ユージーナの真意 3
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モアナはひとまず自宅で謹慎処分となった。
選定の儀式の最中に起きたことはエドワールとユージーナが判断すべきことなので、今後のモアナの処分をどうするのかは、二人で話し合って決めるようだ。
モアナの行動は、エリザベートを陥れるためのものだったらしい。
結果を見ると実にお粗末だったとは思うが、どうやら彼女は、エリザベートがオリヴィアを閉じ込めたと聞いたユージーナが激怒し、エリザベートを強く批判するだろうと思っていたらしかった。
他国からの賓客に害をなそうとした王太子妃――真偽のほどは関係なく、そのような噂が広がることを目的としていたようだ。モアナの思惑通りに進んでいたら、社交界での評価があまり高くないエリザベートにとってはかなりの痛手だっただろう。
もちろん、モアナも無傷とは言えない。だが、そうまでしても、エリザベートを陥れたかったのかと、オリヴィアはやるせない気持ちになる。
ブリオール国にも謝罪をと言われたが、ことを大きくしたくないので、サイラスとも相談して、それは丁重にお断りすることにした。
オリヴィアとサイラスは、エドワールとユージーナたちとともに、昨夜オリヴィアが閉じ込められた兵士の宿舎を訪れている。
これまで妻に対するあたりが強いと、妹に怒っていたエドワールは、まだ感情が整理しきれないのか、どこか浮かない顔をしていた。
ユージーナは逆にすっきりした様子で、穏やかな表情を浮かべている。
イーノックは今日は外せない用事があるとかで不在で、エリザベートも、朝から侍医の診察があるのでここにはいない。
オリヴィアとテイラーはモアナにここに閉じ込められたけれど、一つだけ彼女に感謝していることがある。それはここに本当に隠し部屋があったことだ。
「かなり広いな」
燭台を手に隠し部屋へ入ったエドワールが、部屋の中をぐるりと見渡して言った。
ほかの隠し部屋と同じように、部屋にはあまりものが置かれていない。
古い椅子と、机、それからほかの部屋でも見た、古い地図が壁にかけられていた。
「ここの地図のピンは、ヴォモーザという町に刺してあるよ」
地図を確かめていたサイラスが、地図上に古語で書かれている地名を読み上げる。
「この地図はいったい何なのかしらね」
ユージーナが地図を前に首をひねった。
これで、発見した地図は五枚。どれも古い地図であることは同じだが、ピンが刺してある地名は異なる。古い地図であること以外の共通点はないとエドワールは言うが、オリヴィアにはこれが何かをヒントである気がしてならなかった。
「他に何も手掛かりはなさそうだ。念のため残りの二つの宿舎も見て回ろう」
「そうですね……」
残り二つの宿舎にも隠し部屋があるかもしれない。古い地図のことは気になるが、ほかに手掛かりになりそうなものはないので、いつまでもここにいても仕方がない。
宿舎の扉を施錠して、エドワールが先導して次の宿舎へ向かう。
半歩うしろをついて歩くユージーナを、時折、エドワールが気にしたように振り返るのが印象的だった。
「エドワール殿下はあれでプライドが高そうだから、どう話しかけていいのかわからないんだろうね」
サイラスがぽそりとオリヴィアの耳元でささやく。
確かに、エドワールの様子を見ていると、これまでのことを謝罪したり、感謝の意を伝えたりしたいのに、なかなか切り出せないように見えた。
「わたくしたち、お邪魔でしょうか?」
「そうだね、少し離れてみる?」
人目があれば話しにくいだろう。
オリヴィアとサイラスはわざと歩く速度を落として、エドワールとユージーナとの間に距離をあける。
自然を装いつつ離れていくと、少しして、エドワールが、意を決したようにユージーナに話しかけた。
ユージーナが笑顔でそれに応じている。
「……結果だけ見れば、ウィルソン陛下の思惑通りになりましたね」
「うん? どういうこと?」
オリヴィアは「まだ秘密ですよ」と口元に指を立てて、サイラスに小声で説明すると、彼は目を丸くした後で、ぷっと吹き出した。
「なるほど……ウィルソン陛下は、同じ化け狐や化け狸でも、何というか、可愛らしいね」
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