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【書籍化】王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います  作者: 狭山ひびき
第三話

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閉じ込められたオリヴィア 6

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 パタパタと複数の足音が聞こえてきて、オリヴィアはハッと顔をあげた。

 室内がすっかり暗くなってしまったので、無闇に動き回るのは危険だと、オリヴィアとともに椅子に座ってじっとしていたテイラーも腰を浮かす。

 目はすっかり暗闇に慣れていたので、部屋の中の様子はぼんやりとだがわかる。

 テイラーとオリヴィアは慎重に部屋の出入り口まで向かって、拳で扉を叩きながら外に向かって呼びかけた。


「どなたかいらっしゃいますか?」

「助けてくださいませ!」


 オリヴィアの隣で、テイラーがドンドンと激しく扉を叩いた。

 すぐに外から「オリヴィア!?」と声が聞こえてきて、オリヴィアの全身から力が抜けそうになる。

 サイラスの声だった。やはり、探しに来てくれたのだ。


「どうしてこんなところに……鍵を開けるから少し待ってて!」


 言葉通り、がちゃがちゃと鍵を開ける音がして、ギイっと扉が外に向かって開いた。

 ほっと息をついたオリヴィアが、部屋の外に出るよりも早く、部屋の中に飛び込んできたサイラスによってぎゅうっと抱きしめられる。

 その腕の力の強さに、どれだけ心配をかけてしまったのかがわかって、早く謝罪しなければと思うのに――どうしてか、オリヴィアは何の言葉を発することもできなかった。


 サイラスの胸に顔をうずめて、大きく息を吸い込む。

 サイラスが探しに来てくれると信じていたし、テイラーもそばにいたし、閉じ込められたのも時間にして六、七時間程度のことで、飢えて苦しかったわけでもない。


 それなのに、サイラスのぬくもりに安心したのか、涙がこぼれそうになってくる。

 自分が理解している以上に、オリヴィアは閉じ込められたことが不安で仕方がなかったのかもしれない。頭で大丈夫だと理解していても、心がそれに追いついていなかったようだ。

 必死に溢れそうになる涙と戦っていると、それに気が付いたサイラスが、そっと頭を撫でてくれる。

 外で、エドワールたちが何かを話しているのがわかったが、すぐには顔をあげられない。


「怪我はない?」

「……はい」

「いろいろ訊きたいことはあるけど、ひとまず部屋に帰ろうか。報告はエドワール殿下たちがしてくれるみたいだし。テイラーも……ええっと、元気そうだけど」


 サイラスが顔をあげて苦笑する。

 オリヴィアも一度深呼吸をしてサイラスの腕の中で顔をあげると、テイラーがコリンに向かって、閉じ込められたのだとぷんぷん怒りながら文句を言っていた。

 今にもモアナのもとへ殴り込みに行きそうな勢いのテイラーを、コリンがなだめているのが見える。


 テイラーはよく感情的になるが、侍女としては優秀なので、さすがにここでモアナ・アーネット伯爵夫人の名前は出さないけれど、あの剣幕ならいつぽろりと口を滑らせるかわからない。

 サイラスの言う通り、部屋に移動したほうがよさそうだ。


 部屋に戻ると、晩餐の時間はすぎていたので、軽食が用意された。

 サイラスもコリンもリッツバーグも何も食べずにオリヴィアたちを探してくれていたので、話をする前にみんなで軽く食事を取る。

 エドワールとエリザベートも、食事を取ってからオリヴィアの部屋に来るそうだ。

 オリヴィアたちが食事を取って一息ついたころにエドワールたちがやってきて、どうして閉じ込められていたのか説明を求められたので、オリヴィアが地下にいたときにモアナ・アーネット伯爵夫人に呼ばれて、一緒にあの部屋に向かったことを告げる。


「灯りを持ってきてくださると部屋を出て行かれたのですけど、そのときに鍵がかけられてしまって、そのまま……」

「そんな、モアナが……?」


 エリザベートが両手で口を覆って、息を呑んだ。

 エリザベートはモアナと友人関係にある。身重の彼女に心労は与えたくないので、オリヴィアは慎重に言葉を選んだ。


「閉じ込められたと決まったわけではありません。たまたま何か事情があって戻ってこられなかっただけかもしれませんもの」

「たまたまって……たまたま何時間も他国の賓客を閉じ込める事情なんて、存在するかい?」


 エドワールが、はあ、と息をついて首を横にふる。


「エリザベートのことを思ってくれるのはありがたいが、さすがにこれは大問題だ。たまたまとか偶然とか適当な理由をつけて放置していい問題じゃない」

「それについては同意見ですね。オリヴィアを閉じ込めたんです、相応の理由がなければ納得できませんよ」


 サイラスがすっと目を細める。微笑んでいるようにも見えるけれど、これは怒っているときの顔だ。オリヴィアはあまり大ごとにしたくないけれど、サイラスが怒っている以上、何もありませんでしたと流すことはできないだろう。

 エリザベートは青い顔をしていたが、ここで友人をかばうような発言はしない。彼女が何も言わない以上、オリヴィアが下手に口をはさむべきではなさそうだ。


「今日は遅い。明日、モアナ・アーネット伯爵夫人を城に呼んで、説明させる。いいね?」


 エドワールがエリザベートに確認するように言うと、彼女は一度ぎゅっと目をつむって、それから大きく頷いた。


「はい。わたくしも……モアナがどうしてそんなことをしたのか、知りたいですから」





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