閉じ込められたオリヴィア 3
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
「オリヴィアがまだ帰ってない?」
二階を調べ終わって、夕食までの時間をオリヴィアとすごそうと、彼女の部屋を訪ねたサイラスは、オリヴィアの部屋の前で警護に当たっていた護衛官から、オリヴィアが不在にしていると聞いて訝しんだ。
夕食は、ウィルソン国王夫妻たちと一緒にとる。いつものオリヴィアならば、晩餐のために着替えをすませて、本を読んでいる時間だ。
サイラスが本日、オリヴィアを最後に見たのは昼食のときだった。
他愛ない話をしながら食事を終え、別れ際に予定を訊ねると、オリヴィアは読書をすると言っていた。それなのに部屋にいないのはおかしい。
部屋の主がいないときに勝手に入るのは気が引けたが、どうにも気になったサイラスはオリヴィアの部屋の中に足を踏み入れた。
テーブルの上には飲みかけのミルクティーと、広げられたフィラルーシュの地図、革張りの一冊の分厚い本、そしてオリヴィアが書いたと思われるメモ書きが残されていた。
サイラスは本をまず手に取って、中を確かめたあと、オリヴィアのメモ書きに視線を落とした。
「カザヴェ、ルチェル、ベルーチェ、クァルーツェ……隠し部屋にあった地図を調べていたのか」
これらの地名には、サイラスも興味を引かれていた。だからリッツバーグに言って調べさせていたのだが、オリヴィアは初代国王の伝記から調べることにしたようだ。
(地名の順番を並び替えているってことは、オリヴィアは何か法則性を探していたのか)
だが、途中で席を立った。ミルクティーを飲みかけたまま部屋を出て行ったということは、誰かに呼ばれたか、何か気になったことがあったかのどちらかだろう。テイラーまでいないとなると、おそらく後者ではないかとサイラスは推測した。選定の儀式について思いついたことがあったか何かで、テイラーとともに出かけたのだと考えられる。
本を置いて、サイラスは何げなく寝室を覗き込んだ。
ベッドの上に無造作にドレスが置かれている。
「ドレスを着替えたのか。……でも、このドレスは部屋着ではなさそうだから、外出するのにわざわざ着替える必要もなかったはずだけど」
フィラルーシュの城に滞在している以上、オリヴィアはいつ誰に呼ばれてもいいように、毎朝きちんとしたドレスに着替えている。晩餐のために着替えるのならばわかるが、日中に呼ばれてわざわざ着替える必要なない。
オリヴィアの部屋の前にいた護衛官は、オリヴィアは昼すぎに出かけたと言っていた。ならば、晩餐のために着替えたわけではないのは確かだ。
オリヴィアが何のために着替えたのか無性に気になったサイラスは、部屋の外に立っている護衛官に、彼女が部屋を出る際にどのような格好をしていたのか訊いてみた。
「格好ですか? ええっと、紺色の……その、侍女と同じような服を着ていらっしゃいました」
「侍女と同じような服?」
オリヴィアが侍女のお仕着せを持っているとは思えない。するとテイラーの持ち物だろうか。
(でも、どうしてそんな服を? オリヴィアが自身で選んでも、テイラーが認めなければそのような格好をするはずがない……つまり、テイラーもオリヴィアが侍女のお仕着せを着ることをよしとしたということだ。でも、どうして?)
侍女のお仕着せを着て出かけた以上、オリヴィアは貴族や王族に呼ばれて部屋を出たわけではなさそうだ。
(となると、隠し部屋の探索……うん、それ以外になさそうだな)
おそらく、侍女のお仕着せを着たのはドレスが汚れることを考慮してのことだろう。すると、オリヴィアは服が汚れるかもしれない場所を探しに行ったのだ。そして、まだ戻って来ていない。
サイラスはさっと顔色を変えた。
来賓として――ブリオール国の顔として招かれている以上、オリヴィアが晩餐の時間を忘れて何かに没頭することはあり得ない。
サイラスは慌てて自分の部屋に戻ると、コリンとリッツバーグに、城の使用人にオリヴィアの姿を見なかったか訊いて回るように頼んだ。
そして、自分は急いでエドワールの部屋へ向かう。
(オリヴィアに何かあったのかもしれない……!)











