのドレスは、アランのことへのお詫びもかねてバーバラ王妃が準備してくれると聞いていた。
(婚約発表が終わったら……すぐに結婚準備よね)
オリヴィアはもう十七歳。王族の結婚には最低でも一年以上の準備期間が設けられるので、すぐに結婚準備に取りかかることになる。
と言っても、妃教育は問題ないとワットールのお墨付きももらっているので、オリヴィアがすることと言えば、招待状の手配をしたり、ドレスの採寸をするくらいだ。あまり大きな変化はないだろう。
「これでようやく、君を婚約者だって堂々と連れ歩けるようになるね」
「連れ歩くって……サイラス様はあまりパーティーがお好きでなかったと記憶していますけど」
「囲まれるからね。でも、これからは君がいるから」
婚約者が決まっていなかったサイラスは、未婚の令嬢からすれば国で唯一の未婚の王子だ。競争率が高く、パーティーに顔を出そうものなら、すぐに周囲を取り囲まれてしまうので、サイラスはそれが嫌で必要最低限のパーティーにしか出席しなかったらしい。
しかしこれからはそんな心配もないし、むしろオリヴィアを見せびらかして歩けるから、今年は率先してあちこちのパーティーに顔を出すと言い出した。
「『僕の婚約者』っていい響きだよね。あちこちに言って回りたいよ」
「そ、そうですか……?」
オリヴィアは、サイラスに「僕の婚約者です」と多方面に紹介される場面を想像して、急に恥ずかしくなってきた。
わざわざ紹介して回らなくても、ジュール国王が発表するので国中の貴族が知ることになる。それなのに、サイラスはわざわざ言葉に出して紹介して回りたいらしい。
「そうだよ。……ずっと兄上が羨ましかったんだ。せめて今年の社交シーズンくらいは、僕に付き合ってくれると嬉しいな」
そう言う言い方をするのはずるいと思う。サイラスが実はずっとオリヴィアを好きでいてくれたことを知っているので、断れない。
オリヴィアが小さく頷くと、にこりと笑ったサイラスが、オリヴィアの入る座席に移動して来た。
肩に手が回されて、ぐいっと引き寄せられる。
遠慮がちに見上げれば、触れるだけの短いキスが落ちてきた。
赤くなったオリヴィアが俯くと、今度は頭のてっぺんにキスが落ちる。
「僕は兄上とは違って婚約破棄なんて絶対にしないから、君は一生僕のものだし、僕も一生君のものだよ」
一生――
当り前のようにそう言われることが、オリヴィアには少しくすぐったくて恥ずかしくて、でもすごくドキドキする。
気づけばオリヴィアも、自分でも驚くくらいにサイラスのことが好きになっていたらしい。
(大好きって……いつか、恥ずかしがらずに言ってみたいな)
サイラスが賭けで持ち出してくる必要がないくらい、自然に言えるようになってみたい。
サイラスにそっと体重を預けながら、オリヴィアはそんなことを思って目を閉じた。
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四話目書くと思いますが、開始まで少しお時間を頂戴いたします!
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☆11月13日追記☆
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