ユージーナの真意 5
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あと三回で、三話目を終わる予定ではありますが、八月は偶数日に投降します!
図書室の窓にはエドワールの側近に立ってもらって、オリヴィアたちはちょうど図書室の真下の庭に集合した。
「いいぞ、降ろせ」
エドワールの指示で、紐に先に小さな重りをつけたものを、二人の側近がそれぞれ下に向けてゆっくりと垂らしていく。
紐の先が地面に降りると、リッツバーグとコリンが測量をはじめ、オリヴィアは見取り図を手に、二階の図書室を見上げた。
隠し部屋にあった古い地図が選定の儀式に関係していて、読み取った「カルヴォベルクァ」という単語に間違いがないのならば、図書室に何らかの手掛かりがあるはずだ。
だが、闇雲に本棚を動かすことはできないので、おおよそ、どのあたりに違和感があるのかを特定しておきたい。
「オリヴィア、部屋の横の長さだけど、横幅が二十五メートルだったよ。それぞれの窓の端から壁までの長さを足しても、二十七、八メートルくらいかな」
「短いですよね?」
「うん。リッツバーグもそう言っていた。見取り図から考えると、横幅は三十五メートルくらいはあるはずだって」
すると、五メートルを超える誤差が生まれていることになる。
「見上げて右と左、どちら側にあきがあるかわかりますか?」
「リッツバーグに訊こう」
サイラスがリッツバーグを呼ぶと、彼はたくさんの数字が書かれた紙を持ってやって来た。城の見取り図から実際の大きさを計算するときにメモ書きしたものらしい。
リッツバーグは見取り図を見て、図書室の隣の部屋の大きさを考えながら、おそらく見上げて右側の壁が厚いだろうと言った。
「右側、ですか」
オリヴィアはもう一度図書室を見上げて、それからふと首をひねった。
「……右側に、一部屋ありそうですね」
「オリヴィア、何か見つけたの?」
オリヴィアは図書館の右隣りにある窓を指さした。
「あの窓だけ、ほかの窓と違う気がします」
「窓?」
サイラスが、オリヴィアが指を指しているあたりを見上げる。
「確かに、他と比べて小さいね。隣の窓との間隔も狭いし、高さも少し違う」
「見るからにカーテンもかかっていません」
「なるほど、確かにな」
オリヴィアとサイラスが話していると、背後からエドワールの声が割り込んできた。見ると、いつの間にか近くに来ていたようで、エドワールとユージーナが感心したように上を眺めている。
エドワールがすぐに人を呼んで図書室から人を追い出すようにと命じた。もともと図書室に来る人間はそれほど多くないらしいので、全員が図書室から出て行くのにそれほど時間はかからないだろう。
エドワールはそれから、手の空いている男性の使用人を数名図書室に集めるように指示を出す。本棚を動かさなくてはならないので、人では多いに越したことはない。
オリヴィアたちが図書室へ到着したとき、すでに図書室を使用していた人は外に出されて、使用人が十名ほど待機していた。
奥に隠し部屋があるだろうと踏んだ壁は、壁一面本棚で、端から端までびっしりと本が埋まっている。
本があるまま棚を動かすことはできそうもないので、ひとまず、手分けして本棚から本を抜き取ることにした。
オリヴィアとユージーナは手の届く範囲の本を、踏み台がなければ取ることができない場所の本は男性陣が作業する。抜き取った本は、読書スペースの机や椅子の上に積み重ねられた。
一時間かけてすべての本を抜き取ると、今度は男性陣が本棚を動かす。
オリヴィアとユージーナは危ないからと離れたところまで移動させられた。
棚が動かされるのをわくわくしながら見つめていると、中央の本棚があった場所の壁に、ドアノブのない扉があった。引き戸のようだ。
オリヴィアとユージーナが近づくと、エドワールが扉を開ける。
扉の奥の部屋は、ほかの隠し部屋と違って窓があるから明るかった。
部屋の中には小さな本棚と、机、椅子があって、壁には一枚の絵がかけられていた。
「バティスト一世の肖像画のようですわね」
城の宝物庫には、バティスト一世の肖像画がいくつか存在しているそうで、子供のころそこを遊び場にしていたユージーナとエドワールには、これが初代国王の肖像画だと一目でわかるらしい。
「ここにだけ肖像画が飾られているのには、何か意味があるのかな?」
サイラスがそう言って、肖像画を壁から外した。何気なくひっくり返して、なるほど、と薄く笑う。
オリヴィアもサイラスの手元を覗き込んで、大きく頷いた。
「選定の剣のありかがわかりましたよ」
「なに?」
「どこですの?」
エドワールとユージーナも肖像画の裏を見て、そこに書いてあった文章に二人ともが軽く眉を寄せた。
「……古語ですわね」
「そうだな」
エドワールは古語が苦手だと言っていたが、ユージーナもそうらしい。しかし、オリヴィアが声に出して読んであげようとすると、エドワールが、自分で読むと首を振った。
「儀式については君たちに頼りすぎているからね、このくらい、自分で読むよ」
「ええ、そうですわね」
サイラスがエドワールに肖像画を手渡すと、エドワールとユージーナは顔を突き合わせて相談しながら、肖像画の裏に書かれている文章を解読していく。
それほど長い文章ではないから、時間はかからないだろう。
十五分ほどそうしていた二人が、何とも言えない表情でそろって顔をあげた。
「選定の剣は、国王の部屋にある。玉座を継ぐ者が取りに来い――これであってるかな?」
「はい。わたくしにもそう読めました」
すると、ユージーナが腹立たしそうに爪を噛んだ。
「なんでしょう、なんだか無性に腹立たしくなってきましたわ」
「これだけあちこちを駆けずり回って父上の手元だからな」
文句の一つでも言わないと気が済まないと憤慨しながら、ユージーナが肖像画を壁にかけなおした。そして、エドワールを振り返る。
「玉座を継ぐ者がということですもの。お兄様、あとはお任せしますわね」
「ああ、わかった」
「いえ、陛下のもとにはお二人で行かれた方がいいと思います」
オリヴィアが口を挟むと、エドワールとユージーナが不思議そうな顔をした。
「あら、でも、次期王はお兄様ですわよ? わたくしがついて行っても仕方がないでしょう?」
「肖像画の文章から言えばそうですけど……そうじゃないんです」
オリヴィアは一度サイラスと顔を見合わせて、彼が頷くのを待ってから口を開いた。











